未来のカードを駆使して世を渡る ~カードラプト風雲録~
@ringegge
第1話 どうして?
拝啓
お父さん お母さん お元気にしてらっしゃいますでしょうか。
俺は今うっそうと生い茂る森の横で 舞台で着るような服に身を包んだ人間相手にカードラプトで戦っています。
…どうして?
時は少し遡る。
俺の名前は山城天馬(やましろ てんま) 26歳。黒髪の中肉中背。
デジタルとアナログをうまい具合に両立させ、専用の機械でカードを読み取り
リアルな3DCGでのカード同士の戦いを行うカードラプト。
アニメ・小説・実写化・多言語化と順調に規模拡大のステップをこなし世界トップのTCGとして君臨して早25年。
カードラプトが「最初から身近にあるもの」だった世代が生まれ、
完全にゲームの1つとして定着した。
自分はそんなカードラプトに学生時代に魅入られ、大学卒業後就職もせず
カードラプト公認ジャッジの資格を取得し
気付けばカードゲームショップの副店長にまでなってしまった。
両親には色々言われたがまあ就職できたという事で勘弁して貰っている。
「値段が値段だから流石にその場に置いておけなくてね 申し訳ないけど」
17時の勤務終わりに店長が言う。
来週から2週間かけて店舗の改装工事を行う事となり
販売用のオリジナル構築済みデッキの在庫を俺の家で預かって欲しいとの事。
「いいんですか俺に預けて、そりゃあ取って逃げたりはしませんが…」
「君がそんな事しないのは側で見てきた僕が一番良くわかってるし、何よりも
そんな事したらジャッジ資格剥奪されるでしょ」
公認ジャッジはいない店舗では公認大会が開けない上に試験がそこそこ難しく
割と重用される資格だ。
そしてどんな軽度であっても前科の付く犯罪を起こせば剥奪される。一番軽いもので資格剥奪と3年間の再試験禁止・重いもので永久剥奪。
だからまあ、割に合わないというのはその通りだ。
「あと、君のデッキとデッキアームとかの私物も今日のうちに一旦持って帰ってね」
重ねて店長は言う。
いやそれ持って帰るデッキ40個超えますよね?デッキアームも結構重いんですよ!?と内心思いつつ了承する。
デッキアームとはカードラプトをプレイする為の携帯型バトルフィールドで
腕部に装着する専用ブレスレットから出る電波を受信しそれを浮遊しつつ追尾する小さめのテーブルのような機械だ、手で持つとそこそこ重い。
結局この日は大量のデッキとデッキアーム、更に私物の資料集を持って家に帰る事になった
こんなもん通勤で使っている自転車なんぞに載せれないので帰りは徒歩。
店長から借りた自衛隊が使うような背嚢に満載された荷物が肩の筋肉を破壊する音をBGMに帰路に付く。気分はさながら自衛隊のレンジャー訓練である。
カードの重量を甘く見ていた。家に辿り着くはるか前に足が限界に達した。
なんとか近場の公園までふらふらでたどり着きベンチで休憩。
荷物を降ろし頭を下げ足を休めながら、冷静になった頭でふと思う。
気付けば時間は18時過ぎ、日も落ちだんだんと暗くなってきた。そして俺の足を破壊した足元の背嚢の中には大量のカードラプトの環境デッキ、その価格は時価で150万円を超えている。
…これ早めに帰らないとまずくない?
流石に焦りを感じ、急いで背嚢を背負いベンチから立ち上がり顔を見上げる。
その目の前にあったのは見知ったビルの林と人工的な石畳の公園ではなく
ホンモノの林と目の前にどこまでも続くあぜ道、そして満天の星空だった。
なんで?
第一声はこれだった。
これしか出なかった、が正しい。
疲れてるのか?夢か?寝ていたのか?
そう思い座り直す、がそのまま尻もちを付く。
ベンチすらなくなっている。
そして強打した尻の痛みで夢ではない事に気付く。
なんで?なんでだ?
どういうことだ?
考えても 考えても分からない。
なんで?
