第11話 緋紋機竜ミラエル

「テンマ=ヤマシロと申します、本日は私の為にお時間を作って頂き誠にありがとうございます」


 王城の執務室にて俺は予め教わったヨーロッパ風の最敬礼を国王に披露しながら挨拶をする。

 当然ながら外套とバイザーは外している。


「ガンデラ=ミラエルである、楽にせよ」


 王様はキャニスさんよりは若く見えるナイスミドルで茶の入った黒髪をスポーツ刈りにしている、ガタイもでかく王様というよりは蛮族といったほうがサマになっている、口には出さんが。


「話はキャニスより聞いておる、ミラエルを呼ぶには呪文が必要でありおぬしはその呪文を知っていると」

「左様でございます」

「正直今でも信じられぬが、キャニスにハルモニアを見せて貰った手前確認せぬわけにもいかんからの、この部屋の隣にバトルスペースがある、そこで見せてもらおう」


 隣の部屋には3階分をぶち抜いて作った豪華なカードラプト用の大型バトルセットがあり、そこでキャニスさんと王様が対戦しミラエルを呼び出す算段のようだ。

 移動時に王様より自信の側に寄れのお達しが出たため慌ててそちらへ移動する

 召喚するタイミングで呪文を教えよ、との事。宰相が慌てて止めたが


「ワシはキャニスを信用しておる」


 と笑って退けた、目が笑ってねえぞこの国の偉い人こんなんばっかかよ。


 そうこうしてるうちに戦闘は6ターン目、といっても召喚するだけなので闘いが起こる訳でもなくひたすらターン回してるだけだけど。

 王様が出してるカード見る限り<紋章>デッキを使っているようだ。

 <紋章>シーズン5後半で出てきた○紋機竜を呼び出す為のデッキで、当時としては結構強い。

 なるほどこのカードプールであれば王族になるのに相応しいデッキだ。

 そんなことを考えていると王様が準備ができたらしく目配せをしてきたのでカンペを渡す。


「場の<紋章監査官パトリシア>と手札の<紋章を継ぐ王子ハック><傭兵隊長ギルダー>を使いジョイント召喚」

「その雄大な背に刻まれし緋色に輝く救世の紋様!その煌めきはこの世界を照らし全てを緋に染める!いでよ!<緋紋機竜ミラエル>!」


 3体をセメタリーへ送った瞬間、送られたカード3枚が白く眩く輝く玉となってフィールドに飛び出し、3つの玉が縦に並んでそのまま光を放ちながら龍の姿を形作り、 <緋紋機竜ミラエル>を形作る。

 その姿は銀色の表皮に一本角、羽は肩から生え背中には緋色の紋章が浮かび上がっている四足の龍であった、大きさは意外と小さく4mほど。



 王様めっちゃノリノリだな…と考えつつ周りを見渡すとやっぱり皆びっくりしてる。

 王様も口あんぐりあけてるし後ろにいた宰相の人なんて号泣してる、ウィルやキャニスさんも流石に驚いているようだ。


「まさに…まさに国旗に記された通りの姿だ…素晴らしい…」


 王様は感極まった様子で呟く。


 <緋紋機竜ミラエル> 9/15000/9000

 ジョイント召喚9(コストを合算して9になるようにフィールドと手札のカードを墓地に送って発動する)

 コスト6以上のユニット1体以上

 <紋章>と名の付いたユニット1体以上


 このカードを召喚した時、カードを1枚引く。

 このカードがユニットを攻撃し、破壊した時、

 以下の効果を1つ選んで発動する。

 ○セメタリーをカード5枚をデッキに戻し、デッキをシャッフルする。その後再度攻撃を行う事ができる

 ○相手プレイヤーとユニット全てに5000ダメージを与える


 シーズン5で登場した大型ジョイントユニット。

 特筆すべきはそのステータスの高さで呼べればシーズン11でも渡り合える強さを持つ。

 ただ魔法耐性がない為処理されやすく最速で着地させても返しのターンで除去されてしまいあまり使用されなかった。

 その後もちょくちょくサポートカードが出たがあまり効果がなく、長い間日の目を見なかったがシーズン10で登場した超スペックのサポートカードにより一気に環境デッキのコアとして絶賛大暴れ中だ。


「テンマと言ったか、大義であった」

「お褒め頂き誠に光栄です」

「おぬしの求める条件はおおよそキャニスより聞いておる、全て認めるとしよう。しかし200年間謎だった召喚方法の最後のキーが呪文とはな…」

「王家の資料にもそのような話は一切ありませんでした、一字一句間違えてはいかんとなると見つからないのも頷けます」

 宰相さんが続ける。


 一度執務室へ戻り一息ついたあと王様が口を開く


「してテンマよ、おぬしはこれに加えて<緋紋機竜ミラエル>をもう1枚所有しており、それをとの事だが、本当かの?」


 そういう設定になったか。


「仰せの通りでございます。キャニス様、お願い致します。」


 キャニスさんは携えていた豪華な箱を王の前に跪いて差し出し献上する。

 王が受け取り、中を確認し頷く。


「確かに、<緋紋機竜ミラエル>を受け取った。おぬしの王家への忠誠、誠に嬉しく思う」

「失礼ですがガンデラ王様、もう1つ贈らせて頂きたいものがございます」

「む?」


 王様が怪訝な表情となる、これはハルモニア家内でしか打ち合わせしてないからな。

 俺は懐からカードを取り出し、キャニスさんにならい王の前に跪いてカード6枚を差し出す。


「これは…?」


 王がカードテキストを読み進めるうちに表情が固まる。

 そりゃそうだ、渡したのは<破撃の紋章魔術師ダゴン>と<紋章守護機バダダギン>

 シーズン10の強力なサポートカードだ。


 <破撃の紋章魔術師ダゴン>4/1000/2000

 [ジョイント]

