第31話 後継者としての資格
俺たちは一旦会話を打ち切り、全員で兵士に案内されるまま反乱に加担にした人間を隔離しているファドラッサ家所有の屋内バトルフィールドに入った。
反乱の首謀者の1人である元執事長(トリッシュに聞いた)が言うにはこうだ。
「トリッシュ様は代々ファドラッサ家に伝わる<王機>を投げ捨て、他の力に縋った、貴方にはプライドはないのですか?そのような誇りのない人間に<地王機ファドラッサ>の名を冠す家の当主が務まるのですか?」
これに関しては多分言うだろう、と想定していた。
実際一定の正当性があり痛いところを突いている意見で、おそらく反乱に加担せず嫌々ながら従ってた家中の人間や、監禁されていた家臣もこれに関しては思うところがあるはずなので、ただ単純に負け犬の遠吠えと突っぱねる事も難しい。
当然ながら俺達もそこに関して無策だった訳では無い。
「つまり<王機>を使うに足る資格が私にはないと、そう言いたいのですね」
トリッシュの言葉に元執事長が我が意を得たりという顔で頷く。
こいつ割と余裕あるな。
「では私がファドラッサ家を継ぐ人間という証を立てましょう。お父様、監禁されていた家臣と今回の首謀者であるシェリダンをここに連れて来るよう言ってください」
トリッシュが現領主である父親を顎で使うのは権力譲渡が進んでいる所を見せつけるための演出だ、これを考えたのはカスミ王女。
10分後、バトルフィールドにはトリッシュにカスミ王女と俺、ウィル、クレア、パットンさんと監禁されていた家臣、更に両腕を兵士に捕まれているシェリダン、後ろ手に手錠をかけられ拘束されている元執事長以下40名程の反乱に加担した人間が集まった。
「…今更何かな?ここで処刑をすると言うのかね?」
シェリダンが達観したような口ぶりで吐き捨てる。
「お兄様も言っていましたよね、借り物のデッキでファドラッサ家を継ぐ資格はないと。ですので私こそが後継者たるに相応しい人間である事を証明しようかと。ウィル様、ご協力をお願いします」
トリッシュとウィルが衆人環視の元バトルフィールドに進み出てバトルを開始する、
だがトリッシュもウィルもユニットすら出さずお互いひたすらにターンを進めるのみ。
観戦している俺達以外の人間のざわめきがどんどん大きくなるが、2人はどこ吹く風でターンを進め、6ターン目にトリッシュが場に<王機マガフ>を召喚し、同時に口を開いた。
「今より<地王機ファドラッサ>を召喚し、私こそがこの家を継ぐ資格がある事を示しましょう」
一瞬の静寂の後、わざめきが一層大きくなった。
ちらりとシェリダンの方を見ると明らかに動揺している。
まあそりゃそうだわな。
「私は場の<王機マガフ>と手札の<王機トラーク>を使いジョイント召喚を行います」
「無限の荒野を進みゆく大地の覇者よ!我が呼び声に答え眼前の障害を駆逐せよ!ジョイント召喚!<地王機ファドラッサ>!」
<王機マガフ><王機トラーク>の2枚がセメタリーに送られた瞬間、白く輝く玉となってフィールドに飛び出し、2つの玉が縦に並び、眩く光り輝いた瞬間に戦車の砲塔部に人の上半身がくっついたロボットが出現する。
王機は戦車モチーフで地王機は下半身戦車で上半身ロボがモチーフなんだよな、すげえ格好いいんだけど強さがね…。
召喚が成功した瞬間、俺達以外の全員が驚愕し場は大混乱となった。
これが俺がカスミ王女やトリッシュと考えていた策、<地王機ファドラッサ>を見せてしまうというものだ。
厳密に言えばまだ国家機密に該当するものではあるが、見せる人間の大多数は犯罪者であるため漏れる心配も薄いし、仮にバレたとしても元々1ヶ月ぐらい先の対抗戦で全国民に向けて解禁してしまうのでそこまで被害はない。
ファドラッサ家重臣への口止めをお願いするぐらいだ。
それに何よりも家紋にもなっているファドラッサを呼べば誰もトリッシュの継承に文句を付けるものはいなくなる。
観衆のざわつきが減り、ファドラッサへの視線が増えてきた中でトリッシュが口を開く。
「さて、この通り私は<地王機ファドラッサ>を召喚することができます。これこそが後継者としての資格に他ならないと思いますが皆様はどう思われますか?」
「…」
