第17話
レオナルドは内心驚いていた。
目の前の主君は、レオナルドが知るイメージとは大分かけ離れていたからだ。
目の前には、真面目で王の威厳と風格を備え持った尊敬して止まない王の姿は今は無く。
剣を目の前にしてはしゃぐ、ただの剣マニアの男が居た。
そのギャップに、レオナルドは動揺を隠し切れずにいた。
――本当に、いつも玉座で見ている御方と同一人物なのか?
レオナルドは隣に座るカレンに視線をやると、彼女はのんびりと茶を啜っているところだった。
その様子に、これがいつもの事なのだと確信する。
やや混乱する頭で主君を見守っていると、こちらに気づいた国王が小さく咳払いをしながら声をかけてきた。
「おおすまんな、剣を目の前にするとつい夢中になってしまうのだ。」
少しだけバツが悪そうに苦笑しながら言う国王に、カレンはいつもの事じゃないですかと笑いながら頷いてきた。
そのやり取りに、レオナルドはまたしても驚愕する。
――王を目の前にしてこんな態度をして、しかも咎められないとは……。
くすくすと笑い合う国王と妻の姿に、ただただ驚くばかりだった。
胸中でそんな事を思っていると、ふいに国王がこちらをじっと見てきた。
その視線に気づいたレオナルドは、思わず背筋を正してしまう。
「物珍しいか?」
王の言葉に、レオナルドは内心焦る。
――そんなに見てしまっていただろうか?
不躾な視線を向けてしまっていたかと落ち込むレオナルドに、国王がぷっと吹き出した。
「くっくっくっ。そなたは見た目に反し相変わらず真面目だな。」
口元を覆い、堪えきれないとばかりに笑い続ける国王に、レオナルドは呆気に取られる。
「へ、陛下?」
その横でも突然笑い出した相手に驚いた声をあげていた。
「ふふふ、カレンこやつが、どの付くほどの真面目な男だと知っていたか?」
「え?」
国王の言葉にカレンは思わず隣の人物を仰ぎ見た。
「陛下……。」
レオナルドは困ったような顔をしながら、カレンを見返している。
「レオナルド……ここではレオで良いか、レオは見た目はこんなだが中身は物凄く真面目なヤツなのだ、カレンそなたと婚約したときも……。」
「クリス待て!それは……。」
そう口走った後、「あっ」と小声で言いながら、レオナルドはカレンを見てきた。
対するカレンも、陛下とレオナルドのやり取りに瞠目していた。
――うん?今お互い愛称で呼び合っていなかった?
頭に疑問符を浮かべながら二人を見ていると、面白そうにニヤニヤしている国王ことクリスが、種明かしを始めた。
「公には知られていないが、レオと予は旧知の仲なのだ。」
幼馴染のようなものだなと、レオナルドを見ながら言うクリスは、何故か凄く愉しそうだった。
「それ以上は……。」
いつもの饒舌さはどこへやらレオナルドは苦虫を噛み潰したような顔でクリスを見る。
「まあ、レオと初めて会ったのは子供の頃だ、その辺はレオに詳しく聞くといい。」
「・・・・・・。」
レオとの出会いの経緯の説明を丸投げした国王は可笑しそうにレオナルドを見ていた。
その含みのある笑みに子供の頃の出会いに何かあったのかしらと興味を引かれるカレン。
気になってレオナルドに視線を移したが彼は頬を染めて俯いてしまっていた。
「その辺の昔話はあとでゆっくりとな、レオお前がここへ来たのは予と久しぶりに話をしに来たわけではあるまい?」
国王はひとしきり笑ったあと、本題を変えてきた。
その言葉にレオナルドはゆっくりと顔を上げ、国王を見据える。
「はい、今日はお願いがあって参りました。」
もうその顔は過去の話を掘り下げられて、困惑している幼馴染の顔では無く、国王陛下の部下の顔をしていた。
「妻……カレンに私の事を話したいのです。」
真実を告げる事をお許し願いたい。
とレオナルドはクリスに深々と頭を下げるのであった。
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