外伝【曰く付き聖剣伝説】
第1話 聖剣と偽の賢王
我が名はシリウス。
見ての通りの剣だ。
剣である我に、名前があるのには理由があるのだが、そのいきさつはあとで話すとしよう。
まずその前に、我の説明をせんといかんのでな。
我が造られたのは、ずいぶん昔のことであった……
我はある時、忽然と生まれた。
いや、生み出されたというべきか?
我は、とある国の王によって大勢の人の命を犠牲にして作り出されたそうだ。
我を作った国王と言うやつが、酒に酔った時に我を作った時の話をしていたので間違いないだろう。
その証拠に、我の中には常に複数の人間の気配があった。
しかもこの気配は、何故か目の前の国王とかいう男を前にすると、暴れるように騒ぎ出すのだ。
それは何処か暗く重苦しく、そして何故か奥底からふつふつと熱い何かが湧き上がるような感覚だった。
生まれたばかりの我には理解し難く、どこか遠い所で感じる得体のしれない感覚に、我は正直戸惑っていた。
我も何度かその感情に引き摺られて、思わず国王を貫きたい衝動に駆られることがあった。
しかし、まだ生まれたばかりの我にはどうすることも出来ず、ただただその感情に成す術も無く、国王の言う剣として冷たくその場にいる事しかできなかった。
我はその感情とやらに辟易しており、体が慣れるまでは暫しの間眠りにつくことにしたのだった。
そしてふと目を覚ますと、我が眠りについてから10年ほどの月日が経っていたらしく、国王のいる国は大きく発展していた。
我が寝ていた10年の間にも、この男によって沢山の命が刈り取られたらしい。
国王の側近達が、王のいない時にひそひそと話していたのを聞き、その内容の酷さは相当なものだった。
ある時は戦争で疲弊した土地を肥やすべく、魔導士と言われる魔力を持った人間達を使って、昼夜問わず大地に回復魔法を施させたとか。
またある時は、国王の住む城が狭いという理由で、平民の男達を集めて無償で城を建てさせたとか。
聞けば聞くほど呆れるような内容に、我は辟易した。
しかも我が眠っている間に、我の中にある魔力を使って民たちを脅し、云う事を気かせていたのだというのだ。
我は知らぬ内に、この男の手助けをしていた事を知り更に嫌悪感を募らせた。
しかも、あろうことか我の中の人間の気配と魔力量が増えているようなのだ。
我が眠っている間に、我を強化させるべくまた大勢の人間が犠牲になったのだと、国王の側近が話していた。
皮肉な事に、そのお陰で我は以前よりも周りの情報を理解する能力が上がったらしい。
眠る前は朧気だった感覚は、今やクリアになり人の言葉も周りの状況も正確に理解できるようになった。
いずれ、この王は滅びる。
我は直感的にそう感じた。
周りの人間達の負の感情も、目の前の男の尽きない欲望も手に取るように分かった。
そして我はこの国から去る事を決めた。
この国の王は、我を強化することにも貪欲だった。
更なる剣の力を求め、どんどん人間達を犠牲にしていったのだ。
王が言うには、この国には人間が沢山いる為、ちょっと減らしたぐらいではどうという事は無いらしい。
ニタニタと笑いながら臭い息を吐く口で、得意になって言っていた。
とても不愉快だったが、我の中に増えていく魔力を感じながらあと少しの辛抱だと待った。
あと少し、あと少し魔力が増えれば我は動くことが出来たからだ。
犠牲になった人間の中には、魔導士たちが多かった。
国王は、より強い魔力を我の中に注ぎ込むべく、名のある魔導士たちを集めては我に注いでいった。
そしてある日。
我はとうとう動けるようになった。
しかし、我が動けることは国王に悟られないよう、物言わぬ剣のフリをしていた。
そして、いつこの国から出ようかと機会を窺っていると、ある時チャンスがやって来た。
人も動物も寝静まった夜、城に侵入者があったのだ。
そして、国王の寝所に忍び込んだ賊は、そのまま王の命をあっさりと奪ったのだった。
手を血で染めた賊は、ふと我に気づいてこちらを見てきた。
「こんなものがあるから、この国は……。」
そして、賊は何故か我を手に取って忌々しそうに呟くと、我を掴んだまま城から逃げたのだった。
さて、これが我が生まれた当時の話だ。
ん?その後賊に持ち去られた我はどうしたかって?
もちろん逃げたわ。
あの時の賊は、仲間が待っていた船に乗って海へと逃げた際、我を手放した途端飛んで逃げてやったわ!
我が突然飛び出した事でかなり驚いていたようで面白かったぞ。
そして、この話には続きがある。
我は国王からも賊の手からも逃げ出し、自由を手に入れた。
飛んで飛んで、魔力が尽きるまで海の上を飛んで、いつしか大きな島に辿り着いた。
そこは大陸と言って、我が作られた国より更に大きな土地が広がっていた。
我は人間に見つからないように、遥か上空を飛んでその大陸を見て回った。
そして、ふと、ある国へ辿り着いた時、ある人間が目に留まったのだった。
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聖剣様が初代と出会うまでのお話を書いてみました。
更新遅めですので、のんびりお付き合い頂けたら幸いです。
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