誰も何も言えない。強気だった元執事長は完全に意気消沈しているし、シェリダンは口を開けたまま放心している。
他の反乱に加担した連中もそうだ、なんならファドラッサ家の重臣の人たちもパットンさんもシェリダンと同じ表情をしている。
「特に反論もないようですので、決まりという事で。シェリダンは牢へ、他の者達もここで平静に務めるように。処分は追って下します」
そう言ってトリッシュと俺達はバトルフィールドを後にした。
再び屋敷に戻り、今度は広めの応接室で重臣を交えて今後の対応を詰める事となった。
俺はもうこの先はできることはないので席を外す事に。
政治の話に首突っ込むのは俺も本意じゃないしね、めんどくさいし。
というわけでクレアと一緒に遅めの昼食を取ることにした。
今回の一件に関するお礼は改めてしてくれるとの事で、そこもちょっと楽しみだったりする。
これで長かった外回りも終わり、王都に戻れば1ヶ月ぐらいはゆっくりできそうだ。
同時刻ファドラッサ家本館応接室、ここではパットンとファドラッサ家重臣、そして後継者として正式に認証されたトリッシュが今後の領についての話を行っている。
「ハダン商会は御用商から外します、いいですね?」
「仕方がなかろう、ただ切るのは無しだ、色々と不都合がある」
「そもそも御用商という仕組みを無くすほうがいいかもしれませんな」
重臣やパットン、トリッシュが喧々諤々で会議を行っている中、ウィルとカスミは軽食をつまみつつのんびりと休憩をしていた。
「上手くいきましたね」
「ええ、シェリダンがまともな人間でホント良かったわ!」
ここでいうまともは貴族としてまとも、という事。
まともな人間であればあるほど思考は読みやすい。
「ともあれ、これで王都に戻れますね」
「テンマへの仕込みもほぼ完了したしようやく一段落できそうだわ」
お互い上機嫌で談笑しているとトリッシュがこちらに歩み寄ってきた。
「お待たせしましたお二人がた、こちらの喫緊の課題はあらかた片付きました」
「お、じゃあやろっか!」
当然ながら議題はテンマの事である。
「トリッシュはファドラッサ家の後継者ではあるけどもテンマに嫁いで王都へ行きます、これは確定。文句のある人はいないはずよ」
家臣へはトリッシュとパットンから既に王機デッキの何倍もの強さを持つデッキをトリッシュに貸与したり、<地王機ファドラッサ>の召喚方法をテンマから伝授して貰った事を説明済のため、反対など出るはずもなかった。
「というわけなので領地運営は今後15年ぐらいはパットン様に頑張って頂きます、その後トリッシュとテンマの子供に継がせる形で」
「命の恩人が婿となるのです、せいぜい死なぬよう気張るとしましょう」
パットンは今年で45、孫を待ってもなんとかなる年齢だ。
子供が流行り病や事故で死ぬ事もあるので、後継者選びと権力譲渡は早めに行われる事がこの世界では多い。アクシデントが会った場合今回のように孫の世代までギリギリ引っ張る事もできる為だ。
「しかしシェリダンも愚かな事よ…あと1日待てば領主となっておれたものを…」
パットンが名残惜しそうに呟く。
「繰り返しになりますがパットン様、シェリダンの処分如何によっては今後トリッシュや王家の障害となる可能性があります、実の息子に対し私がこのような事を言うのは差し出がましいかもしれませんが、くれぐれも考慮の上判断なさってください」
それに対しカスミが牽制し、パットンが力なく頷く。
自分の未来の旦那の障害にもなるのだ、ここはきっちり言い含めておく。
「ではお父様、私は明日よりカスミ王女と一緒に王都へ向かいます」
「ああ、分かった。頑張ってきてくれ」
「ええ、それはもう」
トリッシュは満面の笑みで答える。
「じゃあ後は諸々の細かい部分の調整を行って解散ということで、くれぐれもですが今日の事は国内選抜までは喋らないようにお願いいたします」
カスミがまとめ、会議は終わりに向かい走り出す。
こうして1人の男の人生のレールがまた延伸し、舗装された。
「テンマ様、あーーん」
「あ、あーん…」
その頃渦中の男はクレアに食後のデザートを食べさせて貰っていた。
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