第二章〜傭教施設にて

クロヤの裏の顔

7人との出会いからおよそ2ヶ月が経ち、そろそろ接し方もわかってきた。


例えば、ラナト君。最初は少し緊張していたのか、あまり俺に話しかけてこなかったけど、イナバ流の話題を持ちかけることによってすこしずつだけど口数が多くなった。しかも今では、


「先生、手合わせ願います!」


「お、おう……」


とまあ、こんな感じで傭教施設の訓練場で手合わせ(俺は受け)をしている。


でもラナト君、むっちゃ強い。ほんまに強い。さすがイナバ流の後継ぎって感じ。


「先生……一つ…聞いてもよろしいでしょうか……。」


と、手合わせが終わって肩で息をしているラナト君が聞いてきた。


「ん?なんだい?」


「なぜ先生は受けばかりして反撃してくれないのですか……?それだけ僕には見込みがないのでしょうか……?」


と、イケメンな顔を曇らせて聞いてくるものだから、


「はっはっは!!何を言い出すのかと思えば……そんなの決まってる。見込みがありすぎて、反撃できないだけだよ。」


「えっ?」


「君のイナバ流を前見せてもらったことがあっただろう?その時の君のイナバ流には他のイナバ流にはない、強さがあったんだ。」


と言うと、ラナト君は驚いた顔をしていた。自分には自覚が無いらしい。


「その強さとは一体なんですか?」


「口で説明するのもなんだし一回俺の振りを見ていてくれ。」


と言い、二つの例を見せた。


「一つ目がこれ。」


それは、荒ぶった振り。これが本来のイナバ流である。


敵に攻撃させる間も無くその圧倒した力でねじ伏せることが今も人気の流派である理由。


(コソコソ話)騎士団もこの流派が多いらしい。


「そして、二つ目がこれ。」


さっきと同じ振り。しかし、体の全てに力を入れるのではなく、要所要所に力を入れている。なので力を温存できる。


なにを隠そう、これはラナト君の振りである。


「この二つを見て何か気づいたことはある?」


「えっと、二つともイナバ流でした。でも二つ目は力の入れ方が違うような気がします。僕と同じような……」


「正解!君の振りには無駄がない。だから同じイナバ流と戦っても必ず君が勝つだろうね。」


そしてラナト君は、何か驚いたような表情をして、涙を流した。


「す、すいません。昔おんなじことを言われて。」


「気にしなさんな。それより昔って?」


そして、ラナト君は自分の過去を教えてくれた。


○○○○


(こっからはラナト視点でいきます。)


僕はイナバ流という、代々伝わる流派の生まれで、僕には6人の兄がいた。


僕は末っ子というのもあって、兄からはとても可愛がられた。


でも僕の母は、その6人の母からは嫌われていて、時々、母が泣いていたのを見たことがある。


それを見た僕は、

(母を守れるよう強くなりたい!!)

と、思うようになり、数ヶ月早かったが、イナバ流の修行をすることになった。


始めは、木刀にすら触れれず座禅を組み、精神統一をするだけだった。


でも、それを繰り返していくうちに僕は無意識に精神と物質の狭間という、色々不安定な世界に入れるようになり、そこでは精神世界なため時間はなく、自分の思い描いたものを出せた。


しかし、それにはなぜか重さがあり、最初は木刀で、体の感覚を掴みつつ、イナバ流の修行に取り組んだ。


そこまでは良かったのだが、精神をすり減らしてあの世界に入っていたため、幼い頃の僕には荷が重く、急に意識をなくし、気づいた時には1週間寝込んでいたらしい。


しかし、それを繰り返していくうちにイナバ流の欠点を見つけた。


体全てに力を入れるより、要所要所に力を入れたほうが、長く戦えるのでは?と。


そう思った後の僕の行動は早かった。


体のどこに力を入れるべきか精神(略)で試したり、父から教わった、刀を持ち、今どこに力を入れるかで、自分が1番力を入れるべき所を探ったりした。


しかし、現実は非常であり、探しても探しても見つからなかった。


そして14歳になって、僕は親の目を盗み、魔物が蔓延る森へ行った。


魔物を倒せばどこに力を入れればいいかわかるかもしれないと、ほぼ自暴自棄になっていた。


しかし、まだ幼かった僕に魔物は早すぎた。


イナバ流で斬っても斬っても魔物は無傷で、まるで嘲笑うかのように雄叫びをあげた。


すると、さっきまで一体だった魔物はいつのまにか数十体と増え、僕は死を悟り、


殺された、と思った。


しかし、いつまでも魔物からの攻撃は来ない。


すると、


ザザーン!!!


