第42話 女傑とハルモニア
試験的に文字量を2倍にして2日に1回更新をしてみます。
1日1回とどちらが良いか、もしよければ意見頂けるとありがたいです。
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試合はまさに虐殺と言うに相応しい一方的な展開だった。
使ったカードは<覚醒せし美麗なる神風戦士タケハヤノミコト>、既知の各種<宝具>ユニット、<秘剣カグツチ>のみ。
たったそれだけでことごとくを破壊し、早々にライフを削りきった。
その為早い段階から情報収集に徹したガルニオも「タケハヤノミコトがめちゃくちゃ強い」という事以外何もわからずじまいだった。
このタケハヤノミコトの衝撃は大きかった。ヤクモが取材を拒否したのを見るや貴族や新聞記者はザハーク家嫡男であるガルニオとタケハヤ家家臣に群がった。
とはいえガルニオも分かってる事と言えばエロいことと強い事ぐらいで、できたのはヤクモへのやっかみ半分でその2つの話をするぐらい、タケハヤ家家臣も何も知らされてないので「私は知らない」と言う他ない状況だった。
「何故我々に黙っていたのですか!」
控室にて集まったタケハヤ家の重臣が吠える、彼らからすれば当然の文句だ。
家のシンボルであるヒーローカードの変更など家の先行きを決める重大な事項だ。
決めるのは家長の一存になるとはいえ話すら通さないというのは家臣を軽く見ているのと同義である。
「すまん、今この時まで密約により万が一にも他家へ情報を漏らす訳にはいかなかったのだ」
ヤクモは短く謝罪し、ヤエと一緒に頭を下げる。
彼らの批判はおおむね妥当であると理解しているからだ。
この一件の事を知っていたのはヤクモとヤエを除けばごくごく一部の兵士と執事長のみであった。
「我らに話せないほどの密約であったと?」
こう話すのはタケハヤ家主計長だ、彼はヤエの対ヤクモ既成事実製造大作戦に関しては声がかかっていた為、今回の一件を完全に隠蔽されていたのには面食らった人間の1人だ。
「今となってはその縛りもなくなりましたので説明しますと、王家・ハルモニア家・セレクター家・ファドラッサ家・そして当家の関わる密約でした。ここまで言えば優秀な我が家の家臣であれば理解できるでしょう」
ヤエが煽るように言い立て、それを聞いた家臣達も口に出された面子を聞いて察した。
「なるほど、テンマ様の」
「それならば…」
「カスミ様がご来訪されいていたのもそれで…」
「しかし我らに知らせてないのは流石に…」
家臣や寄り子が口々に意見を言うが、やはり否定的なものが多い。
やはり心情的に知らされてなかったという点は信用されていないとイコールに結びつく上、まだヤクモは家を継いで2年と少しと期間が短いので、家臣からもどこか半人前として扱われているためだ。
「皆さん、良いではないですか」
執事長が唐突に口を開くが、それに対し主計長が反論する。
「貴方は事前に知らされていたのですから良かったかもしれません。ですが我々にもプライドという物がありますし、この家を支えてきたという自負もあります」
「ええ、それは重々承知しております。ですが、事前に多数の家臣に話をしていれば商品部にも確実に話が行ったでしょう、その場合情報は漏れるのは必然だったのではないですか?」
「む…」
言い淀むのは商品部部門長。
タケハヤ家商品部、<神風戦士タケハヤ>のペナントや木彫り人形等の商品の試作やライセンスの卸を一手に引き受ける部門だ。
「商品部部門長にお聞きします。この話を先に家内に周知していたとしましょう、当然商品部の耳にも入ります、となると絶対に先行で商品を作ろうとするでしょう?そしてそれを止めれますか?」
「それは…難しい」
部門長は渋々ながら執事長の言い分を支持する。
