レームの力・その1――「剛力」

 レームを地面から降ろすと、またズボンを引っ張られた。

「トーア。オナカスイタ」

「ん?」

 土人形なのにお腹が空くのか? ……いや、生きているんだから当然といえば当然か。

 でも、こいつ何を食べるんだろ?

 ちょっと考えて、俺は地面の土を掘り返して与えてみることにした。土でできているんだから同じ素材をあげたほうがいいよな。

「ほら、これ食べるか?」

「ワーイ!」

 レームは喜んで土を受け取った。良かった、これで正解みたいだ。

 レームは土を口に入れてモグモグと噛み……

「マズイ!!」

 ペッペッと吐き出してしまった。

「トーア!! コレ、タベモノジャナイ!! トーアノバカッ!!」

 ゲシッ!

「いってぇ!?」

 すねを蹴られた!?

 レームはうずくまって脛を押さえる俺を置いて、プンスカ怒ってイサリアのもとへ行ってしまった。

 ぐっ……土は流石さすがに駄目だったか……

だからって蹴ることはないだろ……

「オネエチャン! トーアガイジメル~!」

「よしよし、トーアさんも悪気があったわけじゃないの。許してあげて、ね?」

……その言い方だと、俺が悪いことしたみたいじゃないか? いや、実際レームには酷いことしちゃったけどさ。なんか釈然しゃくぜんとしないというか……

「……ウン」

 イサリアに頭を撫でられ、レームの機嫌も多少は直ったらしい。

「私はイサリア。レームくんは何が食べたい?」

「……ヨロシク、イサリア! ボク、アマイモノガスキ!」

「甘いもの……それなら私の家に蜂蜜はちみつが残ってたかも。うちに来る?」

「ウン、イク!」

 イサリアはにっこり頷くと、俺のほうに歩み寄ってきた。

「トーアさん、大丈夫ですか?」

「は、はい……いてて」

「じっとしてください」

 イサリアに回復魔法をかけてもらったことで、脛の痛みが引いていく。

「ありがとうございます。それにしてもレームのやつ、いきなり蹴りを入れてくれるなんて……」

「まあまあ。まだ子供なんですから、大目に見てあげてください」

「……分かりましたよ」

 俺だって大人だ。こんなことでいちいちブチギレたりはしない。

 だけど、レームのことはちゃんとしつけないとな。俺が父親(?)らしいし、いきなり蹴っちゃ駄目だって教えないと。

 ともかく、思わぬ形で新しい仲間が加わった。


 ◇ ◇ ◇


 結局、現場には種火の書以外落ちていなかったので、イサリアとレームと一緒に帰り道を歩く。

 だが、その途中で思わぬアクシデントに出くわした。

「これは……」

「木が倒れてますね……」

 地震の影響なのか、行くときにはなかった倒木が道をふさいでしまっていたのだ。

 樹齢じゅれい何百年、というレベルのかなり巨大な木で、みきの太さが俺の胸くらいまである。

「これを乗り越えるのは一苦労ですね……」

やぶのほうを通って迂回うかいしますか?」

 イサリアの提案にうーん、と考え込む俺。

 正直、藪に入るのは気乗りしない。足元が見えづらくて危ないし、イサリアが植物の枝やトゲで怪我をするのは見たくないからな。

「……あ、そうだ!」

 原初の魔法を使えばこんな木、簡単に燃やせるんじゃないか?

 ……いや、待てよ。こんな森の中でさっきみたいな大火力の炎を出していいんだろうか。下手したら他の木に燃え移って、辺り一帯が全焼なんてことになるかも……

 仕方ない、やっぱり周り道するしかないか。

 とはいえ、この木を放っておくわけにもいかない。今は迂回すればいいだけだが、いつまでも放置していたらこの道を通りたい人が困るだろう。

 どうしたもんかな、と考えていたとき、レームが話しかけてきた。

「トーア、コレ、ジャマ?」

「ん? ああ、邪魔じゃまだな。なんとかどかせられればいんだけど」

「ワカッタ!」

 分かったって……何が?

 俺が尋ねる前にレームはタタタッと大木の前に走っていき――

「ヨイショッ」

 軽々とそれを持ち上げてしまった……は?

「マタウエテアゲルネ」

 そして唖然あぜんとする俺たちに気付かず、レームは巨大な木を開けた地面に突き刺した。

 ドシン!! という轟音ごうおんのあとにメリメリメリというにぶい音が辺りに響き、それがやむと木はまるで最初からそこにあったように直立していた。

「オワッタヨ! ハヤクカエッテゴハン!」

 嬉しそうな顔で俺のほうに戻ってきたレーム。

 ……おいおい、マジか。

 なんという怪力。

 レームさん、さっきの蹴りはものすっごく手加減してくれていたのね。

 もし俺の脛をあんな力で蹴っ飛ばされていたら、脛どころか下半身が千切れて肉塊にくかいになっていたに違いない。

「ドウシタノ?」

 無邪気むじゃきな目でこちらを見つめてくるレームに、俺は顔が引きるのを感じながら微笑ほほえみを返す。

「あ、ああ。助かったよ。ありがとな、レーム」

 いろんな意味で。

 俺に褒められたのが嬉しかったのか、レームは嬉しそうに笑ったのだった。


 ……これが、「剛力ごうりき」というレームの

 原初の魔法によって生まれたこの不思議生物には、まだまだ隠された能力があることがのちのち判明するんだけど……俺がそれを知るのは、もう少しあとの話になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る