辺り一帯になにかが斬れたような音が聞こえ、気がつくと魔物全ての首がな

かった。


そして、


「大丈夫かい、少年。」


と、僕より少し年上の傭兵の人(後の先生)が手を差し伸べてくれた。


そして、町まで護衛してもらう途中で、色んなことを教わった。


その中でも、


「へぇー!イナバ流を学んでいるんだ!ちょっと見せてもらってもいいかい?」


と、言われたので刀を振ってみる。


そして、何かが分かったのか、その人は腰にあった刀を持って、


「なるほど。君はイナバ流の欠点に気づいたんだね?」


といい、その人はイナバ流の振りを見せてくれた。


しかし、そのイナバ流は、


「美しい……」


美しかった。洗練された振りで要所要所に力が入っており、これが僕が目指したイナバ流なのだと思った。


そしてその人はこんなアドバイスを言ってくれた。


「要所要所に力を入れるのは、人によって違うんだ。だから君は君の思うように力を入れてみるんだ。そうすれば刀は必ず教えてくれる。」


と、町に着いてそう言い、風の音が聞こえたかと思うと、そこにはもうその人はいなかった。


そして、僕は家族にこっぴどく怒られ、数週間の外出禁止をくらった。


しかし、その数週間で僕が目指していたイナバ流に辿り着いた。


あの人の教え方が良かったのか、すぐに刀を持ち、自分の思うように振っていると、無意識にその動きが修正されていった。


そして、数ヶ月後……


兄6人を負かし、僕はイナバ流の後継ぎとなった。


◎○○○


「まあ、その後兄たちからは嫌われ、半ば強制で傭兵志望者となったんですがね。」


と言い、この話は終わった。


「そんな過去があったとは……でも、そのおかげで君は強くなれたんだね。」


そもそも、この昔話は、クロヤに気づかせるためにやっていたのだが、鈍感な彼は気づかない。


「と、そろそろ時間だ。それじゃあ、自分は仕事があるから。」


と言い、先生は訓練場に出た。


「やはり先生は気づかないか……。でも僕は諦めない。あの時僕を守ってくれたように、今度は僕が先生を守るんだ。」


と、決意をあらわにしたラナトは今日も鍛錬に励む。


◇○○○

夜12時



俺は溜まった仕事を終わらせ、自分の部屋へ戻る。


傭教施設には寮があり、女子寮と男子寮に分けられているが、せいぜい9人しかいないため男子寮の1階を女子寮、2階を男子寮と分ける。


そして2階の端にある、俺の部屋には先客がいた。


「クロヤさん?仕事っすよ。」


そこにいたのは砂糖と塩を間違える女。


名を、サナカと言う。


「で、その仕事は?」


ネクタイを緩め、その上に分厚いコートを着て、俺はある仮面をつける。鬼の仮面だ。


「王国クリストンのデモ活動の鎮圧らしいっす。」


「そうか。期限は?」


と言うと、彼女は悲しそうな表情をして、


「一週間っす……。」


と言い、顔を背けた。


「分かった、すぐ片づける。」


そう言い、窓から王国へ行こうとすると、


「クロヤさんっ!!なんでなんの疑問も持たずに、こんな仕事をするんですか!?」


と言うので、俺は、


「何度も言わせんな。それでこの世界が、良くなるならこの手をいくら汚しても構わない。それに……」


サナカは涙を流して、


「それに……?」


と言う。俺は、


「また、お前たちと過ごしたいからな。」


と言い、俺は仕事を終わらせに向かう。


その後ろ姿を見たサナカは、


「うぅ、私たちがあの時、あの選択を選んでなければ、あの人が縛られることは無かったのに……。」


と言い、悲しげな顔で送り出す。


だが、それを盗み聞きしていた生徒がいた。


☆一部修正しました。









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