商品部の抱えてる職人は良くも悪くも職人気質だ、情報が降りてくれば静止されようが日を待たずに作り始めるのは目に見えている。
「万が一それで情報が漏れれば密約を結んだ王家と各貴族家の面子、そして何より我が家の信用が丸つぶれになります、既にこの密約の一環としてナギ様がテンマ様へ事前に嫁がれ、その見返りとして我が家は何枚かのカードを受け取っております、ここで漏れれば当家の立場もですがナギ様のお立場も悪くします、ヤクモ様は家長として兄としてそれだけは避けたかったのですよ」
好機と見て執事長はまくし立てる。
タケハヤ家が何枚かのカードの見返りにナギを天馬に嫁がせた、という話は公開情報として喋っても良い事になっている。実際は30枚以上のカードを受け取っている訳だが、嘘は言っていない。
例え家臣といえど全てをさらけ出す必要はないのだ。
「商品部の連中はやるでしょうな」
「妻が5人となると立場は確かに重要ですが…」
やや批判がトーンダウンするのを執事長は見逃さず追撃する。
「それにです、皆様もあの新たなるタケハヤの強さと美しさをご覧になったはずです、この密約を漏らせばあれも無かったかもしれません」
この言葉がダメ押しとなり批判は完全に消沈した。
なんのかんの言っても召喚貴族は勝ってなんぼなのだ、<神風戦士タケハヤ>と比較して<覚醒せし美麗なる神風戦士タケハヤノミコト>はとんでもなく強くておまけにエロいのだ、この部分を否定する人間は流石にいない。
「…商品部の者から全体像を早く見せろとの意見が殺到していますし、商人からの引き合いもあります、見学にお金を払うからとも…」
主計長がそう言いながら、嘆願書の束をヤクモに渡す。
「商品部に関しては商品製作の兼ね合いもある、今日試合が全て終わった後に見学の時間を作ろう、一般観覧は当面無しだ」
「あなた、とりあえず今召喚してあげなさいな。教えていなかった私達にも過失はありますし、何より皆見たいでしょうから」
ヤエの言葉に皆明るい表情になる。結局のところ皆ヤクモの事を批判はしていたものの大筋としてタケハヤノミコトを否定しているわけではない。
これが全く別のカードであれば話は違うが、登場時演出を見てもまさしくタケハヤであるし、何より観客席から遠目で見てもドチャクソにエロいのだ、そりゃあ見たくもなる。
この後、タケハヤ家家長主催の家臣オンリーのタケハヤノミコトお披露目会は次の試合ギリギリまで続いた。
Cブロック第八試合。
ここではヘルオード家とハルモニア家の対戦が予定されている。
観客席は超満員。
当然ながら天馬目当ての客も多いがそれ以上に午前中にあったタケハヤノミコトの騒動が大きい。
特に勘が良くなくとも天馬に直系の娘を嫁がせたタケハヤ家であんなことが起こったということは当然他の家でも似たような事が起こる、そして開会式での「一部のロストブルーカードの召喚条件が判明した」という王の発言。
もしかしたらハルモニアが見れるのではないか。
そう考えるのが自然だ。
ヘルオード家は<機械天使ヘルオード>を掲げる貴族家で、名実ともにミラエル王国トップの強さを誇っており、前回の国家対抗戦でも唯一共和国に対して勝利を勝ち取っている。
「オモシレーもん見せてくれんだろ?ウィル公よぉ」
ヘンリエッタ=ヘルオード。
ヘルオード家家長、通称女傑。
身長はこの世界の男性の平均すら上回る190cm越え、紫色の髪を無造作に伸ばしたロングヘア、その身長に見合った筋肉とガタイを持っており近接戦闘でもかなりの強さを誇るまさに女傑である。
「ご期待に添えるかどうかはわかりませんがね」
「ハッ、良く言う。お前がクレアちゃんをポッと出の奴に嫁がせるわけねえだろうが」
「ご想像にお任せしますよ」
