第40話

そして数日後――


北の国の王以外は、騒ぎを聞きつけて駆け付けてきた騎士達に取り押さえられ、一旦地下牢へと放り込まれた。

そして、北の国の王を迎えに来た使者達と共に、国へ帰って行ったのだった。


「これで北の国との外交は無くなっちゃいましたね。」


北の国の王を見送りながら、カレンが残念そうに言うと、クリスティンは「ん?何故だ?」と首を傾げてきた。


「え、だって……今回の事があったから話は無くなったんじゃ。」


「まあ、それはそれ、これはこれだ。それに、話を聞く限りでは、こちらで売れそうな特産品が結構あるみたいだからな。しかも、あちらは今回の件で強く出られない。この機会を逃す手はないだろう。」


そう言いながら、にやりと笑うクリスティンの瞳の奥に、お金のマークが見えたのは気のせいではないだろう。

意外とやり手な国王陛下に、カレンとレオナルドは肩を竦めながら苦笑するのであった。






そして数週間後、久しぶりの”訪問”の時に、陛下であるクリスティンから、北の国のその後の話が聞けた。

あの後、国へ帰った北の王は、己の不甲斐無さを恥じ、王位と政権を弟に譲って隠居してしまったそうだ。

そして、新しく王になった弟はというと、これまた頭が良い人物だったらしく、あれよあれよという間に旧王政派の人物を特定し、次々に閑職へと追いやってしまった。

そして味方を無くし、力を無くした宰相はもちろん犯罪者として投獄された。

そして、新王から送られてきた謝罪の手紙の中には、聖剣を狙ってきた刺客達の詳細も書かれていた。


案の定、刺客達のほとんどは、あの宰相が仕向けた者だったらしい。

さらに驚くことに、その噂を何処からか聞きつけてきた自国の貴族たちが、聖剣の正体に気づき手に入れようと目論んでいたというのだ。

あわよくば聖剣を手に入れ、剣マニアであるクリスティンに献上すれば、将来安泰と考えたのであろう。

そして、聖剣の持ち主がカレンである事に気づいた貴族たちが、こぞって求婚をしてきたという訳だった。

なんともまあ迷惑な話だと、カレンは手紙を読みながら呆れていた。


「オーディンスの先代の時も、旧王政派の誰かが刺客を送っていたらしいぞ。その情報を受け継いだのが、あの宰相だったらしいな。」


侍女の居れた紅茶を飲みながら、締め括るようにクリスティンが付け加えてきた。

その話を聞きながら、カレンは複雑な顔をする。


「聖剣一つに何代にも渡って刺客を送ってくるなんて……。」


「まあ、気持ちはわからなくもないな。」


「「え?」」


クリスティンの肯定する言葉に、カレンとレオナルドが驚いた声を上げた。

そんな二人を見ながら、剣マニアである国王陛下は悪びれる様子も無く、こう言い放ったのであった。


「それはそうだろう、こんなに素晴らしい剣を見たら誰でも欲しくなるというものだ。」


と。

踏ん反り返って言うクリスティンの手元には、北の国の王が放棄した聖剣が大事そうに抱えられていたのだった。

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