竜に喰われてやり直し

第１０話 新生、チーム・ニア

　翌日。

　ニアに連れられやってきた場所はギルド、ターミナミア支部だった。

　のこのこと現れた俺に受付嬢は盛大に溜息をつく。

「呆れた」

「へへん」

　したり顔のニア、我関せずの竜、またしても何も知らない俺。

　いや、この呆れようを見れば予想はつくか。

　ニアは勢いよくカウンターへと身を乗り出す。

「お兄ちゃんを私のチームに参加させてください！！」

　意気揚々にそう宣言すると、ギルドの連中がざわつき始める。

　やっちまった。慌てて口を塞ごうとするが時すでに遅し。

　皆口を揃えて俺のことを指さしている。

　中には見知った顔も居て、怪訝そうな顔をしている。そりゃそうだよな。俺はアイツらと旅に出たはずなのに何で独りここにいるんだ、と思うのは不思議じゃない。

　そんな一般クエスト民の事情なんて全く知らないニアは、俺を指差して進言したのだ。

　顔を真っ白にした受付嬢が慌てて俺の前へかけより、何があったと耳打ちした。

「すみません、言う前に先手打たれちゃった感じです」

「バカ！！　貴方死んだことになってるのよ！？　知っている奴がどんな顔をするか。ああ、もう外野を見たくない……」

「はは、胃薬あげましょうか？」

「いらないわよ！！」

「あの、受付嬢さん？　仲間に入れたいんですけど大丈夫ですか！？」

　有無を言わせないニアの剣幕。

　それに当てられた受付嬢はわなわなと拳を握り

「ああ、もう！！　もっかい裏へ集合！！」

　ニアに負けない凄い迫力で裏を指さした。彼女のポケットからはもう胃薬が２、３本はみ出ていた。

　いや、ほんとすみません。

　場所は変わって、一昨日俺が連れだされた場所。

　ここに来てもやはり受付嬢は怒っており、軽く慰めもしたのだがいつの間にか俺だけ正座で聞くことになってしまった。

「話を元に戻すけど、貴方自分が何やってるかわかってるの？」

「いや、無理矢理連れられてですね……」

「どうせ旅をやめるつもりはなかったんでしょ？」

「それはそうですね」

「少しは否定しなさいよ」

　頭を抱える受付嬢。見た目だけの竜と違って正真正銘クールが売りの彼女がこんなに狼狽えてるのは初めて見たかもしれない。

　帰って来てから人の知らない一面を目にすることが増えたような。あの時の俺は戦争を無くすこと以外何も考えられてなかったな。まぁ、ひたすら必死だったし。

　なんてのんきなことを考えていると、ニアが割って入ってきた。

「お兄ちゃんをスカウトしたいんだけど、どう手続きをすればいいんですか？」

「……本当、貴方たちって兄妹なのね」

「え、何がですか？」

　受付嬢は俺らの反応にもういいです。と項垂れ、一枚の用紙を差し出した。

「これがパーティ承諾書。そこのお兄ちゃん、使い方はわかるわよね？」

「アッハイ」

「そういう訳だからお兄ちゃんにレクチャーしてもらった後、これを書いて私に出して」

「ありがとうございま～す」

　嬉々とした顔でニアは書類を埋めていく。

　ハァ、とまた溜息をついた受付嬢。

「で。アレは話さないつもり？」

　射殺すような視線に背筋がピンと伸びる。一番大事なことだ、また旅を続けるにあたって。

　このまま黙るのか、それとも全て話して復讐を果たすのか。

　何日も考えたけど、答えはやはり変わらない。

「はい、話すつもりはありません。アイツの旅に俺の過去は関係ない」

「いずれバレるかもしれないわよ？　貴方自分の事過少評価するけど、その道では人気者だったし」

「人気者の自覚はないですが、きっとその時は来るかもしれないですね」

　でも。

　それは誰かに与えられるべきじゃない。

　自分の目で見て、肌で感じて、耳で聞いて、自分で判断する。ニアもそうしたいからここに来た。俺がその邪魔をしてはいけない。

「あの子も言ってたわ。今まで人任せだったから、今度は全部自分がやるって。あぁ、どうして気づかなかったのかしら。こんな似た者同士の兄妹」

「はは、これからもお世話になります」

「本当、勘弁してよね」

　呆れを交えつつも、彼女はどこか嬉しそうだった。それだけじゃない、彼女は新しい戸籍、他にもいくつかの変装セットまで用意してくれ、それをベースにギルドカードを作ってくれたらしい。これで俺はまた、冒険者として活動することができる。

　用意周到すぎるだろ、この人。

　そして。

「全部、書いたわ。これが最後よね」

　ニアは俺の前へ手を差し出す。

「冒険者キール。私の仲間になって」

　旅に出る前は子供らしさもあった。俺の記憶では気丈ではあったけど、どこか寂しがりの一面もある妹だった。

　けど不思議かな。あどけなさはまだあるけど、そこに映るのは一人の立派な冒険者だった。

　彼女の作る未来、そして俺が目指す未来を掴み、それを形にするように――

「喜んで」

　握手を交わした。

「ありがとう、お兄ちゃん」

「ワシもチームメンバーだぞ！！　まさか忘れてないだろうな？」

「忘れてない、忘れてない」

「よろしくね、ムーちゃん」

「おう！！」

　互いに握手を交わすことで、また俺はパーティを組むことになった。

　それが妹になるだなんて、この時まだ思いもしなかったよな。

　でも、折角の機会が与えられてる以上、今度は俺が二人を守ることにするよ。

　それでもう、お前らとはお別れだ。

　さらばだ、過去の記憶（おまえら）