第15話

嗚呼ああぁ~~既視感!!


いや違う、この前も同じ事があった。

とカレンは胸中でパニックになっていた。


――なんで?どうしてここに?


目の前には、真っ二つに割れたテーブル。

辺りには、あんなにも美味しそうだったお菓子たちが散乱しており、一瞬もったいないとカレンは嘆いた。

しかし今の状況を思い出し、目の前の光景に目をやる。

目の前には自分の剣が、花園を荒らすように地面に突き刺さっていたのだった。


今更なんでこうなった!?と頭を抱えていると、こちらを心配して近付こうとしたレオナルドに聖剣が反応した。

威嚇するように、レオナルドに刀身を向けている。

カレンは慌てて止めに入ろうとすると、レオナルドの驚愕したような声が聞えてきた。


「なぜ国宝の……王家の聖剣がここにあるんだ。」


その言葉にカレンは青褪める。

まずい、そういえばレオナルドは騎士だった。

しかも近衛騎士様だ。

国王の護衛に当たる彼らは、年に一度建国際に玉座に飾られる聖剣の事は知っているのは当たり前だ。


実は国王と出会って間もなくの頃、王の思いつきで一度だけ祭りのときに聖剣をお披露目した事がある。

そこで調子に乗った国王陛下は、聖剣を国宝とのたまったのだった。

それを真に受けた国民達は、聖剣を崇め奉った。


慌てたのは我に返った国王の方だった。

国民の前で宣言してしまったものを無かった事にはできず、怒り狂った聖剣に必死で謝り倒していた。

なんとか許してもらい、年に一度だけ国宝として飾ることになったのだ。

そしてその祭り以外は、王宮の宝物庫に保管されているということになっている。

もちろんこの事は、国王とカレンとあと宰相しか知らない。




レオナルドは混乱した表情で聖剣を凝視していた。


「どういうことだ?」


そう言いながらレオナルドが身じろぎする。

それに聖剣は反応し更に間を詰めた。

あと数ミリで、剣先がレオナルドの顔に触れるか否かというところで、カレンの叫び声が聞えてきた。


「いい加減にしなさい!!」


見るとカレンが怒った形相で聖剣の柄を掴んでいた。

そして、そのまま覆いかぶさるようにして聖剣を抱える。

あぶない!と叫びそうになったが突然聖剣が、ぷつりと糸が切れた人形のように彼女の腕の中へ落ちていった。


「旦那様、お怪我はありませんか?」


カレンの言葉に、はっと我に返る。

驚いたままの顔でカレンを見ると、剣を抱えたまま心配そうにレオナルドを見上げる視線と目が合った。


「え……と、それは。」


一体なんなんだ?と声にならない声で問う。

するとカレンは困ったような顔で、こちらを見てきた。






にわかには信じられなかった。

目の前の聖剣は確かに国王の剣で……。

しかしカレンの話では彼女の剣らしい。

意味がわからずカレンの顔を見ていると、彼女は一つ溜息を吐き口を開いた。


「えっと、その……話せば長くなるのですが。」


彼女の説明はこうだった。


この剣は、代々オーディンス家の剣であったこと。

剣マニアの国王に王宮へ招待を受けたこと。

色々あって月に一度、国王に剣を見せに行っていること。


信じられなかったがカレンの真摯な眼差しに、とりあえず納得したと頷いた。


「黙っていたのは申し訳ありません。」


カレンはしゅんと項垂れる。

それを見てレオナルドは胸が痛んだ。


それはお互い様だった、自分も彼女に隠している事がある。


真実を話してくれたカレンに、今も嘘をつき続けているのだ。

彼女を責める気なんて無い。

レオナルドは、本当の事を言えない自分を歯痒く思いながら首を振った。


「怒ってはいません、ただ驚いているだけです。」


これが精一杯だった。

自分は騎士になるとき、国王に誓いを立てている。

その中に守秘義務もあった。

自分の仕事は諜報部隊、これは国家機密だ。

いかなる場合にも、国王の許可無くして己の正体を明かすことはできない。

レオナルドは意を決してカレンを見る。

そして。


「今度その剣を持って王宮に行くとき、私も同行させてください。」


と、お願いしたのであった。

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