第14話

ふと朝になり目を覚ますと、窓から見える花園の花が今日は殊更美しく見えた。

ぼんやり花達を見ていると、脳裏に彼女の顔が浮かんだ。


――そうだ今日は彼女を、この花園に招待しよう。


ふと思い立った良案に一瞬で心が弾んだ。

ん?と己の反応に首を傾げたが、疑問に思ったのは本当に一瞬で、彼女の喜ぶ顔が目に浮かんでしまい、どうでも良くなった。

レオナルドは、あまり深く考えずにベッドから起きる事にしたのだった。


今日は何故だか気分が良かった。

いつものように朝食を別邸でと思ったが、たまには彼女と一緒でも良いのではないかと思った。


偽装とはいえ夫婦なのだし……。


レオナルドはそう思い直すと、席を立ち本邸に向かう旨を従者に伝えたのだった。




先触れを送って事前に連絡は済ませた。

だから自分がここへ来たのは、突然ではないというのに……。

思ったよりも驚いた様子のカレンに、レオナルドは少しばかり不満を感じた。


――そんなに意外だろうか?


確かにお飾りの妻になってくれとは言ったが、別に四六時中顔を合わさないとは言っていない。

数ヶ月前までカレンの元へ寄り付きもしなかった事を棚に上げ、レオナルドは胸中でぼやく。

朝の挨拶を済ませ、当たり前のように食堂へ向かった自分を、驚いた顔をしながら付いて来るカレンの反応に、彼は見えないように口を尖らせてしまった。


朝食を共にしながら、話の流れで少しだけ強引に別邸へ招待した。

いつもの自分らしくないなと思ったが、彼女が全く興味がありませんといった態度に、少しばかり意趣返ししたくなった。

ちょっとへそが曲がっていたらしい。

女性に対して意地悪すぎただろうかと、心配になって彼女の様子を見たが、いつもと変わらぬ表情に少しだけ安堵したのだった。






失敗した、と思った。

別邸の中を色々案内しているうちに、カレンの眉間に皺が寄っている事に気づいた。

疲れたのだろうかと思ったが、ふとここがどこだったかを思い出し焦った。


――何をやっているんだ自分は。


こんな失態今までになかった……。

女性とのやり取りは、常に仕事と直結しており気が抜けないものだったのに。

今の自分は完全に気が抜けている。

初めての失態に半ば呆然としていたが、気を取り直して花園へ移動した。


彼女に細心の注意を払ってエスコートし、椅子に座らせる。

戸惑っていた彼女は、用意された紅茶とお菓子を見て顔を綻ばせていた。

その可愛らしい表情に安堵した。


そして出来るだけ彼女を飽きさせないように、面白い話題を振るよう心がけた。

ころころ笑ってくれるカレンの笑顔に、なんだか自分も愉しくなってくる。

ふと今まで彼女にしてきた事を思い出し、小さな罪悪感が生まれて彼女に謝りたい気持ちになった。


――いや謝るのは失礼か、これはきちんと感謝の気持ちを伝えねばなるまい。


自分はそう思い立ち、彼女に感謝の言葉を紡ぐと彼女の白魚のような手を取った。


その時、異変は起きた。


派手な音と共に、微かな地響きが体に伝わる。

思わず飛び退いて音がした方を見れば、何故か剣が地面に突き刺さっていた。


ー―敵襲か!?


と辺りを見回す。

すぐ近くに青褪めたカレンを見つけて、怪我は無いかと近付こうとした。

のだが――。


「!!」


目の前に剣の切っ先が見えた。




鼻先にある刃にレオナルドは仰け反る。


「な、なんだ!?」


よく見ると、先程地面に突き刺さっていた剣ではないか。

しかも、空中に浮いている。

魔法か何かか?と首を傾げながら、向けられる刃から逃れるように右へと移動した。


「なに!?」


レオナルドの顔が引きつる。

剣は空中に浮いたまま、レオナルドの動く方へと切っ先を向けてきたのだ。


――狙いは俺か?


剣の向こう側では、カレンが青褪めた顔でこちらを見ていた。

彼女に怪我が無い事に、ほっと安堵する。

少しばかり余裕の出てきたレオナルドは、そこである事に気づいた。


「これは……。」


目の前の不思議な剣を思わず凝視する。


「なぜ国宝の……王家の聖剣がここにあるんだ。」

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