第45話 反省会

 <天翼大器ミラ> 4

 手札の<天使>カードを相手に公開するか、セメタリーの<天使>カードをデッキの一番下に戻すことで使用することができる

 これをプレイヤーに[装備]する

 装備したプレイヤーのアタックを2000上げる

 3回攻撃を行うとこの[装備]は破壊される

 一度もこの[装備]で攻撃をしていない時のみ発動できる

 攻撃する代わりに、相手フィールド上のユニット全てに2000ダメージを与える。

 これを発動した場合、この[装備]は破壊される。


 このカードは所謂「やらかした」カードである。

 性能もシーズン6時点でかなりやらかしてるのだが、何よりもやらかしたのはこのカードがシーズン7のカードなのにシーズン6期間中に先行配布された事だ。

 このカードの存在自体はかなり早い段階から知られていた、シーズン6中期に出たガイドブックにひっそりと掲載されていたからだ。

 だが一向にパックからは排出されず、書籍か漫画の付録カードか?と皆噂していた。


 <機械天使>デッキはシーズン6中に放送されていたアニメのヒロインの使用デッキで、シーズン6最終盤、このカードでヒロインが敵の女幹部(エロい)に大逆転勝利し、その回の放送後抽選で50名様にシーズン7での本販売より3ヶ月先行でプレゼントされることになった。

 ここまではまだ良かった。

 だがカードラプト開発運営が大ポカをやらかした。

 <天翼大器ミラ>の当選者への発送後に翌月に控えた全国大会で使用可能である、と発表してしまったのだ。

 この<天翼大器ミラ>は今の基準でも結構強い、シーズン11で主流の<熾天使>デッキにも投入されている。

 当時基準であれば相当の強さだ。

 そうするとどうなるか、わずか50枚を全国のコレクターや大会出場者で奪い合ったのだ。

 転売に次ぐ転売に情報戦、強盗未遂まで発生しSNSは荒れに荒れた。

 間違いなくカードラプトの歴史上TOP3に入る大炎上で、全国大会にこのカードを携えて出場した選手がいたものの上位入賞はすることはなかったのが唯一の救いであった。そしてこの事態を重く見たカードラプト運営は<天翼大器ミラ>をシーズン7が開始するまでは使用禁止とする措置を取り、色々と火種を残しながらもなんとか問題は収束した、という経緯がある。


 つまり、<天翼大器ミラ>はシーズン6に登場するも殆どの人間は手に入れる事ができなかったカードなのだ。

 ヘルオード家はそのプレイングやデッキ構成から察するに明らかに俺の世界の人間の入れ知恵が入ってる。

 だからもしかしたらこのカードの情報もあるのではないか、と思ったがその通りだったようだ。


「目録の中で最後まで見つからなかった<天翼大器ミラ>をなんでお前が……」

「もう1枚も確認どうぞ」

「ん?」

 <いたずら天使 ハッチ>1 2000/1000

 ワースカード

[クイック](このカードはフィールドに出た時、すぐに攻撃できる)

 フィールド上に<天使>カードが出た時に発動できる

 デッキのこのカードはフィールドに召喚される



「ワースカード……こんなものが……?」

「貴方ほどの腕ならば使えば強さがわかると思いますよ」

 <いたずら天使 ハッチ>。

 このカードは現段階のカードラプトにあるカードで恐らくTOP3に入る最強カードだ。

 一件弱そうに見えるが一度使えばこのカードがどれだけ強いかは分かってもらえるはず。


「ともあれ、この2枚のカードで先程の条件、飲んで頂けますでしょうか」

「……」


 ヘンリエッタさんはカードをテーブルに戻し目をつぶって腕を組み、考えている。

 足りなかったか…?

