土人形レーム
炎が収まったと思ったら、子供が生まれた。しかも土製の。
え? 創造の力ってアイテムとか武器を生み出す力じゃないの? どんなにすごくても、でっかい家とか、城とか、せいぜいそういうレベルじゃないのかよ。
だってさ、これ……どう見ても。
クシクシと目をこする小さな土人形を呆然と見ていると、種火の書が目の前に浮かんできた。
『いかがですか』
「……これ、お前がやったの?」
『正確には私を
「いや、細かいことはいいから……で、何をしたんだ……?」
『創造の力の、真の効力をお見せするべく、この世で最も複雑な構造物を創造しました』
最も複雑な構造物って……おい、まさか。
『つまり、命です』
…………………………マジなのですか。
◇ ◇ ◇
種火の書は新しい命を
そんなのアリかよ、と思うが現実として目の前にその証拠があるのだから信じざるを得ない。
『どうですか、創造の力を見直しましたか?』
「……ああ。すっごい力だよ、これ」
種火の書にもそう返答するしかなかった。命を創り出すって、まさに神の
大岩の灰から生み出された土人形――全身が土でできた子供サイズの人型――は、今は眠いのか「フワァ」とあくびをしている。種火の書によれば、この子はロボットやカラクリなどではなく、本当に生きているのだという。
あまりにも衝撃的な光景に、イサリアもさぞかし驚いていることだろう。
そう思って彼女を見ると――
「か……」
「か?」
「可愛いっ!」
イサリアはだだっと駆け出して、土人形の子供をぎゅっと抱きしめた。
しかもグリグリ
「……あの~、イサリアさん」
「……はっ。すみません、ついこの子が可愛くて……」
いや、それはいいんですけどね。
「怖くはないんですか? その、得体が知れないものなんですし」
「怖い? どうしてですか? こんなに可愛いのに」
イサリアが心底不思議そうな顔でこちらを見返した。
可愛いから無害、という理屈は絶対に成り立たないと思うんだけど……そんなに純真な目で見つめられたら、警戒している俺の心が
土人形のほうはというと、抱きしめられてキャッキャとはしゃいでいた。くっ、確かに可愛いな。
『トーア様も一緒に抱きしめてあげればよろしいではないですか? イサリア様ごと』
種火の書がそんな文章を見せつけてきた。
「しねえよっ!」
『お顔にはそうしたいと書いてありますが』
「…………」
お? なにこいつ、イジってきてんのか?
出てくる単語が
そういや、さっきも『むかっ』ってわざわざ書いてたな。意外と感情豊かなのかもしれない。
「ねえ、きみ。お名前は?」
イサリアが尋ねると、土人形はきょとんとした。
「ナマエ? ……ナマエ、ナイ」
「そうなんだ……」
その返答を聞いて、少し悲しそうな顔をするイサリア。
まあ、今生まれたばかりなんだから名前はなくて当然か。
……と、そのとき。土人形がイサリアのハグから抜け出して、俺のもとにトテトテとやってきた。そして、クイクイとズボンの裾を引っ張る。
「ツケテ、ツケテ」
「ん?」
「ナマエ、ツケテ、トーア!」
こいつ、俺の名前を?
驚いて種火の書を見ると、こう言って(正確には書いて)きた。
『創造の力によって生み出された命は、原初の魔法の行使者を
「へぇ……」
『この子の場合、幼いので主というより父親という感覚かもしれませんね』
「父親って……」
俺、結婚もしてないのに子持ちになったの?
その間もズボンを引っ張ってくる土人形。
「ナマエ、ナマエ!」
「分かったから引っ張るなって。えーっと、そうだな……」
名前なんてあんまり付けた経験がないからなぁ……せっかくなら、強そうでかっこいい名前がいいよな。あと、この子は土でできていて見た目が黒っぽいから――
「じゃあアースルド・シュヴァルツネッガーとかどう?」
「ヤダ!」
「即答かよ!?」
昔好きだったマッチョ俳優の名前をもじった、最高に強そうなネーミングなのに!
だが、イサリアも微妙そうな顔をしていた。
「トーアさん、その……せめてもう少し呼びやすい名前のほうが……」
『センスに欠けて
「……」
種火の書はあとで絶対燃やす。
くそ、全員から不評なら別の名前を考えるしかない。
改めて土人形を
この子は土からできた人間……つまりゴーレムってことだよな。じゃあストレートにそこから取って……
「……レーム、は?」
「! キニイッタ、キニイッタ!」
「いいですね!
『やればできるじゃないですか』
上から目線の奴がいるのは腹が立つが……今度は好評だった。なにより、この子本人が喜んでいる。
「じゃあ、今日からお前はレームで」
「ウン! ボクハ、レーム! ヨロシク、トーア!」
「ああ、よろしくな」
足に抱き着く土人形――レームを抱っこして高い高いする。
レームは楽しそうにキャッキャと笑っていた。
その
この直後、レームのとんでもない強さを見て腰を抜かすことになる。
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