第20話 セレクター家とハルモニア家の思惑
ネフィは<運命狂恫態ガベルザード>を見た瞬間、勝つ事を諦めた。
王家からの連絡で話には聞いていたが、なるほどこれは想像以上の強さだと悟った。
勝つとか負けるとかの問題ではない、争いの土台に立てていない。
ネフィからするとそもそもハルモニア家との確執などどうでも良いのである。
100年近く前の、しかも惚れた腫れたの話である。
家臣がうるさいからポーズは取る、その程度の事だ。
そしてネフィは天馬の言った言葉を頭の中で反芻していた。
「セレクター家が所有していないであろう<運命>のカードも何枚かお渡ししましょう」
つまり、つまりだ。
既に教えてもらった<運命の女神セレクター>の召喚方法だけではなく、もしかしたら<運命狂恫態ガベルザード>が貰えるかもしれないのだ、ただ関係修復をするだけで。
首尾よく関係改善をすれば更に段階を踏んで追加での譲渡の狙える。
ネフィは思った。程々で切り上げて全力で媚びようと。
「<運命の女神セレクター>のOUで、<運命の巫女フォーテーリ>の効果をコピーし、<運命狂恫態ガベルザード>の効果を無効化します」
なるほどそうきたか。しかし
「してもいいが、[食いしばり]は無効化されるが[選択]の効果は無効化されないぞ」
「な!?」
まあ驚くよね。
ルールを追加すると特殊効果を付与するは別物なのだ。
特殊効果の付与は文字通りユニットに付与するものなので無効化で消せる、だがルールを追加するは文字通りルールを追加するもののため、カード効果を無効化しても
一度追加されたルールは条件を満たすまでは消えることはない。
「…対象を変更し、<運命の使徒ラクトン>の[盾持ち][食いしばり]を消去して、<運命の女神セレクター>で攻撃します」
これが<運命の女神セレクター>の弱点、出すタイミングを間違えてしまうと機能不全を起こすのだ。
本来であれば墓地に潤沢にカードが溜まってから出すものであって、このタイミングで即召喚するものではないのだ。
「<運命の守り手カーグラ>を召喚し、[選定]効果1を発動します」
運命の守り手カーグラ5/3000/6000
[選定]
1.自身に[盾持ち]を付与
2.他のユニットのタフネスを+2000する
「俺のターン、<運命の剣 ルモリア>を召喚、[選定]がどちらも発動する。[選定]効果1を<運命の女神セレクター>に発動し、更に[選定]効果2で全体に2000ダメージを与え、<運命の女神セレクター>を破壊」
運命の剣 ルモリア 6/4000/3000
[選定]
1.相手ユニット1体に4000ダメージを与える
2.相手ユニット全員に2000ダメージを与える
<運命の剣 ルモリア>はマナコスト比だとかなり貧弱ではあるが
選定がどちらも発動するとなれば話は変わってくる。
このように、<運命>カードは<運命狂恫態ガベルザード>が追加された結果
再評価された古いカードが多いのだ。
「更に俺は…」
「お待ち下さい、降参です」
む、思ったより早いな。
「理由を聞いても?」
「<運命の女神セレクター>が破壊されてしまった所ですね、<運命狂恫態ガベルザード>という未知のカードが出てきたことを勘定に入れなくてもあのタイミングで召喚してしまったのははっきりミスであった、と今は思っています」
「長年召喚できなかったカードなのです、無理もないでしょう」
「年甲斐もなくはしゃいでしまいました、お恥ずかしい限りです」
ネフィさんは笑いながら続ける、愛嬌あるなあ。
「これは恐らくですがもっとマナが溜まってから出すものなのでしょう?」
「その通りです」
「早い段階で高コストのカードをセメタリーに送る必要もありそうですね」
「それもありですが、どちらかというと<運命の女神セレクター>は低コストのカードをコピーして…」
自然と感想戦が始まる。
後ろでセクトさんがメモりまくっててちょっと面白い。
「ご教授頂きありがとうございました、テンマ様のご希望に最大限添えるようこちらも努力しましょう」
よしよし、これで恩返しができたな…と思い振り返ると3人共苦笑をしている、あれ?
