第33話 女性5人 俺1人

 いやあ…昨日はすごかった…。

 女性陣がとにかく近い近い、まだ子供のナギちゃんはいいとしてもトリッシュさんやシオンさんまで…。

 女性が5人集まると部屋ごといい匂いがするんだな…。




 部屋から出て軽く伸びをしているとウィルが訪ねてきた

「おはようテンマ」

「ああ…おはよう…どうした?」

「いや、ちょっと実家に戻るから挨拶しておこうと思ってね、1週間ぐらいでこっちに戻るから。その時父も連れてくるよ」

「対抗戦の為か?」

「そうそう、さっき久々に妻にも会えたからゆっくりしたいのだけどそうもいかなくてね」

「原因の一因として誠に申し訳ない」


 キスティアさんには後で謝らないとなあ…。


「キスティアさんの経過は?」

「ああ、順調そのものだよ」

「それは良かった」

「あと、クレアは置いていくから。女性陣の相手大変だろうけど頑張ってね」


 え?


「女性陣って?」

「そりゃ女性陣だよ、昨日シオンさんとナギちゃんに会ったでしょ?彼女らとクレアとトリッシュさんとカスミ王女」

「5人を俺1人で?」

「そうだよ、9日後に今回カードを配った貴族家集めて打ち合わせと食事会あるからそれまでの間よろしくね!じゃあ僕急ぐから!」

「はっ!?」


 そう言ってダッシュで走り去るウィル。

 あああああいつ逃げやがった!

 待ってくれ昨日皆ものすごい密着してきて本当に色々ヤバかったんだぞ!

 あれを9日!?無理無理無理無理!


「テンマ~おはよぉ~」

「うわぁ!」


 そう思っていると後ろからカスミ王女が抱きついてきた、いつの間に!


「5人を1人でお相手お願いね?」


 胸部装甲を押し付けながらそう言われ、そこから俺の生殺し地獄が始まった。

 ていうか聞かれてた!





 まず朝食を皆で食う事になったんだが、ナギちゃんとシオンさんが交互に食べさせてくれる、俺は赤ちゃんじゃないぞ。


「はいどうぞお兄様、あーん」


 満面の笑みでジャムのついたパンを差し出すナギちゃん。

 この笑顔でこんなことを言われると俺も流石に答えざるを得ない、もう俺赤ちゃんでもいいもしれん…。

 ナギちゃんは昨日1日ですっかり懐いてくれて、俺のことをお兄様と呼ぶようになった。

 学校を離れた要因が家が負け続きで同級生の男の子に馬鹿にされてばかりでかなりストレスが溜めて潰れそうになってたらしく、それで年上の俺に懐いてくれたんじゃないかとクレアが言っていた。

 なんでも貴族家の戦績は嫌でも知らないといけない事柄で、勝率や戦績が発表される時期は身内の勝率でマウントの取り合いが発生する修羅の国になるとか。

 地獄みたいな学校だ…。


「テンマ様!どうぞ!」


 元気良くスプーン限界ギリギリにドカ盛りにされたスクランブルエッグを差し出して来たのはシオンさん。

 とても一口の量ではないが頑張って頬張る。

 この人ほんとポンコツだな…と話をしてて思う、婚約者の人大変そうだ…。

 ていうかナギちゃんはともかくこの人もやっとできた婚約者いるだろうにいいんだろうか…。


 その後は元の世界の話を皆に少しだけ披露する。皆俺の事情を知っててくれる人なんで正直ありがたい、思ったよりも話せない事にストレスが溜まってたらしくめちゃくちゃ楽しかった。

 いい気分になった勢いでメモ帳とボールペンをもういいかなと思って見せた、スマホは流石にまだ見せれないけど…電源切ってるけど電池ももう残り少ないしね。

 ボールペンは皆めちゃくちゃ驚いてたな、カスミ王女が国で調べて複製品作るから貸して!って言われたのでそのまま貸したぐらい。


 カスミ王女によるとこの集まりは親睦を深めるというよりもナギちゃんのケアという面が強く、女性陣だけでも良かったけども俺がいたほうが男性に対する苦手意識を払拭できるから俺も参加してもらうことになったんだと。