2人は乱暴に握手を済ませ互いのフィールドへ戻る。
「嫁がせちゃったんだよね、とんでもないポッと出の奴に…」
ウィルは自嘲気味に呟く。
「これよりCブロック第八試合を開始します」
ほどなくして試合は開始された。
「先攻は僕のようだ、<光響の巫女クスハナ>を出してターンを終了する」
光響の巫女クスハナ 1/1000/3000
<光響の巫女クスハナ>以外の<光響>と名の付くモンスターが召喚された時
そのカードのアタックをx000アップさせる
xは召喚された回数を参照し、最大4まで上昇する
「ンん…?」
ヘンリエッタの表情が変わる。
それはそうだ、ハルモニア家の1ターン目から出すカードは過去記録されている限り<光響戦士ロニー>だったはずなのだから。
「<光響戦士ロニー>ではない…?」
「なんだあのカードは…」
「可愛い…」
観客席もざわつき始める。
「…<機械天使ゲシル>を召喚して終了だ」
<機械天使ゲシル>1/1000/1000
このカードが破壊された時、手札のランダムな<機械天使>と名の付くユニット1枚を対象に発動する。
そのカードのアタックとタフネスを1000アップさせる。
<機械天使>の強みは手札のカードをどんどん強化していく強化効果と、強力な[装備]カードだ。
[装備]はヒーローユニットの進化前のようなシステムで、マナを支払い回数制限のある攻撃手段や防御手段をプレイヤーに付与するもの。
当然シーズン11にも[装備]を使うデッキは存在するが、低コスト帯の[装備]は実は昔から使われるカードが殆ど変わっていない。
それだけ[装備]というシステムの完成度が高い事の証明でもある。
「2マナを支払い<光響軍曹ガトラ>を召喚、<光響の巫女クスハナ>の効果でアタックが3000にアップする。更に<光響軍曹ガトラ>の効果で<光響の巫女クスハナ>のアタックは2000になる、<光響の巫女クスハナ>でプレイヤーに攻撃!」
この動きがシーズン11の<光響>の鉄板ムーブだ、2ターン目で3000/2000 と2000/3000が並ぶのは非常に圧が高い。
「…」
ヘンリエッタは攻撃を食らっても微動だにせず、黙ったまま動かない。
「凄いな、あの人」
「ヘルオード家はこの国でもトップの貴族ですから」
天馬が呟きに密着したクレアが息のかかる距離で返答する、今回はハルモニア家が主役のためクレアが膝上に座っており、かなり犯罪的な見た目になっている。
ナギを膝上に載せている姿もかなり犯罪的ではあるのだが。
「しかし、<機械天使>か…かなり強いぞ」
「テンマ様から見てもですか?」
おやつのくし切りの林檎をテンマの口に放り込みながらシオンが反応する。
「んぐ…ああ、とにかく専用の[装備]が強くてね…」
「もぐもぐ…ヘルオード家は[装備]カード収集の第一人者としても有名よ、王家でも持ってない[装備]を多数保有しているわ」
シオンから貰った林檎を食べながらカスミが相槌を打つ。
「となるとアレが出てくるかな…」
「私は2マナ支払い<天印の大戦鎚>を自分に装備し<光響の巫女クスハナ>を破壊!」
ヘンリエッタは大ぶりのハンマーを持ちフィールドをとんでもない速さ駆け抜け、ウィル側陣地のクスハナを思い切り殴り飛ばし、破壊した。
「うーわ、出たよ」
天馬は思わず声を上げた。
天印の大戦鎚 2
手札、セメタリー、フィールドのいずれかに<天使>の名の付くカードが存在する時使用できる
これをプレイヤーに[装備]する
装備したプレイヤーの攻撃を3000上げる
2回攻撃を行うとこの[装備]は破壊される
天馬が声を上げたのには理由がある、このカードはシーズン11では禁止カードなのだ。
理由は専用デッキを組めば2ターン目にすぐ装着して攻撃できる点があまりにも強すぎる事と<機械天使>ではなく<天使>という複数カテゴリに跨ったゆるい縛りが縛りになってなかったの二点。
