第22話 女三人寄れば姦しい
「シオン=セレクターです、よろしくお願いします」
眼の前の女性が頭を下げる、ネフィさん夫妻の娘さんらしい。
両家同士の話はまとまったらしく、皆さんでお茶会でもという事になりそこで紹介された。
パッと見の印象はキツそうな感じ、身長も俺と同じぐらいだし結構圧迫感ある。
「ほ、本日はお日柄も良く…」
「シオンさんお見合いではないのですから…」
「しかし何を話せば…人様にお話できるような趣味も特技もありませんし…」
ん、なんかちょっとイメージと違うぞ…。
「ええと、テンマ…です、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします…」
「シオンはね、私より2歳上なの!」
「はい、カスミ王女の2歳年上でございます」
カスミに撫でられながら真顔で答えるシオンさん
前言撤回、この人結構ポンコツだ。
「次行く家の受け入れ準備がまだ整ってないから、しばらくセレクター領にご厄介になる事になってね。その流れで少しでも交流をって話になったのさ」
「滞在費などはセレクター家で持たせていただきますのでご安心を」
ウィルの言葉にネフィさんが重ねる。
ああ、そうだ。
「そういえばネルさん、提供するカードの事なのですが今お渡ししますね」
「よろしいのですか?」
「<運命>デッキは動きの完熟に時間かかるので早いほうがいいんですよ」
「なるほど、いずれにせよ早い分にはとてもありがたいです」
俺はネフィさんに<運命狂恫態ガベルザード>他10枚ほどのカードを渡した。
ウィルが割と真剣な目で見ていたので声を掛ける。
「大丈夫だ、お前んとこにも当然ある、ていうか<光響聖騎士ハルモニア>は強化形態あるから」
ウィルの顔が急に真顔になる、久々に見るねこの顔。
「…初耳だねその話は」
「言ってなかったからな、まあ貴族家巡りが終わったらおいおいな」
「期待しているよ」
結局その後一週間ほど、女性陣と釣りをしたり、貸し切った上で女性陣と買い物をしたりと、主に女性陣と中心に楽しんだ。
…そう、とにかく女性陣とずっと行動を共にしているのだ。
今は貸切状態の富裕層向け洋服店で女性陣が俺の服を選ぶという拷問を受けている。
こういうときの女性陣のパワーは凄い、シオンさんですらいきいきしてら。
そのシオンさんともこの1週間でかなり仲良くなり、自然と会話する事もできるようになった。
そして会話を進めていくうちにシオンさんが俺の予想を遥かに上回るポンコツな事が判明し、なんというか妹のような目で見守れるようになってしまった。
外見はしゃんとしており、正装して立っていれば物凄くかっこいいのに運動全般が苦手、不器用で包丁も持たせれないなど弱点ばかりな上にかなり気弱で、カスミ王女と一緒にいるのを見ると年上なのに妹扱いになっている。
なんならクレアからもうっすら年下扱いされている、そんな3人は本当に可愛い。
そして聞けばシオンさんはお見合いを失敗し続けていたが先日やっと相手が決まったとの事でネフィさんが適齢期を過ぎなくて良かったと物凄く喜んでいた。
なんでも貴族は21を超えると途端に婚姻が成立し辛くなるのだそうだ、その流れで今のシオンさんやカスミ王女が言うにはこの世代の男性陣はハズレが物凄く多く、当たりを引くのに非常に苦労したらしい。
「私の未来の旦那様はとっても優しいのよ」とはカスミ王女談。
そういえば移動中なにか聞いたな、貴族の男性は横暴な人が多いって。
そんな話をしつつ更に3日ほどゆるゆると過ごしているとウィルから他家の準備が整ったと連絡が入った。
「待たせてすまないね、明日に出発ということになったから」
「だいぶ急だなあ」
「今回はちょっと遠くてね、北部じゃなくて東部なんだ」
へえ、別の地域なのか。
「俺はよく分からないが、派閥とかは大丈夫なのか?」
「まさにそれで揉めてね、僕らの受け入れに渋った貴族家がいたのと、今から行くファドラッサ家周辺が最近ごたついててね…」
「…ファドラッサってもしかして<地王機ファドラッサ>か?ジョイントカードの」
「うん、それだよ」
ま、マジか…。
「…俺<地王機>デッキ持ってないんだけど…」
「えっ!?」
ウィルが声を上げる。
<地王機>。
シーズン6で出てきたテーマで出た当時はそこそこの性能だった。
