第35話 捕食者たちの宴
俺とウィルは少し早いが食事会の会場へ入る、ある程度早めに入っておくのがマナーらしい。
俺の服装は着慣れてない俺に配慮してフォーマルだが脱ぎやすく着やすいスーツのようなトップスと腰の部分のベルトもイミテーションでゴムが縫い込まれて脱ぎやすくフィットするスラックスを用意してくれた。
この手の食事会ではお腹の膨れ方も計算して食べないといけないがみんな君の事情は知ってるから遠慮しないで良いよ、とウィルが言っていた。
実際テーブルマナーも結婚式ぐらいでしか縁がなく多少知ってる程度だ、そこは素直にありがたい。
そして一番嬉しかったのが顔を隠さずそのまま出て良い事。
対抗戦が始まれば国内では顔も晒して良いらしいのでやっとあのダサ仮面もお役御免となりそうだ。
「テンマ!」
「テンマ様」
「テンマさん」
声が聞こえた方向を振り向くとカスミ王女とクレアとトリッシュさんが手を降っていた。
「見てみて、綺麗でしょ!」
派手ではあるが下品でもない、綺麗よりは可愛いという形容が一番良さそうな藍色に染まったドレスの裾を持ち上げて俺に見せつけてくる。
か、かわええ…。
「ドレスなんて久しぶりですわ」
「私もです」
クレアは薄いオレンジの丈の少し短い動きやすそうなドレス、トリッシュさんは紫色の細めのシルエットのドレスをそれぞれ身にまとい俺にアピールしてくる。
クレアは可愛いのど真ん中、トリッシュさんはいつもと印象が変わってとにかく美人。
「…私達3人のドレスを見てなんかないの?」
「ごめん、見とれてた」
俺は素直に返事する。
実際そうだし。
それを聞いた3人は満足げな笑顔を浮かべる。
「ならよし!今日の主役はテンマだからね!とにかく飲んで食べて!好きそうなお酒も用意してるし!」
この世界のお酒は美味しい。
元の世界ではそもそも飲酒の習慣がなかったがそれでもたまに晩酌で安い発泡酒なんかを飲んだりしていた。
この世界に来てからはそういう激安発泡酒がない変わりにバケモンみたいなおいしさのワインを食事の際に出されるようになった。
値段を聞こうと思ったがこの世界に来て買い物は全部他人任せなので価値がわからんな…と思い聞かなかった。
「そだ、うちの兄がテンマに挨拶したいって言ってたから相手してあげてね、もうちょっとしたら来るから」
「兄というと…第一王子様?」
「そそ、カーネルって言うんだけど、事情は全部知ってるから普通に話をして良いよ。…それとね」
カスミは両手を合わせて俺に申し訳なさそうに頭を下げる
「ごめん!言うの忘れてごめんなんだけど最初の乾杯の時にちょっとだけ喋ってもらうから今からすぐ文面考えて!」
「今言う!?」
「ごめんね~伝え忘れてて、本当に短くて大丈夫だから、お願いね!」
こうして食事会までの残り少ない時間、ウィルと一緒に挨拶を考えることになった。
早めに来といて正解だったわこれ…。
食事会まであと30分。
文章もなんとかひねり出してそろそろ着席するか、というタイミングで男性に声を掛けられた。
「初にお目にかかる、ミラエル王国が第一王子のカーネルだ、君がテンマか。これからよろしく頼む」
「テンマです、よろしくお願いします」
茶髪のふわっとした七三分けに細マッチョとマッチョのギリギリ中間ぐらいの太さの体格をした、ウィルとはタイプの違うイケメンがこの国の次期国王であるカーネル王子。
「両親やカスミから話は聞いている、2枚目の<緋紋機竜ミラエル>を献上してくれたとか。王族として最大限の感謝の意を表明する、本当にありがとう」
「え、ええと…」
「本来ならもっと早くに言うべきだったのだが、こちらも仕事が詰まっていてな」
苦笑しながらカーネル王子は言う、なんか外見とイメージ違うなこの人…。
「第一王子はもっと偉そうだと思った、かな?」
「いや!そんな事は」
「はははは、誤魔化さなくてもいい、顔に出ている。君は少し表情に出さぬ練習をしたほうが良いな、カードが絡まないと表情がすぐ変わって分かりやすいとカスミも言っていたぞ」
わかりやすいのか俺、わかりやすいんだろうなあ…。
「実際の所私はまだ後継者の候補の身だからな、そんなものが偉ぶったとしても何の得もないのだ」
「なるほど…」
「私の一挙一投足は常に両親や家臣、部下や兄弟に見られている。そんな状況で増長なんぞできんよ…。それにな」
カーネルさんの表情が少し変わる。
「私も父を常に見ている。もういいのではないですか父上。と声を掛けるためにな」
「…つまり王とは一生見られる物と」
「そういうことだ、こう考えると王と言うのがどんなに割の合わない職業か分かるだろう?」
「確かに、息苦しいですね…」
俺の頭じゃこのひとに敵わないのはもう既にわかったので完全降参モードで相槌を打つ。
「そしてその息苦しさにほんの少しばかり穴を開けてくれたのが君な訳だ、そういう意味でも感謝しているよ。今日以降少しは面白くなりそうだ。…喋りすぎたな、今日は楽しんでくれ」
そう言い、少し離れたところに着席する。
食事会は前回のような立食ではなく、長机にメイドさんが配膳してくれる本格的なもの。
参加者は国王夫妻に宰相、カーネル王子にカスミ王女、ハルモニア夫妻にクレアとウィル、タケハヤ夫妻にセレクター夫妻、パットンさんの名代としてトリッシュさんの合計14名。
そして俺の両隣はカスミ王女とクレアに固められ、2人共なんだかソワソワしている。やっぱりお嬢様とはいえあまり頻繁に参加することはないのかな。
食事の配膳が着々と進み、小さめのグラスに酒が注がれる。
これで乾杯して卓に用意されてる大きいグラスを食事に使うのよ、とカスミ王女に小声で教えてもらった。
「えー、座ったままで良い、聞いてくれ」
王様が喋りだした、いよいよか。
「今日この日を迎えれてワシは非常に嬉しく思う。皆既に知ってはいるだろうが、我々に新たな仲間テンマ=ヤマシロが加わる事になった。この会は彼の歓迎会も兼ねておる。どれ、少し挨拶でもしてもらおうかな」
テンマ!立って立って!とカスミ王女が小声で言う、もうかよ!