一通りの想定を考えて絶望し、寝て起きたら元通りじゃないか、とか
現実逃避をするなど、ひとしきり考え抜いた所で現状把握に入る。
あきらかにこの状況は普通じゃない、普通じゃないからこそ
冷静にならねばならぬ、と頭を切り替える。
ブレスレットの時計は動いている、現在21時ちょっと前。
都合2時間以上唸っていたようだ。
持ち物は飲みかけのペットボトルにスマホとメモ帳とペン数本
カードラプト用ブレスレットにキーケース
そしてクソみたいな重さの背嚢
これだけだ。
うん、どうしようもないわこれ。
とにかくスマホの電池残量を考えてもこの夜のうちに動くのは危険過ぎる。
移動するにせよ夜明けを待つしかないと強引に結論付け、あぜ道の横の草むらに身を寄せた。
手持ちのペットボトルを口を湿らす程度に飲みつつ、危険ではあるが寝るしか無いと思い込み、ありえない状況で冴えた目をなだめるように必死に目を瞑り眠ろうとする。
時間は23時、本来ならもうベッドに入ってるんだよな…と思いつつ体温を下げぬよう うずくまる。
その時、おおよそ実生活で聞き慣れないガシャガシャという音と共に遠くからおぼろげな光が近づいてくるのが見えた。
乗り物と人だ。
「人間だ!」
つい声に出してしまった、それぐらい嬉しかった。
たった5時間足らず人と接触していなかっただけなのに。
そして俺はブチ上がったテンションのおかげで重要な事を見落としていた。
こんな夜に歩いてる集団が他人を警戒していないはずがない事を。
「止まれ、動くな、腕を上げろ」
突きつけられた槍の穂先、10本そこそこ。
そんな感じはしてた。
見るからに高級そうな馬車にそれを引くいかつい装甲を付けた馬二頭。
それを取り囲むように周囲にいる10人ほどの甲冑を着込んだ兵隊としか呼べない人間。
そして俺は身なりも怪しい背嚢を背負った男。
そりゃこうなる、こうなるよ。
遠くから集団が見えてた段階で大体わかってた、相手がこちらに気付いて大声で威嚇して槍持って近づいて来た時に確信した。
それでも俺は逃げなかった、むしろ向かって歩いた。
現代社会に慣れすぎた俺にはこの集団との接触を拒めるほどの根性はなかった。
例えどんな仕打ちを受けたとしても話がしたい、情報が欲しい。
そう思った、とにかく今置かれているこの孤立無援の状況が未来の不安よりも何よりも恐ろしかった。
そしていまこの10秒後の死にそうな状況でも恐怖よりも嬉しさが勝っている。なにせ相手が日本語で喋りかけてきたのだ。言葉が通じるのだ。
ぐるぐると思考を巡らせてひねり出した一番の懸念点が勝手にクリアされたのだ。
「お願いします、助けてください」
「助ける?何を言っているのだ?旅装ではなく小綺麗で見える怪我もなく大きな荷物を抱えているお前を?盗賊に襲われた形跡もないではないか」
まいった、仰せの通り過ぎて反論ができない。
ていうか盗賊ってどういうことだ?流石に強盗はともかく盗賊と呼ばれる人間は現代日本には存在しないと思うんだが…考えないようにしていた嫌な予感が的中してしまったかもしれない。
思考を巡らせどう返答するか考えていると全員の視線が俺の右腕に集中している
なんだ?
「貴様、召喚士か?一度腕を下げろ」
召喚士?なにそれ?と思ったが言われた通り手を下げる。
瞬間、顔の横の手があった空間に槍が4本通った。
相手の警戒レベルが跳ね上がっているのが分かる。
顔もまさにこれこそ憤怒という表情で睨んでいる。
囲んでいた兵隊の1人が慌てて馬車へ向かう。
「目的を言え、二度は言わん」
さっきから話しかけてくる周りより頭1つデカいおっさん
恐らくこの人がリーダーなのだろう。
状況は悪くなる一方だ、もう賭けるしかない。
「そちらの一番偉い人と話がしたい、どうかお願いします」
「何を馬鹿な事を!」
あ、ダメっぽい。
そう思いつつふと視線を上げると、馬車から兵隊と一緒に金髪ロングの明らかに東洋人とは顔のつくりが違う美形が近づいてくるのが見えた。
俺の視線の先にあるものに気付いたデカいおっさんが慌てて美形に声をかける。
「若!危険です!」
「落ち着いてよネイサン、召喚士なのであれば僕が相手をする他ないだろう?それに刺客と言うにはなんだか様子がおかしいようだしね」
美形がそう言いつつ僕に向き直り、微笑んではいるが目は笑っていない、底冷えするような顔でこう言った。
「僕と話がしたい、という事だけど残念だけど僕は君と話す理由がないんだよね…ただ」
「ただ?」
「君の使うカードには非常に興味がある、さっきも言ったが君のその身なりや行動、服装からして刺客とは思えないし更に見たことのない形の召喚器を持っている、どうだろう、僕と一度勝負してくれないか?」
召喚器?このブレスレットの事か?勝負?カードラプトで?
どういうこと?
「そうだね、勝負して客観的に見て君が明らかに優勢であれば君が気の済むまで私と話す権利をあげようじゃないか、君が負ければまあその時はその時だ」
「当然ながら非常に怪しい君には行動に制限を受けてもらうよ、勝負中常に後ろから兵士5人に槍を構えさせる、一瞬でも後ろ向いたらそのまま殺すから。死にたくなければ前だけ見ててね」
あっこの人結構危ない人だわ。
自分でものんきだな、とひしひしと痛感するがこう思った。
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腕部ブレスレットは時計や通話の機能があり何かと便利な為
常に装着している人が多いです。
カバーパーツを変更できるため、自作でカバーを拵えたり
市販パーツを組み合わせて自分流のアピールが可能です。
またデッキアームを直接接続して使用することもできます。
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