第6話 今更な自己紹介

「ちょっと!ぶつくさひとりごとを言って黙って座り込んでカタカタカタカタ。

あんた一体何なの?」

「なんなのって何が?」


給仕の女が見えていた配管を近くにあった金属の配膳用トレイで殴って

カーンと頭に響く音がする。

僕が耳を抑えて振り向くと給仕の女の顔が眼前にあった、

鋭く眇められた灰色がかった目が怖い。


「あたしはルシーダ、あんたは?」

「え?名前?僕はクレイ。近いから下がって」


ルシーダは額に手を当てながら僕から離れ下がり続け、鉄箱に腰を掛けると

黒い髪を掻き上げてそっぽを向いた。



「一応俺はゾノな。他の客はいいわ。

で、誰か一息つけるもん持ってないか?口臭予防のタブレットでもいいぞ」


赤珊瑚亭の主人は片手を上げながら床に転がったり座り込んだ数名に言う。


僕はその光景を何気なしに見やって酒場の盛況な時刻は過ぎていたのかなと想像して

どうでもいいので頭から追い出す。

片手に持った端末に表示されているアルストロメリアからの映像に目を向けて、

立ち上がってエレベーターへ向かって歩いているとルシーダから声を掛けられる。


「エレベーターで上がろうっていうの?」

「違う」

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