 このカードはデッキに<紋章>と名の付くカードが25枚以上存在しない場合、召喚できない

 このカードが場に出た時、ユニットに対して4000ダメージを与えてもよい

 この効果で相手を破壊した時、このカードのコストは[6]となる


 シーズン10で登場した超強力なジョイントサポートその1。

 4マナの時間帯で4000はかなりの範囲のユニットを破壊することができるため

 4マナのタフネス5000をダゴンラインが呼ばれて評価される一因となっている。

 自分のユニットにも使えるので、登場時効果を使い終わったユニットを破壊して

 そのままミラエル召喚につなげる事もできる。

 その汎用性の高さから<紋章>デッキには当然のごとく4投される。


 <紋章守護機バダダギン>3/1000/4000

[盾持ち][ジョイント]

 手札の<紋章>と名のついたカードを1枚相手に見せる事で発動できる。

 このカードが受けるダメージは常時2000下がる、この効果は破壊されるまで永続する。

 このカードが戦闘行う度にカウンターを1つ乗せる

 自分のターンにカウンターを取り除いて発動することができる

 カウンターを1つ取り除く度にコストが1上がる


 シーズン10で登場した超強力なジョイントサポートその2。

 とにかく硬い。2000カットのせいで小型ユニットでは処理できず不用意に殴ればカウンターが溜まりコストが上がってジョイント召喚に利用される。

 後半に出しても6000火力で仕留めないと殺せないという点は実に厄介で相手の手札消耗を狙える。

 デッキに応じて2枚ほど投入されることが多い。


「そちらの2枚は王家のデッキが更に強くなるためのものです、勝手ですが私からの忠誠の証として献上させていただきました」


 これで向こうの心証もだいぶ良くなっただろう、あのキャニスさんやウィルから1つも悪口が出なかった人物なのだ、それなりの人格者であることは間違いないだろう。

 それならば徹底的に取り入るのみだ。

 紋章デッキは販売用デッキに2つあったからバラしても問題ないしね。


「…大義である、おぬしの忠誠、重ねて受け取った」


 そう言い終わると、今まで後ろで控えていた王妃様がぱんぱん、と手を叩いた。


「さて、今日は我が王家に心強い仲間が加わった記念すべき日です、この後は歓迎の宴を行いましょう!」


 そう言い俺やウィルやクレアを別室へ案内してくれた。

 王様やキャニスさんは後からくるとのこと。








 執務室には宰相とキャニス、そして王が残った。


「いや驚いた、<緋紋機竜ミラエル>だけでなくこのようなカードまで持っているとは」


 ガンデラ王は6枚のカードを眺めながら言う。

 この国の王権は基本長子相続だが、カードラプトが強くなければ話にならない。そのため幼い頃より訓練を詰みカードの審査眼というか、どんな動きをするかは大体分かる。

 この2枚は明らかに今まで使っていた<紋章>カードとは違う一線を画すスペックを持っている、ガンデラ王は直感的にそう感じた。


「どうです、惜しいでしょう、あれは」

「その通りだな、あの者の持つカードの詳細は非常に気になるが、カードの腕前含めて役に立つのであれば取り込んでしまうほうが良い」

「知識も有用ですからな」


 キャニスと王は悪い顔でお互いニヤつきながら続ける。


「では協議通りに。降嫁させるのはカスミ様で?」

「ああ、この後の夕食会に参加させ、そこで引き合わせる。本人には既に話をつけておるからの」

「ありがとうございます、クレアも喜ぶでしょう」

「その後の所領巡回にも同行させる、良いな?」

「それはもう」


 王家はハルモニア家からの話が正しかった場合には天馬を召喚貴族として任命し召し抱える算段を付けていた。

 天馬自身、このままいけば召喚貴族となるのだろうなという予測は選択肢の1つとして持っていた、だが自分が2人の女性と結婚させられるなど夢にも思っていない。

 知らぬは本人ばかりなり、である。


 ――――――――――――――――――――――――――――

 6枚の内訳はダゴン4バダダギン2です。


<紋章監査官パトリシア>6/7000/8000

 このカードが召喚された時 <紋章>と名の付く魔法カードを1枚デッキからサーチし、デッキの一番上の置いてもよい


 シーズン6に出てきたユニット

 そこそこ強いがドローが潰れるのが痛い。


 <紋章を継ぐ王子ハック>1/1000/1000

[ジョイント]

 このカードを手札から墓地に送る

 その後デッキから<紋章>ユニットカードを1枚手札に加える

 同名カードの効果は1ターンに一度しか使用できない。


 シーズン6に出てきたジョイント、サーチなんでもござれの便利ユニット

 その強さはシーズン11でも健在


 <傭兵隊長ギルダー>2/2000/1000

 召喚された時、フィールドのカード1体の攻撃力を+2000する


 汎用便利カード

 ユニットというよりは強化カードのような扱いで使われる。

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