第4話 召喚貴族とダブル召喚

 ダブル召喚、それはシーズン4から登場した召喚方法である。


 基本条件は同じコストのカードを2体以上を場に揃える事で

 その2枚のカードに重ねて召喚する(召喚した段階ではセメタリーへ行くことはない)

 その他呼び出すカードにより条件は違う。


 出た直後こそ「呼ぶより元の奴らで殴ったほうが早い」と散々言われていたが

アニメで主体となった召喚法ということもありシーズン4終盤にはそれなりに使える召喚法になっていた。

 そしてシーズン11の今もバリバリ現役で、最早それはダブル召喚なのか?という明らかな脱法召喚法も存在する。


 この召喚の最大の特徴はOU《オーバーユーズ》という効果で、カードごとに決められたマナを支払う事により様々な効果を発動し、この発動回数は下敷きとなったカードの枚数で決まる。

 つまり簡単に言えば呪文を内蔵したユニットという事。

 また、マナコスト欄に数字が書いてあるが、これは召喚において必要ではなく

 OUで使用するマナの数字の為、召喚自体にはマナを必要としない

 そのぶん素のステータスは少し低めの設定になっている。


 出たてのシーズン4こそ3マナ支払って相手に3000ダメージを与えるだとか全体に2000ダメージを与える等の火力内蔵ユニットという位置づけが大半だったが

 シーズン11ともなると使ってる側も引くぐらい変な動きをするカードが沢山揃っている。

 今から呼び出すのはそんな中の1体だ。


「<探究魔導師ゾフネ>と4コストの<魔導士の彫像>を使用しダブル召喚を発動、<カトブレパス224>を召喚」

 カトブレパス224 3/4000/5000

 召喚条件:コスト4のユニット2体

 OU: 1ターンに1度、フィールド上のユニット1体に対して効果を発動する

 アタックを-3000、タフネスを+5000させ、[盾持ち][魔法無効]を付与する。

 このカードがセメタリーに送られた時、OUの効果は解除される。


 2体のユニットが光玉となり回転しながら合体し、青色の光を散らしながら

 牛のような巨躯と長い首、そして顔に機械のような仮面のようなヘルメットを被った

 化け物としか言えない姿の怪物が目の前に現れる。



「待て!待ってくれ!」

 美形の兄ちゃんが叫ぶ、なんだ?

 そう思い相手を見ると、明らかにさっきまでと表情が違う

 さっきまではディアドラを見て恐怖・警戒・怒りがないまぜになった、それこそ

 怪物を見るような目でこちらを注視していた。


 しかし今はどうだ、美形の兄ちゃんは顔を輝かせ笑いをこらえきれないというか、嬉しさを噛み締めたような顔でカトブレパス224を見ている。

 なんなんだ?それはディアドラを見た時の顔だろう?

 そう思っていると美形の兄ちゃんが続けて言う。


「もう十分だ。君の実力は分かった、君の質問になんでも答えよう。外に護衛は付けるが馬車の中で一対一でね」

「…ありがとうございます」

「交渉成立…いや交渉ではないね、脅迫してすまなかった」


 いきなり下手に出てきたな。

 美形の兄ちゃんが兵士を集めてなにかを言い含めている。

 いつの間にか後ろの兵士も向こう側へ集まっている。


 危険なのはわかっている、わかっているが今の状況はどう考えたって普通じゃない

明らかにここは日本じゃない。

 3DCGじゃないカードラプトなんてのも聞いたことがないし、ライフダメージが体にフィードバックされる仕様なんてものも噂ですら聞いたことがない。

 この世界の普通の情報を得て死なないために今はあえて危険に飛び込むべきだ

そう考え俺は招かれるままに馬車に向かった。



「まずは先般の非礼を詫びよう。私の名前はウィル=ハルモニア、ハルモニア家嫡男のウィルだ、よろしく頼むよ」

「…テンマです、よろしく」


 先程の張り付いたような笑顔よりはマシな顔で握手を求めてきたので応じる。

 ハルモニア家…ねえ。


「まずは約束通り君の質問になんでも答えよう、私に答えれる・許される範囲という注釈はつくけどもね」


 そうウィルさんは答える。

 俺は慎重に、慎重に質問を重ねた。








「…今までの話を整理しよう。テンマ君は理由が分からないがここに放り出された、今までいた街とは明らかに僕らの服装が違う、そして召喚士という言葉も聞いたことがないが記憶喪失ということでも恐らくないと。ここまではいいかな?」


 俺は頷く。


「とりあえず今僕が断言できるのは君が僕を脅かす刺客・暗殺者ではないという事だね」

「根拠を聞いてもいいですか?」

「今の世相で僕を暗殺することに意味がないからかな。仮にテンマ君が暗殺者であるとして行動がお粗末過ぎる、油断を誘うにしても限度がある。そして暗殺を目的とせず召喚士の刺客であれば絶対に単独では来ない、周りの護衛に対処する為にかならず同等以上の人数を揃えるからだ、僕ら召喚貴族は挑まれた勝負を断れないからね」


 召喚貴族?また謎ワードが出てきた。


「失礼ですが、召喚貴族とは?」

「…召喚士としての強さを王に認められた者といえば分かるかな?」


 なるほど、プロプレイヤーみたいなものだろうか。

 それよりも国に認められた?というか国王?


「召喚貴族は各種の特権を持っている代わりに正当な手順を持って挑まれた勝負を基本的には拒否することができない。その上で召喚器に勝敗が記録され定期的に国に公表する義務がある。この記録は誰でも閲覧することができ、そこで刺客に負けていたことが発覚すれば家名に傷が付く、ということさ」

「さきほどの戦いはどういう扱いになるんですか?」

「両者合意の上での戦闘中止だね、貴族の場合金品やカードを渡して中止にする事が多いから回数が多いと問題になるけど僕は大丈夫」


 公式のポイントランキングで家としての立場の優劣が決まるということか。

 というか家ぐるみでやってるのかなりキてるな…。

 ここでようやく、やはりここは現代日本ですらない、まったく別の世界なんだろうな、と納得してしまった。

 納得せざるを得なかったというのが正しいかもしれない。

 そんな事無いだろう、あり得ないとずっと思って考えないようにしていた。

 でもここまでくればもう受け入れるしかない、受け入れた上でこの先の身の振り方を考えなければならない。

 眼の前のこの美形、いやウィルさんになんとか取り入らなければ。

 と無い知恵を絞りこれから先の展望を必死に考えていると、

 向こうから声をかけてきた。


「約束にはないけど僕からも1つ質問良いかな?この返答によっては君を貴賓扱いで我が家に招待したい」


 おっと、向こうから理想的な答えが帰ってきた。


「君が刺客ではないのはやりとりで大体分かったし、現状大変困っている事も認識しした、その上でも僕も君と君の使っているカードにとても興味がある、先程の脅迫のようなやりとりと違って今回はお互いに益があると思う。どうだろうか?」

「…答えれる事であれば」

「ありがとう、では聞くよ」


 ウィルさんはこちらに向き直り、真剣な顔でこう告げた。


「…どうして君はダブル召喚を使えるんだい?」




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――カトブレパス224は8期に登場したダブル召喚ユニットです

 自分にOUを使用し盾になる。相手の凶悪なアタッカーを弱体化させて除去のサポートをするなど様々な使用法があります

[魔法無効]も厄介で、除去を魔法に頼るデッキが環境に増えるとスッと出てくる…みたいなユニットです。

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