「テンマ、おつかれ様。僕としては行動は凄くありがたかったんだが、ちょっとダメだったかもしれない」
「次は私達ともうちょっと打ち合わせしてからやろうね!」
ウィルとカスミ王女が言う。
え、マジ?
「残りの交渉は僕らがやるから、君は休んでいていいよ、大丈夫。うまくやるからさ」
「そうそう!悪いようにはしないから!クレアと一緒に休んでて!」
そう言われクレアと一緒に客室に案内された、なんかまずったっぽいな…
そしてクレアは相変わらず近い…。
「というわけで、詰めましょうか」
あれから会議室へ移動し、ネフィ夫妻とウィルとカスミの4人が机を囲む。
「セレクター家としてはテンマ様の提言を率直に、真髄に受け止め善処するつもりです」
「それはどうも…」
ネフィが満面の笑みで言う、対するウィルは苦笑しつつ答える。
「しかし、私共としてはテンマ様からは頂きすぎのきらいがあります」
「(来たよ)」
こう来るのはウィルも予想はしていた、大貴族家のいざこざとはいえ人死にが出たわけでもなく交流が完全に途切れていたという訳ではないのだ
そのレベルの話にカードを、しかも複数枚提供というのは解決策としてはやりすぎなのである。
ウィルが失敗したと言っていたのはこの部分だ。
テンマのカードの価値のレクチャーをわざとしてなかったのがここで響いてしまった。
「ですので、うちの末娘シオンをテンマ様に嫁がせるという事でどうでしょうか」
「うちとしては問題ありませんが…」
セレクター家からテンマが嫁を取るのはハルモニア家からすると確定事項であった。
なにせこの青写真を描いたのはキャニスなのだ、セレクター家とハルモニア家の関係改善の為に両家当主は水面下で何度か接触しており、クレアをセクトに側室として嫁がせる、もしくはシオンをウィルに側室として嫁がせるなどの案も出ていたが、両家の家臣の反対により頓挫していたのだ。
そこで出てきたのが天馬だ。天馬は今でこそ立ち位置としてはハルモニア家食客だが、テンマを中心とした貴族家が立つのは既に内定しており、立場としてはハルモニア家の寄り子となる。
王家から嫁を貰い覚えもよい天馬が寄り親の対外関係改善の一貫としてシオンを嫁に取ればハルモニア家側からすると本家筋を嫁に出さなくても良いので家臣の反発も少なくなることが予想されるし、セレクター家側もカードの贈与というこちらの世界からすると最大級の謝罪を受け取る形になり、その返礼という形で嫁に送り出すストーリーが作れる為文句も出づらい。
天馬が元の世界への帰還を望んでいることを知っている王家やハルモニア家からしても縛る鎖が増える事には両手を上げて賛成する立場だ。
天馬以外にとってはWinWinの取引という他ない。
「でしたら明日にでも両者の引き合わせと結納の準備を…」
「お待ち下さいネフィ様、テンマ様に対して婚姻に関する話は現段階では全て遮断しています、全ては国内戦の前に仕上げるつもりですので足並みを揃えて頂くようお願いします」
カスミが王族の立場から釘を刺す。
「あら、そうなのですか?お二人の行動見るに既に思い合ってるものかと…」
ネフィが意外そうな顔で言う
「今はまだ慣らしの状態ですので、仕上げの際には事前にお呼びしますので当然ご安心を」
「わかりました、ただ顔合わせはすべきでは?」
「そこは分かっています、ただシオンさんとは面識が2回ほどしかないので、事前にクレアと一緒に打ち合わせをしておきたいですね」
「それでしたら明日テンマ様をうちの旦那に1日連れ出してもらいましょう、そのタイミングで今後の動きを詰めるとしましょう。セクト、任せましたよ」
「は」
こうして、天馬を縛る鎖がまた1本追加された。
4本目である。
「へっくし」
「風邪ですか?最近忙しいですからね」
クレアがハンカチを差し出してくる、だから婚約者がいるのにそういう動きはやめてくれ
もうかなり好きになっちゃってるよ俺。
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