 しかしこの2枚はかなり強いカードで、他の貴族家とヘルオード家のデッキの強さを考えるとこれ以上の提供は現時点では無理だ。


「……こちらも1つ、条件がある」


 ヘンリエッタさんが熟考の後、思い口を開く。


「……なんでしょうか」

「選抜が終わった後、うちの領地への一度来て貰う。当然嫁さん達も一緒だ」


 俺は第一王子とキャニスさんに視線を振る、視界の端で両人共小さく頷いている。


「分かりました、ご招待をお受けします」

「商談成立だ、お前の事は以前から私らも目をつけていたハルモニア家子飼いの遺跡研究者というていで扱ってやる、ヘルオード召喚の為の呪文は後日聞き取りに行く、準備しておけ。それでそちらもでいいな?」

「問題ない」

「それで良い」


 第一王子とキャニスさんが答える。


「テンマの坊主よ、ちょっと聞かせてくれ」

「なんでしょうか」

「私の、いやヘルオード家のデッキはお前にどう見える?」

「……強さという面でみればとても強いです。完成されたデッキだと思います」

「そうか、そうなんだな」


 ふっふっふ、とヘンリエッタさんが笑う。

 怖すぎるだろこの人…。


「お前ら一家の訪問を楽しみにしている、あと最後に」

「はい?」

「お前んとこの5人の嫁は全員私の教え子だ、誰か1人でも泣かしたら殺す、どこに逃げても殺す」

「ガンバリマス」



 その日一番の殺気を放ってヘンリエッタさんはその場から退室した。






「ふう……落第だな」


 第一王子がため息を付きながら言う。

 俺はその目の前で正座している。

 第二ラウンドである反省会が始まったのだ。



「本来であれば私が条件について横槍を入れた時点で妹婿である君が話を引き取らねばならなかった場面だ、お陰で必要以上の借りを向こうに作ってしまった」

「テンマよ、お前はもう貴族なのだ。笑って誤魔化していれば許される時期は過ぎたのだぞ」

「すみません……」


 第一王子とキャニスさんのダメ出しが俺に突き刺さる。


「テンマ、お前がしっかりしなければカスミ夫人が、クレアが、トリッシュが、シオンがナギが危険に晒される。その喉と舌に5人の命がかかっているのだ。子ができればそれも背負うし、屋敷を持てば使用人の生活も背負う事になる、貴族の言葉とはそれほど重要なのだ」

「うう……」


 キャニスさんから更に追撃。

 いやほんとおっしゃる通りです……。


「……とはいえ、だ」


 お?


「ヘンリエッタ殿に臆さず条件を突きつけた点は評価してやろう」


 そう言うのは第一王子、落として上げるのが上手いわ本当……。


「あやつの機嫌が良かったのにも助けられましたな」

「女性陣に来てもらったのは正解でしたね」


 キャニスさんとウィルが続ける。


「あ、あれで機嫌良かったんですか……?そこのソファの手すり砕けてますけど…」

「ヘンリエッタが本当に機嫌が悪いと身分が同格以下の者には何かしらのヘマをしたらまず腰に下げた棍棒で四肢のどこかを殴った上で話をしてくるからな」

「……へ、へぇ~」


 さも当然のように言う第一王子。

 バケモンじゃん…。


「とはいえ、あやつの立ち振舞はある程度理解してやらねばならぬ」

「というと……?」


 俺の問いにキャニスさんが答える。


「さっきも言ったが、貴族にはその喉と舌に何人もの命がかかっておる。部屋の外にヘンリエッタの付きの者が待機しておったろう、今回の恫喝も半分はあやつらに聞かせる為の物よ」


 そういえば走って戻ってきた時にドアの前にいた男女の2人組に珍獣を見るような目で見られたな…。


「そうだな……例えばお前がワシの部下としよう、お前が護衛している時に部屋からワシの声が聞こえたとする。その会話の内容が自分より立場が下の貴族に対してこちらの否がないのに下手に出ていたり、あまり強い態度を取らずに意見を受け入れていたらお前はどう思う?」

「まあ……事情があるのかもしれませんがちょっと頼りなく思うかもしれないですね」

「そういう事だ、今回で言えばテンマの言い分を聞くためにカーネル様から失言を引き出し、テンマからはカード2枚とヘルオード召喚の呪文を引き出した、その上で始終強気の対応を崩さなかった。こうすることで部下はこう思うじゃろう、今回の一件は次期国王から成果を獲得したヘンリエッタの勝利だったと」

