第41話

それから数週間後――


「ちょっと、待ってくださいカレン!何処へ行く気ですか?」


フェルニナード侯爵家で、当主であるレオナルドの慌てる声が響いて来ていた。

余所行きの格好をし、大荷物を次々と馬車に運び込む従者たちに指示を出していたカレンは、夫の声に振り返る。


「何ですか?」


カレンは首を傾げながら、どうしたのかと聞き返してきた。

その呑気な返答に、レオナルドは更に焦りを募らせて捲し立てるように言葉を紡いだ。


「何って、それは僕の方が聞きたいですよ。こんな大荷物を運び出して何処に行く気ですか?」


レオナルドは不安に揺れる胸を抑えながら、引き攣る笑顔でカレンにそう訊ねる。

対するカレンは、きょとんとした顔で、さらりと答えてきた。


「え、何処って、実家に帰るんですけど。」


当然のように言うカレンに、レオナルドは更に頬を引き攣らせて言葉を続けた。


「か、帰るって……ほ、『訪問』は僕も同行するのですから、いちいち実家に帰らなくても、ここから行けば良いでしょう?」


とレオナルドが、にこりと歪んだ笑顔で何とか言えば


「何言ってるんですか?私の役目はもう済みましたでしょう?貴方には、もう彼女はいないんですから……。」


真顔で言ってくるカレンに、レオナルドは冷や汗を流しながら聞き返してきた。


「な、何言ってるんですか、貴女が居なくなったら僕はどうするんです?」


「え?ちゃんとした妻を娶ればいいんじゃないですか?」


カレンの爆弾発言に、レオナルドが「ひぃっ」と悲鳴を上げる。

恐れていた事が目の前で起こり、レオナルドは慌ててカレンを思い留まらせようと説得しようとした。

のだが……


「あ、離縁状はもう陛下に申請しておいたので、後で届くと思います。届いたら記入して、我が家に送ってください。そうすれば夫から私が見限られただけと思われて、侯爵家の名には傷がつきませんから。」


レオナルドが言うよりも早く、カレンから更に爆弾発言を投下され、レオナルドは瀕死寸前になる。

更には、気を抜くと卒倒してしまいそうな脳裏に、離縁状を手にして、ほくそ笑むクリスティンの顔が浮かんできた。


「あ、あの……。」


「はぁ~、刺客の心配も無くなったので、これでやっと領地に避難してもらっていた母と兄を呼び戻せます。これもレオナルド様と陛下のお陰ですね、ありがとうございました。」


初めて彼女の口から名を呼ばれ、一瞬喜んでしまった隙に、カレンは颯爽と馬車に乗り込み窓から手を振りながら、あっという間に去って行ってしまった。


「ちょ、カレン!離縁何てしませんよ!絶対に諦めませんから!!」


土煙を巻き上げ去って行く馬車を恨めし気に見ながら、レオナルドは必死に叫ぶのであった。




それから数日後――


オーディンス伯爵家では、連日のようにカレンを説得しに来る侯爵家当主の姿が目撃された。

そして、押し問答を繰り広げる夫婦の背後では、領地から帰って来たばかりの父母と兄が心配そうに見守っており、その横の暖炉では昼間は中で寛いでいる筈の聖剣が沈黙していた。


はてさて、この結婚の行方はいかに!?




おわり




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



これにて本編は終了です。二人の関係は、うやむやに終わらせてしまいましたが、その後の展開は皆さまのご想像にお任せします♪

また、【後日談】や【おまけ】の話などを書く予定ですので、よろしければそちらもお茶請け程度にお楽しみ頂ければと思います。

最後までお読み頂きありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る