第2話 聖剣と女兵士

それは、人間の女だった。




その女は、断崖絶壁の岩の上に腰掛け荒れる海を眺めていた。


身を投げるつもりか?と思ったが、どうやらそうではないらしい。


女は、我が今まで見た女達とは違う格好をしていた。


その女は、他の国でも見た兵士とかいう奴が着ている、鎧とかいう服を身に着けていたのだった。


女は、肩に羽織ったマントを潮風に靡かせ、打ち寄せる波の飛沫にブーツがが濡れるのも気にせず、ただ荒れる海を眺めていたのだった。


何故か、その女に興味が湧いた我は、そっと側へ近づいていった。


そして女の頭上まで来た時、誰かがやってきた。




絶壁から少し離れた森の中から、数人の鎧を着た兵士たちが現れたのである。




「こんな所に居たのか……。」




その兵士の中で、一際装飾の派手な兜を被った兵士が女に話しかけてきた。




「ああ、誰かと思えば隊長でしたか……よくここが分かりましたね?」




「お前は、高くて危険な所に行きたがる癖があるからな……。」




隊長と呼ばれた男は、何故か疲れたような顔をしながら言ってきた。


そのゲンナリした顔に、女はフッと笑う。




「仕事ですか?」




「ああ、今度は西の森だ。」




「了解しました。」




隊長の言葉に、女は腰を上げると傍に置いておいた兜を被る。


他の兵士たちと同じ姿になった女は、隊長たちと共に森の中へ向かって歩き出したので、我も付いて行く事にしたのだった。












女の後を付いて行きながら、上空から観察していてわかった事は、女はとある国の兵士だったということだった。


女戦士とは珍しいなと、更に興味が湧いた我は、そのまま女の戦いを見守ることにしたのであった。


そして女は、戦っている内に仲間と逸れてしまったらしく、森の中を一人で彷徨っていた。




「くそ、みんなどこだ?」




女は、敵に見つからないように慎重に森の中を移動していく。


しかし運の悪い事に、仲間を探している途中で敵に見つかってしまったのであった。


軽い身のこなしで、木々の間を抜け敵から必死で逃げる、しかし開けた場所に出てしまい、あっという間に囲まれてしまったのであった。


襲い来る敵を何度か遣り過ごし、切り捨て泥にまみれながら必死に戦う女の姿を我は食い入るように見ていた。


そして、木の根に足を取られ尻餅を着いてしまった女に、敵の剣が容赦なく振り下ろされた時だった……。




ギンッ




気が付いたら我は女を庇っていたのであった。


振り下ろされた刃を、自身の刀身で受け止め、我を見て怯んだ相手を薙ぎ払った。


助けられた女も、突然目の前に現れた空飛ぶ剣に驚いたのか、尻餅を着いたまま目を見開きポカンと口を開けて呆けていたのだった。


そして、あっという間に敵たちを薙ぎ倒してしまった我は、女の目の前に静かに近づいていった。


初め、驚いて後退りしていた女だったが、我が何もせずじっと目の前で浮いていると、恐る恐る手を伸ばしてきたのだった。




まあ、少しくらいなら触らせてやっても良いか……。




我は抵抗せず、女の手を受け入れた。


震える指先でそっと柄の部分に触れていた女は、次の瞬間柄をぎゅっと掴んできたのだった。




「なんだこれ?」




そして、あろう事か我をグイッと引き寄せると、我を上下左右にグイングイン動かして調べてきたのであった。


その余りにも無礼な行いに、我は怒りも露わに女の手から逃げたのだった。


ペシッと手から勢いよく離れ、怒っていることを伝えるために、女の方へ向き直ったのだった。


もちろん剣先を向けて威嚇を忘れない。


女は我の剣先が顔の前に突き出されて驚いたのか、両手を頭の位置まで上げて驚いた表情で我を見てきた。




「ごめん、ごめん!もう触らない!わかったわかったから、その剣先を私に向けないでくれ!!」




女は引き攣った顔で、我にそう懇願してきたのだった。




ふん、わかればいいのだわかれば。




我は女から剣先を少しだけ逸らしてやると、女は安堵したようにほっと息を吐いてきた。




「それにしても、なんなんだ?この剣は。」




しかし凝りていないのか、女はそう言いながら我の体を舐め回すように見てきたのだった。


その不躾な視線に我がピクリと体を揺らすと、女は「はいはいごめん」と反省しているのかいないのか、よくわからない間の抜けた声で言いながら両手を上げ離れていった。


暫くそうして女を威嚇していたのだが、何故か女はそれに飽きたのか、上げていた手を下ろして溜息を吐いてきたのであった。




「はあ、こんな所で剣と、にらめっこしている場合じゃなかった。隊長たちを探さないと……。」




女は肩を落としながらそういうと、我に向かって「じゃ、あたしは急ぐんで先行くよ。あ、助けてくれてありがとうね。」と言って来たのであった。


我が突然の事に呆気に取られていると、女戦士は片手をあげて「じゃ」と一言言うと、逃げてきた道を戻って行ってしまった。


我は直ぐに我に返ると、慌てて女の後を追いかけたのであった。

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