「なるほど……」

「あやつがあの態度で許されておるのは強いからだ、その強さの根拠と担保は国内選抜や対抗戦の結果だ、順位が下がればそれも揺らぐ。だが相応の理由があれば家臣も納得する、その納得を作る為の部下向けのパフォーマンスも兼ねている訳だ」

「私が憎まれ役、というか泥を被るのも想定された事態であった故今回は別に失点という事ではない。ヘルオード家に最初に声を掛けないと決めた時点でこうなることは父も私も予測していた事だ。ただそれと君の割り込みが遅かった事は別だがな」


 第一王子の言葉の槍が追加で飛んでくる。

 必要以上の借りってのはそういうことか……。


「お前もこの対抗戦後には部下を持つ事になる、あやつの言葉を借りるのであれば周りから用意されたものであるが立場が人を作るとも言う。部下に見られてる事も考慮して発言せよ。特に謝罪のタイミングは慎重にな、娘婿殿」


 キャニスさんにそう諭される。

 謝罪のタイミングかあ……考えたことなかったな。

 それじゃダメなんだろうな今後は。


「それと、恐らくだがヘンリエッタ殿は君の事をそれなりに気に入ったと思う」


 凄まじい爆弾発言をかます第一王子にそれに同意するように頷くキャニスさん。


「あれでですか?」

「あれでだ。ヘンリエッタ殿は特に女性の立場を大事にする方だからな」

「この会談の前に国まるごと世話になってるからって言ってたじゃない?あれは女性への対応を彼女が担ってるって点も含めての事なんだよ」

「あやつが常に国内を威嚇しているお陰で若い連中がなんとかギリギリ踏みとどまってる点は否定できん、それでも最近は押さえつけるのが難しくなっているが」

「話してわかったと思うけどあの人は勘も異常に鋭いからね、大抵の隠し事はすぐバレちゃう訳。でまあ5人のお嫁さん抱えてて全員からの評判も悪くない、割と学校では男性に対して強気に対応していたクレアがああまで懐いてるという点からしても信用に足る人物だというのは認識したと思うよ」

「何より自領にお前を招待したという点がある。カスミ夫人やクレアではなくお前を呼んだというのは敬意の表れでもある、あやつは気に入らない人間の場合嫁を呼ぶからな、嫁のついでに来い、という事だ。」


 招待に関しては打算も大いにあるだろうがな、とキャニスさんは言い捨てる。

 なるほど、男性の女性に対する加害に対しての防波堤になってる訳か。


「ていうかクレアって学生時代そんなだったんですね」

「ああ、<光響>デッキを渡してた関係で学内でも結構強かったからね。その関係でうるさく思われてたとは自分でも言っていたよ。そのせいで同年代の貴族令息は嫌いになったみたいだけどね……」

「そしてその未婚で王城に務めると言っておった我が娘が自分の旦那と人前でああも逢瀬を重ねているのだ、衝撃を受けた貴族もおろうな。私もその1人よ」

「い、いやあれはカスミが他の人間に仲良くしてるところを見せつけないといけないと……」

「いいんだよお義兄さん、ちょっと目に毒だけど仲悪いより全然良いのだから」

「そうだ、政治の都合で嫁がせたとは言え我が子が幸せになる事を願わぬ親などおらんからな、娘婿よ」

「私もカスミから報告を聞いている、これからも仲良くして貰うぞ義弟よ」

「は、はいぃ……」


 親戚3人から適度な圧がかけられ、反省会は終了した。

 言われなくても仲良くしてますって!泣かせませんよ!ラブラブですから!








