第12話 初陣
「あたし、これ受けたい!!」
鮮烈なデビュー戦(俺目線)を終えたニア。そんな彼女が指を差したのは『ルルームの森で遭難した子供の救助依頼』。
救助依頼もあいまって難易度はBランク。相変わらず自身よりランクの高いクエストを選んで来ていた。
だが、正直のところあまり心配していない。
あの強さは間違いなくBランク上位、ひょっとするとAランクに匹敵するものだ。自分より上のランクの敵をたった一発で倒し切るのだ。弱いわけがない。三年という経験から考えてもこれ程の強さなら大丈夫だろう。という確信を持っていた。
それにしても相変わらず見物人が多いな。ニアのことをちらちらと盗み見する奴が結構いる。おおよその合点はつく、期待のルーキーがこのチームでどんな初陣を切るのかが楽しみなんだ。
が、以前来た時より幾分か少ない気がした。どうしたんだろうか。俺という死んだはずの亡霊がいなくなったから? そんな訳ないか。
髪色を黒から金に変え、髪型も変えた。服装もいつもの鎧から軽量化した装備を調達。流石に関係のない二人に迷惑をかけるのは悪いと思って身なりを変えることにしたわけだ。
始めは慣れなくてモヤモヤしたが、周りの視線に比べれば何てことはない。もっと早くすればよかったとちょっぴり後悔している。
「チーム・ニア」
受付嬢さんが俺達を召集。どうやら手続きが完了したらしい。
「手続きは全て完了しました、クエストを受領します。期限は2週間。では、お気を付けて」
「了解」
事務的な対応で開始を宣言する受付嬢さん。それを合図にターミナミア支部を退出する。
扉を開けると空から強烈な光が差してきた。
やっぱり眩しい。あのギルド、内装のせいで暗いから外に出ると必ず光で目がチカチカするんだ。
帰って来て数える程度しかこのギルドを訪ねていないけど、過去とあまり変わらないせいで、この扉を潜るときは色々思い出してやはり感傷的になる。
あの時もここからスタートしたんだ。
そして、今がある。
けれど、もう今の俺はあの時の俺じゃない。覚悟を胸に頬をぴしゃりと叩いた。
早速手に持った依頼書を広げて皆に見せた。
最初の目的地はルルームの森付近にあるテレンガの里。依頼対象の子供が住んでいる里だ。そこで母親が待っているらしい。そういう訳でまずは母親から詳細を聞いてダンジョンに潜る。オーソドックスな内容だが、気を引き締めていこう。
「準備は出来たか?」
二人に尋ねる。バハムートはおう。と返事をするが片割れは納得いかない様子でムスっとしてしまった。
「な、なあニア。一体どうしたんだ?」
「リーダーはあたしなんですけど!!」
「あっ、そうか。すまない」
そうだな、リーダーが進言した方がチームは纏まる。出しゃばりすぎたと反省。
「わかればよろしい!! さて、今回目指すのはテレンガの里。そこを経由してルルームの森へ向かう訳だけど……皆、準備はいい?」
「俺は問題ない」
「ワシも問題なし!!」
「オッケー!! じゃあここを出て少ししたらムーちゃんに送ってもらいましょ。道案内はあたしがやるわ。ムーちゃん、お願いしていい?」
「任された!!」
「ありがと。じゃあ、早速目的地へ出発!! サクッとおわらせちゃうわよ!!」
「応!!」
記念すべきリーダーの、そして命より大切な妹の初陣。
花を持たせるためにも、頑張らないとな。
ターミナミアを出た俺達はバハムートの手を取った。それを確認したバハムートは空高く飛翔。少しずつ街並みが小さくなっていくのを眺めながら、いよいよ空旅が始まった。
風が頬をつたう。丁度いいスピードということもあって少しひんやりしていた。
それにしてもニアは大丈夫か? 緊張とかしてないだろうか。気になって横目に見ていると、地図を見ながらバハムートへ道案内をしている。まだつたなさはあるものの、その姿は既に冒険者のソレだった。
本当に成長したんだな、と感心する。
子供の頃はずっと遊び惚けていたり、やんちゃだったり、かと思えば甘えん坊の時もあった。旅に出ることを言った時は泣いて止められたっけ。
そんな子供は時間を経て、強く凛々しい大人の女性へと成長を遂げていた。
「どうしたの?」
「いや、な。昔を思い出したんだ。昔はあんなに構って構ってだったのに、こんなにも変わるんだなって」
「ばっ、何を言うのお兄ちゃん。あたしは昔から……」
「ほ~~~~う? それは興味深い話だなゴシュジン。イモウト殿の話、是非聞かせてもらいたい」
「そうだな。あれは――」
「もうやめてってお兄ちゃん!!」
「いやいや、ワシにも知る権利がある!!」
「そういうことなので。じゃあ気を取り直して……」
「あーっ、もう!! ほんとにバカ!!」
キーキー喚きながらも過去の話に花を咲かせる。
それはいつかの旅を思い出させるものだった。けど、もう思い出すことはしない。今の俺はチーム・ニアの一員だから。
仲間だった奴の姿は霧となって消えていき、その先にはバハムートやまおうサマ、近衛兵の皆さん。そして、ニアが待ってくれていた。
俺も前を向けているのかな。
感傷に浸りつつ、今この瞬間に没頭するのであった。
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