第43話 恐ろしきヘルオード家
光響聖騎士ハルモニア 3/4000/5000
<光響>と名の付くコスト3のユニット+コスト3のユニット
OU:このカードが戦闘する時に発動できる
戦闘中のみアタックを+5000する
相手ターンの終わりまでタフネスへのダメージを一度だけ0にする
<光響聖騎士ハルモニア>の姿が観衆に晒され、会場は大歓声に包まれた
そして大盛り上がりの観客と対象的はハルモニア家側関係者席は鎮静を保っていた。
「おお…」
「あれが…」
「生きているうちにお目にかかれるとは…」
そう、関係者全員大号泣である。
拝んでいる人までいる。
「泣くほど嬉しいものなんだな…」
「ええ、それはもう。我が家のシンボルですもの…」
そう言ったクレアの目尻にもうっすら涙が浮かんでいる。
俺はそれを見ないフリして頭を撫でる。
ちょっとデリカシーなかったな今のは…。
「なるほどな…」
ヘンリエッタは顎に手を当てハルモニアとウィルを交互に睨む。
「私らに隠れてコソコソと、面白い事やってたワケか」
「隠れて、とは人聞きが悪い」
「ともあれ面白い、色々と見せてもらおうじゃないか」
「では遠慮なく、…<光響聖騎士ハルモニア>のOUを発動し<機械天使ファーレウム>をアタック!」
<光響聖騎士ハルモニア>が大きくグレートソードを振りかぶり、<機械天使ファーレウム>を両断する、OUの効果で当然ダメージはない。
「<光響軍曹ガトラ>でプレイヤーを攻撃し、<光響守備隊エンスタ>を2マナで召喚し、ターンを終了します」
光響守備隊エンスタ2/2000/2000
このカードは追加で3マナを支払って召喚する事もできる。
その場合アタックとタフネスが+3000される
2マナと5マナで大きさを可変できるユニット。手札で腐りづらいのが利点。
<光響軍曹ガトラ>の攻撃でヘンリエッタのライフは42000まで低下した。
依然ウィルのライフは50000であり、状況的にはかなりウィル有利に進んでいる。
「では私のターンだ、<研究発表>を使用し、3マナを支払い<天使の旗振り役 リリン>を召喚する!」
研究発表 2
アタック2000以下の<機械>と名の付くユニットをランダムを2枚デッキからドローする
<機械>が含まれるデッキで幅広く使われているリクルートカード。
コストではなくアタックを参照する点が非常に凶悪で、年月が経過しカードプールが増大するほど強力なカードになりシーズン11ではデッキに2枚までの制限カードとなっている。
天使の旗振り リリン 3/2000/3000
このカードがフィールドに出た時、デッキからコスト6以下の<天使>ユニットをランダムで1枚引く。
その後、手札のユニットのアタックとタフネスを1000ずつ上昇させる。
<天使>の中でも非常に優秀なユニット。
出した時点で全ての仕事が終わる上に後続を呼んで更にバフをかけるという破格の優秀さを誇る。
更に<天使>というカテゴリの広さが非常に融通が効き、バフするカードもカテゴリを選ばない点もポイント。
デッキから呼ぶユニットの大きさがランダムなのが唯一の欠点。
「この動きは…」
観戦していた天馬の頭に疑問が浮かぶ。
このヘルオード家、いくらなんでも強すぎる。
ハルモニア家もタケハヤ家も、セレクター家もそうだがカードプールの限界から仕方ない点があるにせよ無駄な動きがあったり、使えないカードを入れていたり逆に使えるカードを入れてない、などプレイングの荒が現代のプレイヤーから見ると目立っていた。
色々と聞き取りをした結果恐らく長年のゲーム環境の固定化と数式的な期待値等の計算があまり普及していない、カードの強さに関するメカニズムが秘伝とされており家の内々で独占してしまっているからだと天馬は結論付けていた。