 親の仕事が子の学校での立場に直結するのは辛いだろうなあ、自分にはどうしようもできないし。


 そんなナギちゃんも今日1日で更に距離が近くなり、隙あらば膝の上に乗ってくるようになってきた。

 ううむかわいい。

 そのままにしてあげてと笑いながらカスミ王女に言われたし、俺も別に嫌じゃないので特に何もせずそのまま載せてる。

 ほんとかわいいなこの子、俺そんな趣味ないんだけどたまにクラっときちまう。

 そんな感じでこの日はナギちゃんを中心にひたすら雑談で過ぎていった。

 雑談で1日つぶせるもんなんだなあ…女性って凄いや、喉カラカラだ。








 同日夜、昨日のように天馬以外の5人が集まり、反省会が始まった。

 議長はカスミ、気合をいれるためか何なのか伊達眼鏡をつけている。


「では今日1日を振り返ります、ナギちゃん!距離の詰め方凄い良かったよ」

「ありがとうございます!」

「体格的に乗っても不思議ではないのは強みですね、私は大柄なもので…」

「シオンも悪くなかったよ、ちゃんと話せてたしね」

「私はテンマ様のお人柄あっての賜です。他の男性と比べて話を聞いてくれますし、お優しいので…」

「あ、あんなに他人に優しくしてもらったのは身内以外では殆どないです…私が物心付く頃にはタケハヤ家は斜陽でしたから」

「それも後1ヶ月の辛抱です」


 各々が今日の戦果を語り合いながら話を進めていく。


「しかしあのテンマ様の持っていたボールペンと言いましたか、あれは凄いですね…」

「さっき王宮の研究部持っていったけど皆叫んでたよ、作り方がさっぱりわからないって」

「ああいうもの、もっと持ってたりするんでしょうか?」


 ナギがそう口にする。

 天馬は自分のスマホやジャッジ用のルールブック、トレード用のバインダー等の一見してこちらの人間から見てカード以外のものの管理は全て自分でやっている。

 これは王家やハルモニア家を完全に信用したわけではない、という気持ちの現れでもあった。


「そのへんはおいおいって感じね、結婚すれば多分見せてくれるでしょう」

「カードの譲渡だけでも十分過ぎるぐらいですからね…」

「結婚といえば、私達5人物凄く露骨にモーションかけてますが、あれ気づかないものなのでしょうか…」


 トリッシュが当然の疑問を口にする。


「大丈夫大丈夫、そもそもテンマは誰とも交際したことないみたいだし、今でも帰還を諦めてないからそもそもわたしたちと結婚をする、っていう考えに正面から向き合う必要性がないんだと思う」

「想像ができない、って感じでしょうか」

「そそ、それに帰る手段もさっぱりだからね現状」


 天馬との契約の1つである帰還手段の模索に関しては、実はかなり真面目にやっている。

 仮に天馬の世界とこちら側が行き来ができるようになればより多くのカードが手に入るのだ、実例がいるのだから調べる価値はある。


 が、見つからない、欠片も見つからないのだ。

 一応成果といえばどうもハルモニア家や王家、他一部の歴史の長い家は天馬と同じく転移してきた人が作ったんじゃないか?というぐらい。

 ただ分かってもそれで何か解決するわけでもなく、早くも手詰まりという状態であった。


「あと婚約者がいるって言ってるのもありますね、兄に婚約者がいるんだから止めさせてくれって相談来たみたいですし」

「いひひ、嘘は言ってないからね」


 悪い顔でカスミが笑う。

 そう、天馬は他に婚約者がいる、と勘違いしてるが、実際には天馬「が」婚約者なのだ。

 婚約者だからこそ距離を限界まで詰めるし、婚約者がいる、と聞かれたらいますと答える。

 誰も嘘はついてない。


「よしじゃあ明日以降もこの調子でいくわよ!ゴールはすぐそこ!頑張りましょう!」

「「「「はい!」」」」


 気合の入った女性陣の掛け声がこだまする。

 もう既に天馬の足には鎖がつけられている。

 だがまだ気付かない。


――――――――――――――――――――――

諸事情により次回更新は12/3(土)となります


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