第7話 アニメモード

 カードラプトは今でこそ子供にも大人にも受けているカードゲームだが

 初期の初期は子供向けのゲームであった。


 そんなカードラプトが最初に跳ねた要因はアニメだ。

 とにかくこのアニメのデキが良く、カードを知らない人たちにも最近アニメが面白いと話題になり一気に人気が出た。


 当然、アニメ制作側は更に盛り上げるためにいろいろな事を始める、そこで考えついたのが召喚口上だ。

 シーズン4から始まったアニメでは設定が一新されると共に追加されたダブル召喚を行う際は必ずキャラクターが召喚時に決まったセリフを言う事になった。


 カード制作側もアニメの人気にあやかろうとシーズン4でのアニメに合わせて

 新しいデッキボードを販売し、それに搭載されたのがアニメモードだ。


 このアニメモードを適用した状態でデュエルを行うと、ダブル召喚以降の召喚法と一部の<進化>と<合体>カードは

 召喚時に特定の口上を言わないと召喚自体が失敗する仕様となっている。

 そして制作側はそこにプラスして驚きの制約を付けたのだ。


 全国大会TOP8以上のバトルでは特別な事情がない限りはアニメモードを使用してバトルを行うこと。


 当然めちゃくちゃに炎上した。当時やってたのは子供とオタクが殆ど、当然大会に出るのはオタクが大半でそんな恥ずかしいことはできないと。

 しかし制作側は強行。大会直前まで炎上は続きすわ失敗するかと思われたがフタを開ければ意外や意外、プレイヤーよりも大会視聴者に好評だったのだ。

 これによりトッププレイヤーのアイドル化が急速に進むこととなり人気が更に広がって行った。


 このルールはシーズン11でも残っている。


 そしてここからが重要な点だ。

 シーズン4以降のデッキボードは工場出荷状態ではアニメモードに設定されている。

 買ったばかりで出してそのまま使うと口上を読み上げない限り召喚に失敗するのだ。

 フリーズ>再起動でもアニメモードに戻ることがあり、デュエル中にジャッジが呼ばれる要因一位となっていた。


 当然ジャッジや店舗大会運営側からもアニメモード以外に出荷設定を変えてくれと直訴もあったが、あくまでも子供の為にそうしており説明書にも口上がある事を記載している為変更の予定はなく、分別の有る年齢の人間は手動で変えれば良いという返答に終始し、この状態が今の今まで続いている状態だった。



