第3話 聖剣と初代と

女に気づかれないように適度に距離を取りながら女の後を着いて行くと、女は運のよい事に仲間を見つける事が出来た様だった。




「お前か!?無事だったんだな!」




女が仲間達の元へ近づくと、あの兜を被った男が気づき声をかけてきた。


嬉しそうに女の帰還を喜ぶ隊長という男が、我は面白くなかった。


女を見て、にやつく男の口を剣で縫い付けたくなってしまった。


男が眠った後にでも、本当にやってやろうかと物騒な事を考えていると、男は女戦士を連れて何処かへ向かおうと動き出したのだった。


我も当然、後を付いて行った。








上空から女戦士たちの後を追いかけていると、開けた場所に出た。


そこには白い三角の形をした物が、いくつも並んでいた。


そして、その中から女戦士たちと同じ格好をした人間達が出てきたのであった。




「隊長!ご無事でしたか!!」




三角から出てきた人間は、兜の男を見るなり嬉しそうに話しかけてきたのであった。


その相手に、兜の男も気さくに話しかけている。


そして同じような三角から、ぞろぞろと人間達が出てきたのであった。


出てきた人間達は、女戦士とその仲間達に次々と声をかけてきた。




「無事でよかった。心配していたんだぞ。」




隊長と呼ばれる男よりも更に派手な兜を被った男が、女戦士たちに嬉しそうに話しかけてきた。


女戦士たちはその男の事を、指揮官と呼んでいた。


そして、指揮官と呼ばれた男と一言二言言葉を交わすと、女戦士たちは三角の中に入っていってしまったのであった。








そして次の日、女戦士たちは戦場へと出ていた。


その日は、生憎の悪天候だった。しかし女戦士とその仲間達は土砂降りの中、足を止める事は無かった。


我は歩き続ける人間達の姿を食い入るように見つめていた。




何をそんなに必死になって、奴等は歩き続けるのだろう?




しかも女戦士たちは見てわかる程に疲れた様子をしていた。しかも雨に濡れて寒さで震えながら尚も歩き続けていたのだった。




何処かで雨宿りすればいいものを……。




奴等の行動は、我にはさっぱり理解できなかった。


理解できないからこそ、我は奴等の行動を観察し続けて見る事にしたのだった。


すると、女戦士たちが突然歩みを止めた。彼女たちが見つめる先には、同じような人間達が同じように女戦士あっちを見ていたのだった。


仲間か?と一瞬思ったのだが、それは違うようだった。


形の違う鎧を身に纏った人間達は、剣を抜き放つと女戦士たちに襲い掛かってきたのだ。


対する女戦士たちも剣を抜き、走り出した。


大きな雄叫びを上げながら、お互いの剣をぶつけ合う。




戦いだ。




我はいつか見た、我を造りだした王が他の人間達にやっていた事を思い出した。


倒れる者と倒す者。とれもこれも、赤い液体を流しながら戦っていた。


ふと、人間達が争っている姿を見ていると、女戦士が数人の人間達に囲まれている姿を見つけた。


我は急いで女の元へ飛んだのだった。












「へへへ、もう逃げ場はないぜ。」




「おい、こいつ女だぜ。」




「ほお、楽しみが増えたなぁ。」




我が駆け付けると、女戦士を取り囲んだ敵の戦士たちが嫌な笑いを零しながら話していた。


男共の言葉に、我は何故か不愉快になった。


ムズムズする感覚に、体が小刻みに震えてしまう。


暴れ出したい衝動を何とか堪えて女戦士たちを見下ろしていると、敵の戦士たちに女が口を開いた。




「黙れ外道が。お前たちの好きにはさせん!」




女戦士の言葉に、敵の兵士達は目を丸くする。


そして下衆な笑い声をあげると、女戦士を揶揄ってきた。




「威勢が良いねぇ、ねえちゃん。ヤリ甲斐があるってもんだ!!」




一人の戦士が楽しそうにそう言うと、残りの戦士たちがニヤニヤと笑いながら、女戦士を挟み込む様に移動してきた。


女戦士は、そんな男達に怯むことなく剣を構えている。


その凛とした堂々たる姿に、我は釘付けになってしまった。




「可哀想だなぁ。こんな所に来なきゃ嫌な思いもしなくて済んだのによぉ。」




「くっくっくっ、まったくだ。」




男達は女戦士を憐れむ様な事を言いながら、黒い歯を見せつけながら厭らしく笑ってきたのだった。


そんな男達に、女戦士たちは心底嫌そうな顔をしながら吐き捨てるように言ってきた。




「貴様たちの好きにはさせん!国で待っている家族のために、そして我が王や民のためにも、お前たちはここで食い止める!!」




女戦士が高らかに宣言すると、それまでニヤついていた男達は一瞬で笑顔を引っ込めると、「出来るものならやってみやがれ!」と言いながら女戦士に襲い掛かってきたのだった。


