第2話 痛み

 槍を突きつけられながらデッキの準備をする俺。

 とにかく周りの見る目がめちゃくちゃ厳しい、背嚢を漁る姿を見て美形の兄ちゃんすら明らかに表情が険しい。

 こっちは命かかってんだよ見世物じゃねえぞと言いたいが誰がどう見ても見世物なので黙っておく。


 美形の兄ちゃんは俺を試すみたいな事を言っていた。

 その発言から察するに少なくとも勝つ、もしくは追い込めば話はしてくれるのであろう

 ならばもうガチガチの環境デッキを握るしか無い。

 俺がチョイスしたデッキは魔導師 7期に初登場してから10年以上環境に居座ってる

 老害とも言われるデッキだ。


 美形の兄ちゃんも準備してるが向こうのデッキアームが明らかに材質が違う

 金属なのは金属なんだがなんだかハンドメイド、一点物感が凄く家紋のようなものが埋め込まれている。

 悪く言えば古い。


「準備はいいかい?ではやろうか」


 そう言って美形の兄ちゃんはデッキアームを腕にセットした

 俺も同じく腕に付ける 向こうのデッキアーム明らかにおかしいけどちゃんと互換取れるのかなこれ…


「ジュンビカンリョウ スタートシマス」

 ブレスレットから機械音声が流れる、できるんだな…。


 拝啓 


 お父さん お母さん お元気にしてらっしゃいますでしょうか。

 俺は今うっそうと生い茂る森の横で 舞台で着るような服に身を包んだ人間相手にカードラプトで戦っています。


 とまあ、今に至るというわけだ。

 ここでカードラプトのルールをおさらいしておく。

 カードラプトのルールは極めて簡単。ターン毎に増えるマナを使って相手のライフをすべて減らせば勝利だ

 当然この相手のライフをすべて減らすのをどうするか?というのがデッキ構築の妙である。


 初期ライフは50000点(例外あり)初期手札は6枚 デッキはMAX50枚 サポートデッキはMAX10枚 同名カードは最大4枚まで投入可能 デッキに1枚のみ投入できる

 とんでもない強さを持つワースカードが存在する。

 それとは別であまりの性能に1枚制限 2枚制限とされたカード類も存在する。

 先攻後攻はランダムで決まり先攻1ターン目はドローできず攻撃もできない

 大別してユニットカード マジックカードの2種類に分かれている。

 ユニットカードは召喚したターンは攻撃できない。(一部例外あり)

 ユニットカードはそれぞれコスト/アタック/タフネスの数字がある

 例として3コストのアタック4000タフネス2000であれば表記は3/4000/2000となる。

 盾持ちのキーワード効果を持つユニットが場にいない限り、ユニットは相手プレイヤーを直接アタックすることができる


 基本的なルールはこんなところだ。

 今回は美形の兄ちゃんが先攻。


「<光響こうきょう戦士ロニー>を召喚する」

 光響戦士ロニー 

 1/1000/2000


 美形の兄ちゃんは光響デッキか、でも初手1コストがロニー?どういうことだ?

 光響が4年ぶりに環境入りしたシーズン11の今の初動は<光響の巫女クスハナ>固定のはずなんだが…

 ていうかなんか、いつもよりロニーのグラフィックが凄いリアルなんだけど…

 いろいろな疑問が頭に浮かびつつもターンは回って来る。

 しかし手札には1マナのカードはないそのままターンを帰す。


「カードを引いて何もしない 終了だ」

「…<光響軍曹ガトラ>を召喚し、ロニーでアタック」

 光響軍曹ガトラ 

 2/2000/2000 このカードが場に出ている時のみ、自分以外の<光響>と名の付くユニットのアタックを1000上昇させる。 マナの最大値が6以上の時、更に1000上昇させ、その上昇値はこのカードが場を離れても維持される。


 おっガトラだ、このカードもう20年近く前のカードなのに未だにデッキ入ってるよな…


「うぎっ」


 親父から殴られた時ぐらいしか出さない声が喉から出た。

 危うく後ろに倒れそうになった。

 ロニーから攻撃されたのだ。

 ロニーは剣を持っている、そのロニーに攻撃された。


 カードラプトのモンスターを含めた演出はすべて3DCGで表示され、当然ながらモンスターがプレイヤーを攻撃するモーションもある。

 だがCGだから肉体には何もダメージは喰らわない、肉体に直接ダメージが入るようなゲームが許されるはずがない

 しかし向こうのロニーは明らかに実体がある、殴られた剣の感触がある

 血は出てない、出てないが切られた肩がじんじん痛い、手元のライフの表記は2000減って48000になっている。

 3DCGじゃないのか?どういうことだ?

 いつの間にこんなバイオレンスなゲームになったんだ?


「…何かショックを受けているようだけどもどうしたんだい?なにかの時間稼ぎかな?」


 美形の兄ちゃんが怪訝な顔でこちらを見つつ威圧するように言う。

 先程までの張り付いた笑顔は消えて、どちらかというと困惑しているような顔でこちらを見つめている。


 まずい。


 原理はさっぱり分からんがプレイヤーへのアタックは名の通りプレイヤーにダイレクトにダメージが入るようだ。

 たった2000減っただけであのダメージなのだ 次のターンにロニー+ガトラ+αで攻撃されたらバトルに集中できる自信がない。


 今の段階で使う気は無かったがこのカードを使うしかない。

 そしてもう1つの可能性が頭をよぎるがそんな事を気にしている場合じゃあない。


「カードを引いて<真紅の魔導雷>を使用、<光響軍曹ガトラ>を破壊」

 <真紅の魔導雷>

 2/対象のユニット1体に2000ダメージを与える 追加で3マナ支払う事で以下の2つの効果からどちらかを選んで発動する

 1.選択した対象に更に3000ダメージを与える このダメージは軽減されない

 2.別の対象に2000ダメージを与える


 刹那、凄まじい轟音と共に赤い稲光いなびかりがガトラに直撃しそのまま白い粒子となって四散した、ガトラの立っていた場所は焼け焦げ草が燃える匂いが漂ってくる

 確定だ。

 俺の使うカードも恐らく実体を持っている。つまり、殴れば相手が傷つく。

 魔法カードを使えば地形にも相手にも影響を及ぼす。

 そしてあの美形の兄ちゃんは確実に偉い人だ、そんな偉い人のライフ50000を飛ばして周りが黙っているだろうか。

 いやそもそも1000だろうが削った時点で周りが許さないのではないだろうか?


 …これは、相当上手く立ち回る必要がある。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<光響の巫女クスハナ>

1/1000/3000

<光響の巫女クスハナ>以外の<光響>と名の付くモンスターが召喚された時

そのカードのアタックをx000アップさせる

xは召喚された回数を参照し、最大4まで上昇する


シーズン11で光響のてこ入れとして登場した超強力な1コストユニット

1-2マナ帯で1ターン以内に3000を処理できるカードは極めて限られている上に

出せばだすほどどんどん他の光響カードが強化される為非常に厄介

1マナという性質上アグロからコントロールまで当然のように4投される。

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