だがヘルオード家はデッキは明らかにカードの使い方もデッキ組み方も次元が違う、踏み込んで言えば現代人のプレイングなのだ。
<機械天使>そのものがシーズン6では最強クラスのテーマなのもある程度助けてる部分は当然あるが、それにしたってデッキの完成度がまわりの貴族と2段ほど違う。
そしてカスミとクレアの話を聴く限りでは昔からずっと闘い方は変わっていないという。
そのような情報を統合して天馬が出した仮説が「ヘルオード家には過去俺と似たような人間が関わっている可能性が高い」だ。
当然ながら不断の努力で導き出したデッキの可能性もあるから決して断定はできない、この世界の人達を舐めている訳では決して無い。
それに今更帰還の手がかりを掴みたいと思っているわけでもないが、ただ純粋に好奇心として知りたい。
そう天馬は思ったのだ。
「カスミ」
「ん、何?」
さくらんぼをシオンの口に大量に詰めているカスミがこちらを振り向く。
シオンの頬が詰めすぎてハムスターみたいになっている。
「ヘルオード家とどこかのタイミングで話ができないか?」
「絶対向こうから強引に接触してくるから待ってればいいよ」
なるほどそういう人か。
天馬は将来襲い来るあの化け物の相手をする想像をし、げんなりした表情でため息を吐いた。
「<光響軍曹ガトラ>を<聖矛ゴールデンエンゼル>で破壊しターンを終わる」
<光響軍曹ガトラ>の脳天に矛が命中し、同時に掻き消える。
「私は<光響の召集令状>を使用し、<光響聖騎士ハルモニア>と<光響守備隊エンスタ>でプレイヤーをアタックする!」
これでヘンリエッタのライフは36000、形勢は完全にウィルに傾いたかに思えた。
「舐めるなよハルモニアのガキが!」
6ターン目開始時、ヘンリエッタが吠えた。
「私はワースカード <機械天使アルガートナー>を召喚する!」
機械天使アルガートナー 5/4000+1000/8000+1000
このカードがフィールドに出た時、フィールド上の <機械天使アルガートナー>以外の全てのユニットに1000+x000ダメージを与える
(ダメージの最大値は4000)
このカードが破壊された時、攻撃力3000の<アルガーベーン>をプレイヤーに[装備]する。
<アルガーベーン>の耐久力は 1+xである
xは<機械天使アルガートナー>に付与された強化の回数に等しい
「げぇ!マジかよ!」
天馬は思わず叫んだ。
<機械天使アルガートナー>はシーズン6のワースカードとして登場し、その異常な性能からアルガー先生だのアルガーさんだの呼ばれている。
素の状態でフィールド全体に1000ダメージと死亡時に3000の武器装備はあまりにも使い勝手が良く、普通のデッキにもちょくちょく出張して投入され、ワースカードを入れる時はそれがこのデッキで<機械天使アルガートナー>入れるより強いか?というハードルを作ってしまったほどだ。
シーズン5~6ではこのような汎用的に使える強力なワースカードが多すぎた為、後のシーズンではワースカードのほとんどはテーマ専用カードに寄せて作られる事になった。
「<機械天使アルガートナー>まで持ってるとは…ほぼデッキが完成しているじゃないか」
「やはり強いのですね、ヘルオード家は」
「ああ、ちょっと異常だ」
「勝てますでしょうか、兄様は」
縋るような目で見てくるクレアの頭をぽんぽんと天馬は叩く。
「大丈夫だよ、君も見ただろ?ハルモニアの真価を」
「…はい」
「兄を信じてやるんだ。大丈夫、勝つよ。」
「更に私は1コストで<マキニの宝玉>を[装備]し、<天使の旗振り リリン>でプレイヤーを攻撃する!」
マキニの宝玉 1
これをプレイヤーに装備する
装備したプレイヤーの攻撃を0上げる
この[装備]はプレイヤーへのダメージを1000軽減する