当然と言えば当然である。
「当時はフルで投入できたカードに泣かされる可能性もある、か。正直考慮してなかった部分だ、危ない危ない」
天馬の頭にいくつかのカードの名称が浮かぶ、後々カスミに聞いてみようと思った所で試合はまた動き始めた。
「<光響騎士サクソス>を召喚し、<光響軍曹ガトラ>でプレイヤーを攻撃する」
これでヘンリエッタのライフは43000となる。
「私は<天使の聖杯>を使用し、<機械天使ゲシル>を破壊しライフを5000回復させる、更に効果で手札の<機械天使>カードのアタックとタフネスが上がる」
天使の聖杯 0
<天使>と名の付く自分フィールド上のユニット1体を破壊する。
破壊した後、ライフを5000増やす。
「更に3マナ使用し、<機械天使ゲシル>の効果でステータスの上がった<機械天使ファーレウム>を召喚する!」
機械天使ファーレウム 3/3000+1000/3000+1000
[盾持ち]
「更に!<天印の大戦鎚>で<光響騎士サクソス>を攻撃しターンを終える!」
これでサクソスのタフネスは残り1000となり、ヘンリエッタのライフは差し引きで45000。
「私のターン、4マナを支払って<光響の召集令状>を発動し、ターンを終わる」
光響の召集令状 4
次ターン開始時に3/1000/2000の<光響の従侍>を2体フィールドに召喚する
あからさまな<光響聖騎士ハルモニア>の召喚補助カード。
当然これも天馬から贈られたカードの1枚だ。
「私は手札の<機械天使ビギン>を公開し、4マナを支払い<聖矛ゴールデンエンゼル>を装備する!」
聖矛ゴールデンエンゼル 4
手札の<天使>の名の付くカードを相手に公開することで使用できる
これをプレイヤーに[装備]する
装備したプレイヤーのアタックを4000上げる
攻撃宣言時にライフを2000回復する
2回攻撃を行うとこの[装備]は破壊される
「ゴルエンまであるのか…マジで強いなこの人」
聖矛ゴールデンエンゼル、通称ゴルエン。
シーズン11でも天使デッキには2枚か3枚は投入される最強クラスの[装備]カード。
特筆すべきはやはりライフ回復効果で、プレイヤーを攻撃すれば6000ものライフ差が付けれるという点が非常に優秀。
4000打点も非常に強力で3コスト以下のユニットは一発で粉砕できる点も大きい。
「<聖矛ゴールデンエンゼル>で<光響騎士サクソス>をアタックし破壊する!」
ヘンリエッタは手に持った<聖矛ゴールデンエンゼル>を振りかぶって投げつけ、<光響騎士サクソス>を破壊し、ブーメランのようにキャッチする。
これでウィルの場には<光響軍曹ガトラ>、ヘンリエッタの場には強化された<機械天使ファーレウム>が残る。
ここでウィルが口を開いた。
「ヘンリエッタさん」
「ああん?」
「見せてあげますよ、面白いものを」
「へぇ」
次のターン、ウィルの場に2体の<光響の従侍>が召喚される。
そしてウィルは一度呼吸を整え、決められた言葉を紡ぎ出す。
「私は2体の<光響の従侍>を使用し、ダブル召喚を行う」
会場が一瞬、しんと静まり返った。
「…眩く輝く光の戦士よ!今ここに響き渡る福音と共に聖なる鎧装を身にまとい!光の刃で眼前の敵を打ち砕け!<光響聖騎士ハルモニア>召喚!」
2体のユニットが光玉となり回転しながら合体し、青色の光を巻き散らしながら巨大なグレートソードを背に構えた全身甲冑の騎士が場に降臨した。
瞬間、会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。
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