第11話
「他には何をしているのですか?」
「そうですね、天気が良い日は庭で散歩、を……。」
まずい、と思った。
レオナルドを見ると、口の端が上がっている。
話す隙を与えてしまった事に、内心で舌打ちした。
「そうですか、あそこのバラ園は素敵でしょう。」
「え、ええ。」
「他にも小さな花園があるんですよ、もう見られましたか。」
言葉に詰まる。
小さな花園とは別邸にあった、あの花園のことだろう。
レオナルドは手を組んで顎の下に置くと、カレンを観察するように見つめてきた。
「え、ええ少しだけ。」
嘘がつけず、小さな声で答える。
視線を逸らしてしまったのは、まずかったと内心で焦った。
「そうですか……実はあそこに建っている建物はいつも私が使っている別邸なんですよ。」
「そ、そうだったんですか……知りませんでした。」
苦し紛れに知らなかったフリをする。
「ええ、実は今日は私の彼女達も来ていましてね。」
――ど直球過ぎるな、おい……。
カレンは思わず、胸中でツッコミを入れてしまった。
あまりにもストレートに言ってくるレオナルドに、カレンは真顔で見つめ返す。
仮にも妻に失礼だろうと半眼で見ていると、レオナルドが苦笑しながら言ってきた。
「華やかな花達に紛れて花園の奥に、可憐な花を見つけてしまいましてね。はて?どなたかに良く似ていたのですが見間違いでしたかな?」
面白がるように、こちらを見てくるレオナルドに、カレンは口元を引くつかせていたが、暫くすると観念したのか素直に謝ってきた。
「すみません、庭を散策していて偶然居合わせてしまって……覗くつもりはありませんでしたよ、ほんとに。」
少しだけ口を尖らせてしまったのは許してほしい。
本当に偶然居合わせてしまったのだ、断じて他意はない。
ちらりとレオナルドを見ると、何故か驚いたような顔をされた。
そういう表情もできるんですねぇ、と小さな声で呟いた声は、カレンには聞こえなかった。
何か面白がるように、こちらを見てくるレオナルドに、カレンは「もう近付きません」と言って、そっぽを向く。
ちょっと子供っぽかったかしら、とちらりと覗けば苦笑するレオナルドが見えた。
「いえ、来ていただいても良いですよ。」
「は?」
「来るときは事前に教えてもらえると、ありがたいですが。」
そう言ってウインクをしてきた。
意味がわからない。
なに彼女との逢引き場所に本妻を招待しているんだこの男はと、怪訝な目で見る。
「あそこの花園は本当に素敵でしてね、ぜひ貴女にも見てもらいたいんですよ。」
「か、考えときます。」
カレンの視線に困ったように苦笑したレオナルドは、なんの警戒心も見せずそう言ってきた。
その言葉が本心だと思ってしまうほどに、爽やかな笑顔で言われてしまい、カレンは気まずそうにそう返事をするしかなかった。
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