第6話 召喚に必要なもの

 ウィルが執務室の扉を叩く。


「父上、ウィルです。よろしいですか?」

「ああ」


 扉の先の豪華な執務机で書類に目を通していたのは金髪オールバックの壮年の男性、年相応に老けているが顔面は整っており対面する男との血筋を感じさせる。

 彼の名はキャニス=ハルモニア、ハルモニア家現当主である。


「ご苦労だったな、国内選抜の日取りは確定したか?」

「ええ、ですがそれよりも先にお耳に入れたい事が、できれば人払いをお願いします」


 一瞬、怪訝な表情になったがすぐに側仕えに目配せし退出させる。

 最後の1人が退出し、ウィルが鍵を掛けたのを確認し声をかける。


「で?どうしたというのだ?」

「まだ確定ではありませんが、<音響聖騎士ハルモニア>の召喚が可能になりそうです」

「!?」


 キャニスが目を見開く。


「…それは王都での話か?」

「いえ」


 そうだろうな、とキャニスは一人納得した。

 ハルモニアが召喚できるということはイコールで他のダブルカード、所謂ロストブルー問題の解決の糸口が見えたという事だ。

 そんな話があるのならばとっくの昔に目の前の息子の頭越しに連絡が来ているはず。

 そう考え息子の報告をひとまず聞くこととした。


「王都からの帰り道に非常に珍しいとあるを拾いましてね」

「ほう」

がバトルした際にダブルカードを召喚しまして、保護して話を聞くと問題を解決できるかもしれない、と」

「…今ならば洒落か、寝ぼけていたとして不問にするが?」

「私も馬車で寝て起きたらすべてが夢だったんじゃないかと思いましたが、生憎そいういう事ではなかったようです。それにダブルカード以外にも見たことのないカードを使っていましたからね、リスクを承知で引っ張ってくる価値はあったと思っています」


 キャニスから見てウィルは言動も態度もやや軽いが勘所はちゃんと抑えれる器量を持つ男で、既に妻帯もしており夫婦仲も良好。孫もそろそろか、という自慢の息子だ。


 冗談であってもそんなことを言わないし、更に言えば夜道で怪しい者とバトルすることはあってもそれを拾ってくるなどということはよっぽどがなければする事などありえない。 

 キャニスは息子にそのぐらいの信頼は寄せていた。


「…は今どこに?」

「客間で休ませております、ご要望であればすぐにでも。練兵場も抑えていますので」

「箝口令は?」

「ネイサン以下10名に対して行っております、他に目撃者はおりません」

「すぐに確認する。練兵場の人払いを、警備はその11名にさせろ」

「わかりました」


 その後委細の打ち合わせを行い、彼らはそれぞれ部屋を出ていった。










「ねみ…」

 馬車よりマシとはいえ椅子で寝るのはなかなか過酷。

 結局1時間足らずで起きてしまった。

 背嚢を抱えて寝たが中身を取られている形跡はなし。

 よしよし、今の段階ではちゃんと守ってくれているな。


 客間は日本の俺のアパートの部屋の3倍ぐらいの広さで、変に豪華ではない分逆にお金のかかり方が気になるまとまったセンスのいい部屋だ。

 海外の一流ホテルなんかはこんな感じなんだろうか。


 用意されていた軽食をつまみつつ情報収集も忘れない。

 食事に関しては若干薄味、香辛料が入ってないとかクソまずいとかいうそんな感じではない、貴族の飯だからかもしれないが。

 部屋の本棚や馬車で車窓から見えた風景を考えると恐らく言葉だけではなく使われている文字も日本語だ、謎が過ぎる。

 トイレもかなり流れが悪いが水洗トイレが客室にも備え付けられている割に移動は馬車だったりで技術レベルのちぐはぐさが非常に気になる。

 ほんとなんなんだこの世界は?