慌てて立ち上がりさっき考えた言葉を出力する。
「え、えーと…。ご紹介に上がりました天馬です、といってももう皆さんとは何度か顔を合わせた事がありますが…。今回正式にこの王国に所属…でいいのかな、することになりました、これからも頑張りますので…よろしくお願いします」
し、失敗したかも、恥ずかしい…。
と思うと万雷の拍手が周囲から飛んできた、うわ…なんか…嬉しいなこれ。
受け要られたっつーかなんつーか…俺1人で飛ばされて来たからなあ…。
凄い幸運だったんだろうなあ、この人らに拾われたの。
「うむうむ、ワシも期待しておるよテンマ、座って良いぞ、では、乾杯といこうかの…」
俺は着席し、小さめのグラスを掲げる。
「乾杯!」
王様の号令と共にグラスを掲げ、飲み干し空にする。
おっうまいぞコレ。
そこからは極めて和やかな雰囲気で食事が始まった。
料理は旨いし酒も俺の口にあった辛口のいい白ワインだ、
本来ならメイドさんが注いでくれるんだが、クレアとカスミ王女がわざわざお酌してくれた。
なんだかお大臣気分だ、まあ主役らしいし、このぐらいの役得はあっていいかな、カードも沢山渡した訳だし…。
気付けばお腹もそこそこ膨らみ、お酒も結構飲んでしまった、そろそろお酒は控えないと。
主役が酔いつぶれるなんて流石にみっともない…うん…。
ん?
なんか、ちょっとフラっと来たな、飲みすぎた?
あと、体温が上がってきたような。
あれ?
「テンマ、大丈夫?」
カスミ王女が心配そうに声を掛けてきた。
いや、笑ってる?あれ?
「ああ、大丈夫…大丈夫…」
おかしいな、潰れるほど飲んだ訳じゃないんだけど。
あとなんかどんどん体温が上がってきた…ような…。
ちょっと、ヤバいかも…。
「ちょっと飲みすぎたみたいね、部屋に運んで休憩させましょう」
そのほうが…いいかも…申し訳…ないな。
アレルギーとか…じゃないよな…痛いわけじゃないし…
でも体温が上がってるし…病気…かな…
「クレア、トリッシュ、手伝って貰える?」
「「はい」」
…普通…こういうのって…王女様…は…やらない…と思うんだが…
どういう…事なんだろう…。
ちらりと視線を横に向けるとウィルが片手で「ごめん」のジェスチャーをしている
なんで…?
「さ、休憩しましょ」
俺は頭にもやがかかったまま、カスミとトリッシュに両肩を抱えられて別室に連れていかれた。
「…上手くいったようで」
「彼には申し訳ない気はしますが…」
「何を言います、あんな良い子達を5人も妻とできるのですよ」
「孫の顔が楽しみじゃの」
俺は両肩を抱えられされるがままとなり、ある部屋の前に連れて行かれた。
カスミ王女が「OKよ」と言いながらノックすると「どうぞ」と聞き覚えのある声が帰ってくる。
ドアを開けるとシオンさんとナギちゃんがベッドに座っていた。
ただその姿は下着、おおよそ人を迎える格好ではない。
2人共顔は赤いが決意にみなぎった顔をしている。
かちゃり
扉の鍵を掛ける音が響く。
何が…起こってるんだ?
俺は働かない頭で必死に考える。
そのまま部屋の真ん中のベッドに横にされたかと思うと少し離れた所から布擦れの音が聞こえる。
首を頑張って動かして確認すると3人がいそいそとドレスを脱いでいるではないか。
なんで?
どういうこと?
どんどん体温が上がる、それに比例して頭は働かない。
そうこうしてるうちに裸になった5人は横になっている俺を包囲して見下ろす態勢になった。
「おうじょ…何が…どういう…婚約しゃ…は…」
それを見て俺も流石に声を絞り出す、体のいろんな部分が熱い。
そうするとカスミ王女が俺の眼前まで顔を近づけて、こんな表情ができたんだ、という妖艶としか言いようのない表情で一言、呟いた。
「いただきます♡」
そのまま俺の口に唇を重ね、まるで魂をそのまま吸い尽くすかのような接吻が始まる。
その間に他の4人は横になっている俺を助け起こし、てきぱきと着ているものを脱がして行く。
気付けば俺も生まれたままの姿となって。
この日、俺は5人のけものに捕食された。
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