第12話
昼間、別邸で彼女と目が合ったときは、さすがの自分も肝が冷えた。
聞かれたかと動揺する。
しかし、彼女は特に表情も変えず、何事も無かったように去って行ってしまったのだった。
彼女が去って行った後も、彼女の事が気になって仕方が無かった。
まさか、あれを見られるとは思っていなかった。
彼女の性格上、こちらには絶対来ないだろうと思っていたのだ。
偶然か必然か、どちらにしろ彼女があの時の会話を聞いていたか、聞き出さなければならない。
昼間会っていた女達は、もちろんレオナルドの恋人達であったが、その中に情報を持ってきた女も混ざっていた。
いわゆる情報屋というやつだ。
レオナルドは、いつもこうやって彼女達と逢引しながら情報を引き出していた。
自分に近付いてくる女は、容姿が目当てな者はもちろん、地位や財産目当ての者、果ては情報を売るのが目的で近付いてくる者もいた。
もちろん彼女達には、できるだけ誠実に対応しているつもりだ。
愛を囁き時には楽しませて彼女達は夢見心地のまま、こちらの必要な情報を教えてくれるという寸法だ。
純粋に己を求めてくるものには愛を、見返りを求めるものには金を。
そうやって今まで上手くやってきた。
今も、これからもだ。
全ての女性が自分を求めているとは思わないが、カレンの反応は新鮮だった。
初めて会った時も、まったく媚を売る気配すらなかった。
興味も無いと言わんばかりの無表情な眼差しに、少しだけ興味が沸いた。
こちらのあり得ない提案に、すぐに頷いたのも驚きだった。
少しは抵抗するかと思っていたのだ。
まあ、何かに怯えているような様子はあったが、それは仕方ないだろう。
突然求婚してきて、それが偽装結婚だと言われたのだから。
しかしそれ以外は、彼女は従順で逆に喜んでいる節さえ窺えた。
まさに理想の妻だった。
しかし、今日あの別邸で彼女に見られたと気づいたときは、また新しい相手を探さねばいけないのかと焦ったのだが。
それも杞憂だったらしい。
話を聞いていた彼女に、嘘は見受けられなかったからだ。
仕事上、そういう駆け引きには自信がある。
しかも、本当に彼女は自分には興味が無いらしいことも同時に判ってしまった。
もう近付きませんと言った時の、あの拗ねたような顔には吹き出してしまいそうだった。
あんな可愛い表情もするのだなと、少しだけ好感が持てた。
彼女の意外な顔が見れて、ちょっと上機嫌だったのかもしれない。
気が付いたときには、別邸に来ることを許してしまっていた。
少々軽率だったかと自責の念に駆られたが、彼女があの美しい邸を見たらどういう反応をするのか、知りたいと思う気持ちの方が勝ってしまった。
――まあ、なんとかなるだろう。
レオナルドは自嘲気味に薄く笑むと、目の前の妻との会話を楽しむ事に専念することにした。
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