女戦士は、男達の剣を見事に躱し一人を斬りつける。


斬りつけられた男は、呻き声を上げながら地面に倒れた。


それを見た男達は、「くそっ」と苛立たし気に舌打ちすると、女戦へと一斉に斬りかかっていった。




「くっ……。」




女戦士は兵士達の剣を同時に受け止めながら、苦しそうな声を漏らす。


その隙を突いて、兵士の一人が女の脇腹にけりを入れてきた。


鈍い音が響き、女戦士は蹈鞴を踏む。


脇腹を抑えながら苦しそうに顔を歪ませる女戦士に、兵士達は躊躇いなく剣を振り下ろしてきた。




ズドン




その瞬間、辺りに稲妻が落ちた。


耳を劈く雷鳴に女は堪らず目を閉じた後、ゆっくりと目を開くと、そこには雷に撃たれて黒焦げになった兵士達が居たのだった。


突然の事に呆気にとられる女戦士。


そこへ、空からゆっくりと剣が降りてきたのだった。












気が付くと、我は魔力を使っていた。


魔力の放出と共に轟く雷鳴。


目の前に居た男の兵士たちは、一瞬で黒焦げになり地面に倒れた。




またこの女を助けてしまった。




自分のしたことに驚く。しかし不思議と後悔はなかった。


そして、ゆっくりと女戦士の元へ降りていく。


助けたのは我だとわかるように、少しだけ光りながら女戦士の目の前に姿を現したのだった。




「お前は……。」




女は予想通り、我を見て驚いていた。


その反応に優越感を感じながら、得意な顔で目の前でくるくると回って見せてやる。


すると、女がまた話しかけてきた。




「また、お前に助けられたな……。」




女戦士はそう言うと、くすりと笑ってきた。


その姿に、我もニヤリと笑う。


そして




『使え』




と呟きながら、我はごく自然に女戦士へ向かって、その身を差し出したのだった。








その後、我を手に入れた女戦士は無敵だった。


そして、戦いに勝利した女戦士たちは国に帰り、そこで女戦士は戦いの功績を認められ、国王から爵位と家を与えられたのだった。


それ以降、我はその女戦士と共に行動を共にする事になったのであった。




とまあ、これが我と初代との出会いなわけだ。


我は、初代の真っすぐな性格と男顔負けな勇ましさに惚れ込んだのだ。


あやつとの生活は実に楽しかった。楽しかったのだが、一つだけ誤算があったのだ……。それは、何故か初代はあの時の隊長と所帯をもってしまったのだ!


我というものがありながら何故じゃ!?と不満だったが……まあ、あやつが幸せそうだったので何も言えんかったがな……。








そして時が過ぎ、初代が等々この世を去る時、我の役目も終わると思った……。しかし、また我は出会ってしまったのだった。




そう、あの娘に――




忘れもしない、生まれたばかりのあの子……カレン。




か弱い産声を聞いた時、この子だ!と我の刀身に衝撃が走ったのを今でも鮮明に覚えておる。


そして、我は生涯この子を護ると決めたのだ。




あの女の孫である、この愛しい子を……。




それ故、可憐に近づく男達は我の厳正な判断で蹴落としてやったわ!


カレンに近づく不届きな輩は許さんからな!


しかし……つい最近、カレンに変な結婚を持ち掛けてきた男が居たのだが、そやつも我の自慢の刀身で叩き落してやろうと思っていたのだが、ついうっかり昼寝をしている間に結婚してしまったようなのじゃ。


しかも隙を見て凝らしめてやろうと思ったのじゃが……なかなかどうして、その男はカレンの事を本気で好きになった様でのう……。


しかもカレンも何故か、ハッキリせんのだこれが…………。


何時の時代になっても、揺れ動く乙女の心は我にはよくわからん。どうしたもんかと思う今日この頃なのじゃよ……。




聖剣はそう言いながら溜息を吐きつつ、思い出話を終わりにしたのであった。




おわり


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裏ありイケメン侯爵様と私(曰く付き伯爵令嬢)がお飾り結婚しました! 麻竹 @matiku_ukitam

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