第27話

「またいる……。」


カレンは、引かれた分厚いカーテンの隙間から外を窺い溜息を吐いた。

あの夜会から数日、カレンは前にも増して外を出歩くことを余儀なくされていた。


「困ったわね。」


カレンは重々しく溜息を吐きながらソファに戻ると、侍女が入れてくれた紅茶を飲む。

建国際の夜会での出来事は、瞬く間に貴族の間に広まっていったそうだ。

そして厄介な事に、あの時誰かが口ずさんだ『聖女』というフレーズが、かなり印象に残ってしまったらしく、何故か”フェルニナード侯爵夫人は”聖剣に選ばれた聖女”だという尾ひれや背びれが付いた、大げさな噂になって辺りを駆け巡っているのだという。

レオナルドの話では、既に平民達の間にまで噂が流れているのだとか。

そのお陰で時々侯爵邸の周りには、ゴシップを求めて聖女を一目見ようと、記者やら野次馬が、うろうろするようになってしまったのだった。

そして先程も、屋敷の門の辺りで中の様子を窺う人影を見つけた。


こう昼夜問わず、屋敷の周りをうろうろされては”訪問”も、おちおち出来やしない。

カレンは暫くの間”訪問”を控えていた。

国王には散々嘆かれたが、これで王宮との繋がりを嗅ぎつけられては、それこそ大変だ。

駄々を捏ねる陛下は、とりあえずレオナルドに宥めてもらって、カレンは噂が治まるのを静かに待つことにした。


――はあ、でもそれだけじゃないのよね……。


カレンは噂の事よりも、更に面倒臭い事案に頭を抱えていたのだった。






夜の帳が下り、虫達も寝静まる深夜。

ふと、カレンは目を覚ました。

カレンはまたか、と嘆息すると口の中で何事かを小さく呟く。

次の瞬間、カレンの寝ているベッド目掛けて銀色の細いものが襲ってきた。


「!!!!!」


カレンは布団を盾にしながら身を翻し、ベッドの脇に降り立つと、カレンが寝ていた場所に短剣が突き刺さっていた。

切り裂かれた布団から羽毛が舞っている。

その向こう側に、黒い人影が鈍く光る刀身を構えながら、こちらを見ていた。

音もなく斬りかかってくる相手を交わし、先程手元に来た聖剣で応戦する。

硬質な金属がぶつかり合う音が何度か続いた後、屋敷の中が騒がしくなってきた。

使用人達が、ようやく騒ぎに気づいて起きてきたらしい。


「ちっ。」


カレンを襲ってきた相手は舌打ちすると、窓を破って逃げてしまった。

カレンは賊が逃げていった窓を暫く眺めた後、ゆっくりと息を吐いた。


「また、来てしまったわね。」


苦虫を噛み潰したような顔で、ぽつりと呟くのだった。

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