4回ダメージをこの[装備]は破壊される
この[装備]が破壊された時、手札のユニットのアタックとタフネスを+2000する
書き方が非常に分かりづらいが、要は4回ダメージを1000カットした後壊れて手札のユニットを強化する、というカード。
カードラプトというゲームはルール上[装備]は1つしか持てない為、何かを[装備]しているタイミングで他のものを[装備]しようとすると元々つけていた[装備]は破壊される。
基本はそれを狙ってコンボを行うのが主流の使い方である。
盤面はウィル側は<光響守備隊エンスタ>が破壊され残りタフネス3000の<光響聖騎士ハルモニア>のみ
ヘンリエッタ側は無傷の<機械天使アルガートナー>とタフネスが1000まで減った<天使の旗振り リリン>の2体
現状だけ見ればヘンリエッタに形勢が傾いたように見えるがそうでもない。
「強いとはいえ、ヘルオード家もかなり追い込まれている。本来なら<機械天使アルガートナー>はここで出すプランではなかっただろうし」
「そうね、<マキニの宝玉>を使ってから出したかったはず」
「次のターンでウィルはもう1体の<光響聖騎士ハルモニア>が召喚できる、この2体で押し込めば勝てるはずだ、いざとなれば奥の手もある」
天馬はクレアに言い聞かせるように解説する。
ウィルからしても<光響聖騎士ハルモニア>をお披露目したタイミングで負ける事は絶対に許されないのでなりふり構わず勝ちにいくはずだ。
次のターン、<光響の従侍>が再度2体場に召喚される
「2体の<光響の従侍>を使用し、再びダブル召喚を行う…眩く輝く光の戦士よ!今ここに響き渡る福音と共に聖なる鎧装を身にまとい!光の刃で眼前の敵を打ち砕け!<光響聖騎士ハルモニア>召喚!」
2体目の<光響聖騎士ハルモニア>が場に出現し、会場は再び歓声に包まれる。
会場の外にも噂が広まったのか、観客席入り口に大量の観客がひしめいている。
「1体目の<光響聖騎士ハルモニア>のOUを発動!マナを3支払い<光響聖騎士ハルモニア>のアタックを9000に上昇させ、<機械天使アルガートナー>を攻撃!」
<光響聖騎士ハルモニア>の巨大なグレートソードが<機械天使アルガートナー>に突き刺さり、そのまま爆散する。
当然<光響聖騎士ハルモニア>はノーダメージだ。
「更に2体目の<光響聖騎士ハルモニア>でプレイヤーにアタック!」
これでヘンリエッタのライフは33000、いよいよ危険水域まで近づいてきた。
「…私のターンだ、<機械天使アルガートナー>の破壊時効果で<アルガーベーン>を装備する、この効果で<マキニの宝玉>は破壊され、手札のユニットが強化される」
現状明らかに有利なのはウィルだ、だが戦況とは対象的にウィルの表情は固い、逆にヘンリエッタはこの状況でも笑っている。
天馬もウィルの勝ちだとは思っているが、ヘンリエッタの顔から溢れる余裕が、雰囲気がその確信を鈍らせる。
それほどにヘンリエッタは闘う者として完成されている。
ヘンリエッタはこの短いやりとりの中で<光響聖騎士ハルモニア>の1つ目の弱点に気付いていた、それは戦闘のたびに3コストの消費を半ば強制される部分だ。
OUを使用すればタフネス9000までの敵を一方的に打ち取れるとはいえ、ハルモニアの素のステータスは4000/5000と正直物足りない性能だ、そしてわざわざ4コストのユニットを2枚使用して呼び出したのだ、OUを使わず使い捨ててしまうのは余りにも勿体がない。
そうなるとどうしてもOUを使うことを前提に動かなければならない。
となると常に3マナの差が相手と付いてしまう、このマナの差はマナコストが増えるたびに指数関数的にアタックとタフネスの数値が跳ね上がるカードワースにおいて致命的なディスアドバンテージとなり得る。