 恐らく、恐らくだが彼らの使うデッキボードは作り的になんらかの技術で元いた世界のデッキボードを模倣したものなのだろう。

 そして工場出荷状態のものをそのまま真似て作り設定変更機能が再現できなかったかオミットされた、という事なのではないだろうか。


 デッキボードから口上を確認する機能もなく、外部媒体頼りだったのも要因だろう。

 ノーヒントでこんな口上にたどり着ける訳もない、長年誰もわからなかったのも納得がいく。



 そんな事を考えつつ対面している親子を眺めるとまさに唖然という言葉が似合う顔で2人共ぼけっと突っ立っている。

 俺の後ろの執事さんがサーベルをすり落としたようで、金属が叩きつけられる甲高い音が響く。


 その音で我に帰ったのか、2人ともハルモニアに駆けより眺めながらなにか話をしている。

 めちゃくちゃかっこいいからなハルモニア、俺もフィギュア持ってるし…。



 一通り相談が終わったようで、2人がバトルを終了しこちらへ近付いて来た。



「…驚いた!驚いたよ!まさか本当に召喚できるとは!」

 興奮した様子でウィルさんが俺に両手で握手を求めてきた。

 女子中学生のようなはしゃぎっぷりに少し驚きを感じたが200年ともなるとまあこうなるのは仕方ないだろう。


 キャニスさんも孫を見る時にこんな顔になるんだろうなという笑顔でこちらに話しかけてくる。

「疑って申し訳なかった、あれこそまさに我が家の家紋に刻まれた両刃剣、正しく<光響聖騎士ハルモニア>だ」

「いえ、信じろというのが難しいでしょうし」


 これは本心だ、いきなり子供が拾ってきた怪しい男の言う通りにしたら200年越しの悲願が叶うなど漫画やアニメでしかあり得ない。


「条件に関しても息子から聞いている、こうなった以上受け入れる腹積もりだが3人で委細を詰めたい、場所を変えて話をしようじゃないか」


 さて、第一関門は突破した。身の安全も恐らく確保した。

 いかに俺を高く売れるか、やってやろうじゃないか。


「カシュー、私の部屋に軽食を3人分頼む。それと人払いだ、館内を無人にしろ。妻と娘には買い物にでも行って貰え、ネイサンを部屋の前の警備に回せ、他は外で警備だ」


 ちょっと前言撤回しそうになってる、本気じゃん。



 そこからキャニスさんの執務室へ移動し、応接椅子に座りながらウィルさんに話をした事を改めて話す。

 暫く黙って聞いていたキャニスさんが口を開く。


「…本来であればこのような世迷言、息子共々叩き出す所だが、あの召喚を見てしまっては言い分を信じる他ないだろう。分かった、君の身の安全と荷物の自分での管理を認めよう、と言いたい所だが」


 む?


「その荷物の中身は何なのだ?私としてもその中身が例えば禁制の物であったり、それこそ毒物等を持ち込まれているとなれば一大事だ、そもそも確認せずに我が家に持ち込ませている事自体が破格の対応と言える、私にはその中身を確認する権利がある、そうではないかね?」


 完璧なる正論だ、ぐうのねも出ない。

 …ここは見せるしか無いか。


「…わかりました、お見せします」

「そうか、少し待ってくれ、ネイサン!中に入れ!」


 外に控えてたデカい兵士が入ってくる、そして剣を抜き俺に向ける。


「今更大丈夫だとは思うが、念のためな」


 俺は背嚢を開け、意を決してクリアケースに入れられたデッキをとりあえず10個ほど中から出して机に置いた。



「「「「…」」」」



 時間が止まったように俺以外の3人が硬直している。

 やっぱりこうなったか…。


 一番最初に再起動したのはキャニスさんで、ネイサンと呼ばれた兵士に向かってこう呟く


「ネイサン、外の護衛に戻れ。今見たことはすべて忘れろ、漏れたら家族ごと処理する」


 青い顔をして退室する兵士さん、まずったかもしれんねこれは。


「…中を見ても?」

「どうぞ」


 貴重な骨董品を触るかのような手付きで慎重にケースから出し2人がカードを眺める

 一通り眺めた後にウィルさんが言う。


「1つ聞きたい、君は我が家がいくつデッキを保有しているか知っているかい?」

「申し訳ありません、存じません」

「…4つだよ」

「へ?」


 思わず変な声が出た。4つ?


「そう、4つだ。勘違いしないで欲しいんだがカードが無いわけじゃない、<光響>として組み上がってるのが4つという意味だ。そして君が今積み上げたこのデッキの数、そしてその大きな鞄にまだ入っているのだろう?僕の言いたいこと、わかるよね?」

「…」


 声がでない、完璧にやり方を間違えた。


「その上でハルモニアの枚数は2枚だ、今テンマ君が出したデッキを見せてもらう限りとんでもない数のダブルカードが入っていたデッキ、さらにダブルと同じく召喚法が不明なジョイントカードもあった、君は…」

「待て」


 キャニスさんのよく通る声がウィルさんの言葉を遮る。


「君は私達が絶対に持っていないであろう<光響>のカードを持っているとも聞いた、その上でこのデッキの内容だ。もしかして君は<光響聖騎士ハルモニア>以外のダブルカードの呪文、といえばいいか、それを知っているのではないかな?」

「…はい、その通りです」

 ここで嘘を付いても仕方がない、勝負に出よう。


「私はそちらに<光響>のカードを融通する用意もあります、召喚法が不明なカードの召喚方法も大凡わかります。必要があれば<光響>以外のカードもある程度提供する用意があります」


 だから


「身の安全と情報が欲しいのです、元の世界へ帰るために」





―――――――――――――――――――――――――

ジョイントカードについては後々

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