「大変でしたね、テンマ様」

「いや、本当だよ…」


 激闘を終え疲労困憊で部屋に戻った俺を優しく後ろから抱きとめてくれているのはシオンだ。

 俺は俺でシオンにすがって椅子のようにしている、シオンの体格が俺より大きいからこそできることだ。

 カスミには流石にそれはマズいから外ではやるなと言われたがお互いに気に入ってるのでこういう家族だけの時には積極的にやって貰ってる。


「悪い人ではないのよ、ヘンリエッタ様は」


 カスミが苦笑しつつフォローする。


「ああ、分かってる。学生時代に皆守ってもらったってウィルから聞いたよ」

「たまに抜き打ちで来て学校徘徊していざこざ起きてるととりあえず男子を殴ってましたね、一度現場に居合わせました」

「事情とか聞かないのか…」

「言い方は悪いのですが、基本的にトラブルの発端の大部分は男子なので、トラブルが発生していたら男子の方を制圧していると前に…」

「国内貴族であの人に意見できる人はパパしかいないし、パパはパパで自分の身内がやられてもよっぽどじゃなければ放置するからね」


 懐かしいわ、と言いながらカスミが温めたミルクを啜る。

 今夜はトリッシュが明日試合ということで何もしないことに決めている。

 トリッシュは一足先に就寝し、ナギとクレアは俺を待ってる間に寝てしまったらしい。


「しかし、話には聞いてるけど本当に学校の…特に男の子が酷いみたいだね、俺その酷いところに赴任するんだけど大丈夫かなあ」

「教師が生徒をおいそれと止めれないという点があるんです、さんざん言われてますが、教える側も教わる側も貴族なので、寄り親の子供を叱りつけたりするのはできない、と怖気づいてる方が大半で」

「それで贔屓とか言われちゃって他の子も教師の言う事聞かなくなっちゃうのよね……王族が教鞭を取ってた時期もあったのだけど今度は生徒側が必要以上に萎縮しちゃってうまくいかなかったみたい」

「難しいんだなあ」

「ヘンリエッタ様を校長に、という動きは何度もあったのだけどね。それやると対抗戦に出場できないから」

「前回はついにヘンリエッタ様以外負けちゃいましたからね……我が家の事とはいえ不甲斐ない事です」


 カスミとシオンが一緒にため息を付く。


「そんなだと、女性陣はあんまり学校にいい思い出がないって感じなのかな」

「私はまがりなりにも王族だったからかなりマシだったけど、クレアは本当に苦労してたわよ、仲は良かったけど学年が違うから守るのも限界あったもの。テンマが教師になるって話に一番拒否反応示してたの彼女だしね。本人には口が裂けても言わないだろうけど」


 む、そうなのか。

 フォローせにゃならんな…。


「ナギさんもタケハヤ家の戦績が下降していた時期に入学してしまった為短い時間ですがかなり手酷く悪口を言われたと……」

「いじめとかそういうのじゃないのよね……召喚貴族は勝利こそ史上というのが根付いてるから強い家・強い自分は弱いやつより優遇されるべき、みたいな考えからトラブルが起こるというか……パパもこの時期に卒業した連中が代替わりして家長になると考えると頭が痛いと愚痴っていたわ」

「そう考えると宙に浮いた強いデッキ持ってる俺が教師にされるのも仕方ないといえば仕方ないのか」


 任命される側はたまったもんじゃないけどね。


「私は一応親が対抗戦に出場していたので在学中はそこまでではなかったですが、見合いのときが酷かったですね、私の不器用さ口下手さも悪いのですが……」

「だからね、なんっっかいも言ってるけど5人全員テンマには感謝してるのよ、多分テンマ自身が思ってるよりもずっと」

「その通りです」


 カスミの言葉にシオンがうんうんと同意する。


「褒められてると受け取っておくよ、ありがとう」

「さ、もう寝ましょ?明日も大変よ」

「4試合観戦しないとですからね」

「全部見ないとだもんな」



 俺は3人が寝ているベッドにシオンとカスミと一緒に潜り、久々の静かな夜を過ごした。


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年末年始は仕事の繁忙期と重なりますので、更新が不定期になる可能性があります

ご了承下さい。

次回更新は12/21(水)となります


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