謎の手帳と、死の危険
イサリアが暮らすこのハテノ村は、かなり小さな村らしい。村外れまで歩く道中、家はこじんまりとしたものが数軒しか建っていなかったし、村人も両手で数えるほどしか見かけなかった。
そんな規模だからお互いが顔見知りなのか、イサリアに気付いた村人たちはみんな気さくに
十分ほど歩くと、
イサリアによると、村の周りをぐるりとこういう柵で
そして問題の崖だが……多分、あれのことだろうな。
村の門からおよそ数百メートル離れたところに、確かに切り立った崖が存在するのが見えた。高さは目算で五メートルくらいか?
イサリアの情報通りだったな。
いや、疑ってたわけじゃないけどさ。
閂を取って門を開き、村の外に出て歩くことまた数分。
「ここです」
イサリアがそう言って足を止めた。そして、近くにある腰くらいの高さの
「トーアさんは崖からそこの木の上に落下したんですよ」
「なるほど……この木がクッションになったから命が助かったんですね、俺」
もし直接地面に落ちていたらと思うと……おお、こわいこわい。
ぶるっと小さく身震いし、俺はイサリアと一緒に
探し始めて一分もしないうちに、何かに気付いたイサリアが声を上げる。
「あ! 見てくださいトーアさん!」
「おっ! 何か見つけたんですか!?」
「はい! ほら、どんぐりです!」
彼女が見せてきたのは、なんの
「……は?」
予想外のものを見せられて、思わず間の抜けた声が出てしまう。
するとイサリアは、自分が場違いな報告をしたことに気付いたようで、ボッと赤面た。
「す、すみません! 普通のどんぐりだったら拾わなかったんですけど、帽子付きだったので、つい……」
そう言われて改めて見てみると、確かにそのどんぐりには帽子に見える物体がくっ付いている。かくとって言うんだっけ、これ?
にしたってわざわざ拾って声をかけてくることか……?
なんなのこの子? 感性が幼女のまま更新されてないの?
ほっこりとしたけど、我々はピクニックしに来たんじゃないんですよ~。
俺の生温かい視線をどう思ったのかは分からないが、イサリアはすごすごと俺から離れて落とし物捜索に戻った。
そしてまた一分もしないうちに……
「あ!」
「今度こそ何か見つけたんですか!?」
「あ、いえ、目の前をちょうちょが横切ったので……」
「……ソウデスカ」
イサリアって、もしかして絶望的に物探しが下手なのかな。
……でもまあ、考えてみれば彼女は親切心でここまで案内してくれたんだ。落とし物探しなんて、俺に付き合わせる形で手伝ってもらっているみたいなものなんだし、ここで俺が注意するのはお
そもそもこの辺りは草の背が低いため、周囲の地面に何も落ちていないことは一目で分かる。
ここはひとつ、俺もイサリアみたいに自然に目を向けてみるか……
地面を見るのをやめて、景色をゆったりと
日本にもあるようなありふれた森だが、だからこそ安心感がある風景だ。深呼吸してみると、豊かな緑の香りがした。
……お! あそこの木にとまってるの、カブトムシじゃないか? 異世界にもいるんだな! 日本にいるやつよりサイズが少し大きくてかっこいいな~!
「トーアさん! こっちに来てください」
そのとき、またも俺を呼ぶイサリアの声が。
「どうしました? 今度は
「カブトムシなんかどうでもいいですから! 早く来てください!」
“カブトムシなんか”って言われてしまった……
女の子はかっこいいものには興味がないのか……?
少し寂しい気持ちになりながら、イサリアのもとへ歩み寄る。
しかし、彼女が手に持っているものを見て、そんな緩んだ気持ちはどこかへ吹き飛んでしまった。
「それ……本ですか?」
イサリアが持っていたのは古ぼけた一冊の本だった。いや、本というより手帳と呼んだほうが正しいかもしれない。大きさは片手サイズで、厚さもかなり薄い。
「トーアさんが落ちてきた低木の枝に引っかかってたんです。状況的に……」
「俺の持ち物……でしょうね」
まさか、本当に手がかりが落ちていたとは。
俺はイサリアからその手帳を受け取り、じっくり観察してみた。
これと言った特徴がない、無地の表紙。ぱらぱらとページがめくってみたが、どこにも何も書かれていなかった。日記帳というわけではないらしい。
これではなんの情報も得られないか……とがっかりした次の瞬間。
突如として地面が揺れ始めた。
地震だ。しかも、かなり大きい。
「きゃあっ!」
突然のことに
だが、その行動は非常にまずい。
俺とイサリアが立っているのは崖の真下だ。揺れの影響で崖の一部が崩れでもしたらひとたまりもない。
「イサリアさん、ここは危ないですから――」
――早く避難しましょう。
そう言葉を続ける前に、最悪の事態が起きてしまった。
ミシリ、という音が上からしたと思ったら、続いてガラガラガラ!! という
嫌な予感がして
まずい。
イサリアはまだその場にしゃがみ込んでいる。このままではペシャンコになってしまうだろう。
彼女を突き飛ばそうにも、座った状態では勢いが足りない。
一秒にも満たない
目前に大岩が迫ってきている。もう俺も逃げることはできない。
――あ、まずい。死んだかも。
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