第16話
夜の蚊帳が降りる少し前、王宮に一台の馬車が止まった。
闇に紛れるように塗られた漆黒の馬車から、黒いローブに身を包んだ大小の二人連れが降りてきた。
門番はいつもよりも多い人数に、眉間に皺を寄せて訝しむ。
背の低いローブの人物が、通行証の証であるペンダントを見せながら「今日は連れがおります」と伝えれば、門番はそれ以上詮索する事無く通してくれた。
長い廊下を暫く歩くと、目的の扉の前に辿り着く。
背の低いローブの人物は、小さく息を吐くと控えめに扉を叩いた。
リズミカルに数回扉をノックする。
すると扉の向こう側から、カチャリと錠が開く音が聞こえた。
ゆっくりと開かれる扉の隙間から、ペンダントを目立つように見せると「お入りください」と小さな声が聞えてきた。
その声に従うようにローブの人物は、するりと扉の中に身を滑らせたのだった。
「よくぞ参った。」
部屋の奥から声が聞えてくる。
見ると、いつものように国王が椅子に座り優雅に紅茶を飲んでいた。
「今日は、会わせたい者がいると聞いておるが。」
一礼し目の前に移動してきたローブ姿の二人連れに国王が訊ねた。
「はい、陛下はよくご存知の方と思いますが。」
「ほお。」
背の低い方が大きなフードを外しながらそう言うと、国王は面白そうに目を細めて背の高いほうを見遣る。
背の高い方はフードを外すと、片膝を着いて頭を垂れた。
「第一近衛騎士団のレオナルド・フェルニナードでございます、今回このような姿で王の御前に姿を見せることお許し願いたく。」
「気にするな、ここでは予はただの剣好きの男に過ぎん、固くならず楽にしていてよいぞ。」
「はっ。」
レオナルドは王の言葉に立ち上がり一礼すると、カレンの横に立った。
本来の王とのやり取りを目の前で見て、若干気まずい気持ちにカレンはなってしまった。
――今までの私の態度って、まずいんじゃないかしら?
大分、失礼極まりないことをしてきていた事に気づき内心慌てる。
そんなカレンの動揺に気づいた王が、カレンに話しかけてきた。
「どうした?」
「い、いいえ。」
「ふむ、おおかた己の作法に疑問を持ったのであろう?」
「うっ……。」
「何度も言っているが、ここでは予がそなたに剣を見せてもらっている身なのだから畏まる必要は無い。」
「はぁ……。」
国王の言葉に頷きながら横を見ると、驚いた顔のレオナルドと目が合った。
「いつも、こんな感じなのか?」
信じられないといった表情で、カレンを見ている。
「ええ、まあ。」
カレンは冷や汗を流しながら視線を逸らした。
「立ち話もなんだ、二人共座って話をしようではないか。」
二人のやり取りに苦笑を零しながら、国王が助け舟を出してきた。
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