原初の魔法
死の
猛スピードで落ちてきているはずの大岩が、止まっているように感じる。このあとは
あーあ……椅子から落ちて死んだ次は、岩にペッチャンコにされてジエンドか。せっかく転生したというのに、あまりにも早すぎるゲームオーバーだ。
三週目の人生って用意されてるのかな。いやぁ、そんな奇跡はもう二度とないだろうなぁ。
不思議と死ぬのは怖くなかった。だってすでに一回死んでるし。
ただ……イサリアには本当に悪いことをしてしまった。俺と出会わなければこんな形で命を落とすことなんかなかったはずなのに。
謝っても謝りきれないことだが、心の底からすまないと思う。
――加護を授けましょう。
ふと、夢で聞いた
次の瞬間。
……右手が熱い。
視線を落とすと、右手に持っていた手帳が熱を帯びていた。それだけではない。先ほどまで何も描かれていなかった表紙に、赤い紋章が浮かんでいる。
――
そのとき、俺は
大岩に向けて、左手を高く
イサリアを死なせてはならない。
だから、燃えろ。
――それは、かつて原初の魔法と呼ばれたとても強い力。
手のひらに炎が集まった。
大岩は巨大な炎に
降りかかる灰を浴びながら、俺は名状しがたい
……そうだ。これこそが俺の加護の正体。
彼らが神から
――運命にめげず、立ち向かいなさい。
原初の魔法とは、炎を操る力のことだったんだ。
◇ ◇ ◇
「イサリアさん、イサリアさん」
うずくまって頭を抱えているイサリアの肩を揺する。
彼女は顔を上げると、不安そうな目で俺を見つめた。
「と、トーアさん、今の大きな揺れは……?」
「ただの地震です。崖の下は危ないですから、早く離れましょう」
「え、ええ……あの、この灰はいったい……?」
空中に舞う大量の灰を指差すイサリア。その拍子にいくらか吸い込んでしまったのか、ごほごほとむせてしまっていた。
彼女は地震が起きた瞬間に顔を伏せていた。そのため、大岩が落ちてきたことも、俺が魔法でその岩を燃やしたことも気付いていないようだ。
「あとで説明します。とりあえず、今はこっちへ」
半ば放心状態のイサリアの手を引き、崖から離れた場所へ避難する。
数十メートルほど離れたところで、俺たちは立ち止まった。
「ここまでくれば安全ですかね。イサリアさん、怪我はないですか?」
「は、はい。それで、いったい何があったんでしょうか?」
俺はイサリアに、先ほどの出来事を話した。
説明を聞き終えたイサリアは、目を見開いて困惑する。
「トーアさんがそんな強力な魔法を? で、でもトーアさんからは今も魔力を感じられませんよ?」
確かに、魔法を使ったあとでも俺は自分に魔力があるとは感じないし、イサリアの魔力も感知できない。
俺自身が急に魔法を使えるようになったわけではなさそうだ。
「俺も詳しいことまでは分からないのですが、これのおかげなんです」
俺はそう言って手帳を見せた。
「その手帳の、おかげ?」
「はい。この手帳に赤い紋章が浮かび上がったと思ったら、急に自分が炎を操れることが分かったんです」
手帳には今もその紋章が浮かび、自ら発光するかのように輝いている。
イサリアが「ちょっとお借りしていいですか?」と聞いてきたので、頷いて渡してあげた。
「これは……うーん? 見たことのない形ですけど、炎の紋章に似てますね」
「炎の紋章?」
いきなり中二病っぽいワードが飛び出してきたぞ。
いいね、そういうの大好きです!
内心テンションが上がっている俺に気付かず、イサリアは説明してくる。
「魔法には
「へぇ……そんなのがあるんですね」
「はい、ちなみに私の回復魔法は光属性です。特殊属性の魔法が使える人は珍しいんですよ?」
ふふん、とちょっと胸を張るイサリア。その仕草は可愛らしいけど、話がずれちゃってますぜ。
彼女自身もそれに気付いたのか、こほんと
「私にはこれ以上分かりませんが、トーアさんが炎を生み出したということを考えても、炎の紋章とは関係が深そうです。一種のマジックアイテムかもしれませんね」
「マジックアイテム?」
「魔法の力が込められた道具のことです。ただ、岩を一瞬で燃やし尽くすほどの強力な効果を持ったマジックアイテムなんて聞いたことがないですし――きゃっ!?」
そのとき、いきなり手帳がイサリアの空中から飛び出した。
なんだなんだと思っていたら、その手帳は空中でピタリと静止し、ゆっくりと表紙がめくられていく。
そして何も書かれていなかった見開きのページに、こんな文字が浮かび上がった。
『ようこそ、トーア様』
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