正直特に何か特徴があるわけではない、ちょっと墓地利用ができるぐらいのテーマだ
そこからシーズン11まで新カードは出ていない。
「そうか…いや…そうだよね、持っていない可能性も十分あったのか、そうか…これは僕ら側の完全な落ち度だ」
どうやら俺がデッキを持っていないということが完全な想定外だったらしい。
よくよく考えれば俺も向こう側にどんなテーマがあるとか、そういう話は教えてないし、俺が<魔導師>デッキを使っていたのを知っているのもウィルだけだ。
それにシーズンの話なんかも一切伝えていない。
それであれば向こうは貴族家が持っているデッキテーマがカードの全てだ、と思ってもおかしくない。
ここらへんは王家もハルモニア家も俺に何かを隠してるし、俺も全ての手札を切った訳じゃないというお互いぼんやりした協力関係を結んでいるが故の齟齬だろう。
ただ<地王機>は確か召喚条件がかなりゆるい、それならばやりようがあるはずだ。
「落ち着け、<地王機ファドラッサ>はそんなに弱いカードではないし、手持ちカードで恐らくなんとかできる。ただプランの組み立てに少し時間が欲しい、出発を遅らせれないだろうか」
「…1日程度なら」
「分かった、今から部屋に籠もるから誰も入れないでくれ」
俺は部屋に鍵をかけジャッジ用の資料で<地王機ファドラッサ>のデータを確認する。
地王機ファドラッサ 8/11000/10000
ジョイント召喚8
コスト5以上のユニット1体以上+コスト2以上のユニット1体以上
このカードを召喚した時、カードを1枚引く。
このカードが攻撃する時、受けるダメージは-3000される
このカードが攻撃を受ける時、攻撃力は+3000される
…なんとも言えない性能だ…せめて攻守で上がる数値が逆であれば…。
ただめちゃくちゃ弱いという訳じゃない、この世界なら十分使える性能だ。
手持ちデッキを比較しなにかいいものはないかひたすら思案する。
「テンマ様、大丈夫でしょうか…」
「今回の一件に関しては完璧な僕らの落ち度だ、不審に思われるのを覚悟してでも突っ込んで話を聞くべきだった」
この齟齬の原因は王家とハルモニア家の天馬への対応を現段階であくまでも「お願い」レベルに留めていた事が1つとしてある。
理由としては拘束しカードを奪取しても使えなくては意味がない、例え拷問にかけたとしてもその自白が本当である保証がない…など、理由は多岐にある。
奇しくも天馬が考えていた「殺されるよりは生かしておいたほうが良いと思わせる」という方針に沿う動きをしていたのだ。
カード知識が圧倒的に天馬のほうが多いのもあり、王家側では制御できない、ある程度自由に動いてもらったほうが上手くいくだろう…という考え方があったのも大きい。
「今回はテンマがなんとかしてくれそうだからいいけど、これ以上齟齬が起こると困るわね…」
「そうですね、少なくとも婚姻関係に結ぶ各家とテンマの考えはある程度一枚岩にしておきたい所です」
王族としての顔で思案するカスミに対してウィルが答える。
「…計画を早めましょう、ファドラッサ家の問題が片付き次第すぐに事を起こします。ハルモニア家嫡男ウィル=ハルモニアに命じます、この事を実家とタケハヤ家に連絡なさい。セレクター家と王家には私から連絡します」
「承知いたしました」
「クレア、テンマとの接触を現状の2倍に増やすわ、ギリギリまで密着して」
「わかりました、シオン様はどうしますか?」
「彼女はちょっとまだボロが出そうだから王家側で一度引き取って教育ね、ナギちゃんも同じように」
「わかりました」
こうして天馬にとってのXデーが一気に1ヶ月以上縮まる事となった。
「ウィル、出来上がったよ、多分なんとかなる」
部屋に籠もってからやや半日、俺はウィルに試案完成
「すまないね、本当に…」
「ただ、提供するカードの量がかなり増えそうだ、そこは大丈夫だろうか」
「こちらで調整するよ、とりあえず1日ではなく2日余裕ができたから、今日はもう休んでくれ」
俺の考えたプランは単純だ、というかこれしか取りようがなかった
<地王機>に<天下三槍>を混ぜる。
<地王機>デッキの皮を被ったグッドスタッフデッキだ。
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