第29話

数ヶ月振りの実家は何故か新鮮だった。

変わりのない屋敷の佇まいに、懐かしさを覚え思わず頬が緩んでしまう。

しかし、隣で渋面を作っている夫に気づき慌てて表情を引き締めた。


「行きましょう。」


「ああ。」


カレンが促すと、レオナルドは硬い表情で頷き、オーディンス家の家令に案内されて屋敷の中に入っていった。

通された部屋で待っていると、カレンの実父であるオーディンス伯爵こと、ルドルフがやってきた。

カレンは久しぶりの家族との再会に、顔を綻ばせる。

そんなカレンを横目で見ながら、レオナルドは夫としてルドルフに挨拶をした。


「まあ、楽にしてください。」


ルドルフがそう言うと、侍女が静かにお茶を持ってきて退室していった。

その無駄のない身のこなしに、レオナルドはルドルフを見た。


「彼女も”影”の一人です。」


ルドルフはそう言って肩を竦めてみせる。

その言葉にレオナルドは軽く目を見張った。


「お察しの通り、この屋敷にいる殆どの者が”影”に準じる者たちです。」


ルドルフの告白に、レオナルドは絶句した。


――家族以外の全ての者が、オーディンス家が雇った私兵だというのか!?


まるで、王族並みの厳重さに眩暈を覚えた。


「何故そのような真似を?」


レオナルドの問いかけに、ルドルフは苦笑しながら話し出した。


「いえ、実は何代か前までは、至って普通の私兵だったんですよ。人数もそれほど多くはなかったのですが……。」


ルドルフの話に、レオナルドは首を傾げる。

そんな彼の様子を窺いながら、ルドルフは続けた。


「私の母……カレンの祖母に当たる人ですが、彼女がアレに選ばれた時から、彼女を慕う私兵が増えてしまいまして……。まずは、オーディンス家とアレの関係から話したほうが良さそうですね。」


話の意味がわからないと、首を傾げていたレオナルドに気づいたルドルフは苦笑すると、オーディンス家の秘密を話し出した。





彼の話では、オーディンス家には初代からあの聖剣は存在していたらしい。

らしいと言うのは、その存在を記した古文書や伝記などは無く、いつから存在していたのかが不明だったからだ。

しかしオーディンス家に飾られている初代当主の絵の中に、聖剣が描かれているそうだ。

しかも初代は女性だったらしく、かなりの剣の使い手だったそうで、どういう経緯で手に入れたのかはわからないが、彼女の持ち物だったのではないかと推測されている。

そして、聖剣はオーディンス家に代々伝わり、そして不思議なことに聖剣に選ばれるのは、いつもオーディンス家の血を引く女性だったというのだ。


「何故女性なのか、何代にも続いて我が家の謎でしたが、残念ながらその謎は今だに解明されていないのですよ。」


ルドルフはそう言うと、わざとらしく肩を竦めてみせた。

その様子にカレンは噴出す。


「ふふふ、当の本人である私でも、この件についてはわからないのですからね。」


「貴女でも?」


「ええ、おかしいでしょう?」


カレンはそう言いながら、呆けた顔をしながらこちらを見つめるレオナルドにウインクしてみせた。

そんなカレンにレオナルドは目を見張る。


――先祖代々から受け継がれてきた聖剣について何も知らないなんて……暢気すぎるだろう。


国宝級の、しかも意思のある魔法みたいな剣に懐かれているなんて、少しは恐ろしいと思わないのかと、レオナルドは呆れてしまった。

そんな事を思っていると、ルドルフから更に驚くべき内容を告げられた。

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