 色々と考えていると扉がノックされ、外からウィルさんの声が聞こえた。


「テンマ君起きてるかな?例の一件の実践をするために出てきて欲しいのだけど」


 もうやるのか。

 まあ推定不審者を長居させる理由もないか、俺は返事をしてそのまま部屋を出る


 さあ、売り込み開始だ。

 せいぜい高く俺を売りつけてやろう。













 ウィルさんが案内してくれた練兵所に入ると、そこにはカードラプト公式大会用の大型ブースに酷似したものが4つ並んでおり、その中心に金髪オールバックのイケオジと先ほど見た執事さんが立っている

 イケオジも執事の人も目が笑ってねえ、怖い。


「ハルモニア領主キャニスだ、息子が世話になったようだな」


 イケオジに言われ俺は頭を下げる、わかってはいたけどこの人が親父さんか。

 これからこの人に売り込むのだ、失礼のないようにしなければ。


「テンマ=ヤマシロです、この度は貴重な機会を頂き誠に光栄に思います」


 知ってる限りの丁寧な言葉使いで返答する。

 あってるよなこれ…


「世辞は良い、話は息子から聞いておる。ダブルカードを召喚できるかもしれないとの事だが」

「ウィル様が仰っている事が本当なのであれば恐らくは」

「では、実際にやってみようではないか」


 値踏みするような目で見られている、そりゃそうだよな、怪しい服の上から外套被ってるだけだもん。


「召喚するのはキャニス様でよろしいですか?」

「当然だ、もし本当に呼べるのであればそれは家長の私の役目であろうよ」

「ではまず、召喚するところを実際に見せて頂きたいのですが」

「ウィル、付き合え」


 そう言って2人でバトルを始める。

 2人とも<光響>デッキか、カードの枚数が足りないという訳ではなさそうだ。

 眺めている後ろで執事さんがサーベルを後手に持って立っている、恐ろしい。


 そうこうしてるうちにキャニスさんが場に<光響騎士サクソス>を2体揃えた、これは来るかな。

「コスト3の<光響騎士サクソス>を2体で<光響聖騎士ハルモニア>を召喚」


 そう宣言した瞬間にサクソス2体が光球に変化し回りながら合体、するかに思えたが

 しばらく回転し続けたあと元のサクソスに戻りそのまま終了した。


「どうかな?君はこれを解決できると息子に言ったようだが」


 キャニスさんが強めの口調で言う。

 うん、これ間違いないな。


「執事さん、申し訳ありません、紙と書くものを貸して頂けますか?」


 自前のメモ帳は背嚢にあるがボールペンなどを見られるのは現段階では得策ではない。


 キャニスさんが目配せして執事さんに用意させる、暫くして持ってきたのは羽ペンといわゆるわら半紙のようなもの。


 俺羽根ペン使ったことねえぞと思いつつも慣れない手付きで文章を書く


 緊張で手が震えたがなんとか書き終えた、3人の視線がめちゃくちゃ怪訝になってる。

「キャニス様、申し訳ありませんがハルモニアを召喚する時にこの文章を読んで頂けますか?」


 そう言い執事さんに紙を渡すと、それを目を通さずキャニスさんに渡しに行く、プロだなあこの人。

 執事さんから紙を渡されたキャニスさんは困惑した表情で俺の書いた文章を見る、いつの間にか対面からウィルさんも文章を見に来ている。

「これを一緒に言えと?」

「はい」

「…違っていた時の身の振り方は考えておくようにな」


 超怖ぇ。


「コスト3の<光響騎士サクソス>を2体でダブル召喚」

「…眩く輝く光の戦士よ…今ここに響き渡る…福音と…共に…聖なる鎧装を身にまとい…光の刃で眼前の敵を打ち砕け…<光響聖騎士ハルモニア>…召喚」


 カンペを見ながらキャニスさんが言った刹那。


 先程とは比較にならない光量で<光響騎士サクソス>2体が光球となり回りながら合体

 し青い光を放ちながら巨大なグレートソードを持った光り輝く全身甲冑の騎士が

 場に降臨した。


 ビンゴだ。







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