「私はまず<アルガーベーン>で1体目の<光響聖騎士ハルモニア>を攻撃し!破壊する!」
手持ち槍のような形をした<アルガーベーン>がヘンリエッタの体躯から凄まじい速度で投擲され、一瞬で破壊される。
ハルモニア側関係者席のテンションが一気にトーンダウンし、それにつられて観客も静まり返った。
(当然だが、家のシンボルでもユニットはユニットで破壊はされるからな、そういうものへの免疫もない、か)
天馬は観戦しつつそうひとりごちる。
膝上で心配そうに戦況を見つめているクレアへのケアも忘れず、ぎゅっと小さく抱きしめる。
天馬はとんでもない速度で積まれる女性経験のおかげで妻達の喜ぶ行動を学習しつつあった。
「私はこのターン、<機械天使ボルクナール>を召喚し、<光響聖騎士ハルモニア>に対し3000ダメージを与える!」
機械天使ボルクナール 4 2000+3000/3000+3000
このカードがフィールドに出た時、ユニット1体にxダメージを与える
このxは強化されたアタックの数値に等しい
この効果で与えるダメージの上限は7000となる
<研究発表>でドローしたカードの1枚。
未強化で出すと貧弱なステータスだが、強化前提であれば非常に強力。 フィールドに出た時のダメージ上限値が非常に高く、後半まで抱えていても腐ることがない。
「<光響聖騎士ハルモニア>のOU発動!ダメージを一度だけ無効化する!」
「何!?」
マナを4残しておいたウィルがすかさずOUを使用し難を逃れる。
マナが戻るのが自分のターン開始時というのを利用した、相手ターンで<光響聖騎士ハルモニア>を守る為のテクニックである。
「<天使の旗振り リリン>でプレイヤーを攻撃!私は3コスト支払い<制御不能の暴走機械>を召喚!召喚時効果により<天使の旗振り リリン>を破壊する!」
制御不能の暴走機械 3 5000+3000/1000+3000
このカードは自分フィールド上のユニット1体を破壊しないと召喚する事ができない。
このカードは攻撃対象を選べず、ターン開始時に必ずアタックをする
使い終わったシステムクリーチャーや破壊時効果を使いたいユニットを即座に破壊しつつ、放置するには絶妙にめんどくさいユニットを呼べるため、貧弱なタフネスの割には採用率が高かった。
<機械>カテゴリなのも評価が高い。
攻撃の仕様から軽量ユニットを並べるデッキ相手には相性が悪い。
「7コスト支払い私は<光響の双剣使いオーボゥ>を召喚する!」
光響の双剣使いオーボゥ 7/5000/10000
フィールドに召喚された時、セメタリーのマナコスト5以下の<光響>と名の付くカードを1枚選択する。
そのカードのマナコストx1000のダメージを相手ユニット1体に与える
天馬から譲り受けたカードの1枚、コスト7としてはアタックが物足りないが、
登場時にノーリスクノーコストで最大5000ダメージを飛ばせる点が非常に高く評価されている。
「<光響の双剣使いオーボゥ>の効果!<光響の召集令状>を選択し<制御不能の暴走機械>を破壊する!」
銀色の長髪を靡かせた美男子が双剣からオーラを射出し<制御不能の暴走機械>を破壊する。
<光響の双剣使いオーボゥ>はシーズン8で追加されたカードで、この頃から<光響>のカードは全身甲冑から顔だけは見えるようにビジュアルが変更され、シーズン8以前と以降でややデザインの毛色が変わっている。
「…はっはっはっは!」
ヘンリエッタが今日一番の大声で笑い始めたと思うと、次の言葉がウィルを含め観客を混乱の渦へと叩き込んだ。
「いやいや、参った参った!降参だ降参!」
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