第9話 俺の選択

 嵐のような出来事だった。

 呼ばれたバハムートも目が点になっている。俺は俺でよくわからない状態になっているし。


「ま、まぁ大丈夫なんじゃないかな。ゴシュジンが守ってやればいいし」


 竜がそっぽを向いてひゅーひゅー口笛を吹き始めた。

 怪しい。露骨に怪しい


「何かやったろ」


「いいや? 何もしてないよ?」


 明らかに挙動不審だし、無駄にきょろきょろしている。何かやったのは確定だな。

 もう一押し。


「ニアのギルドカードに何回かクエストが完了した形跡があったけど。バハムート、何か知ってたりしない?」


「わ、わわわワシはそんなこと知らない」


 滝のように汗をかき始める竜。動揺しすぎて体ががくんがくんと揺れる様は王と呼ぶにはあまりにもコミカルな姿だった。


「教えてくれたらご褒美に何かメシ作ってやるぞ?」


「じゅるり。ふ、ふん。こんな誘惑で友を売る事なんてせんぞ」


 友を売るって自分で言っちゃったよ。もう百パーセント黒だ。

 それに気づかないのか、当の本人はふーふーと荒い息を立てながら口元からうっすらとよだれを零していた。欲深すぎだろ。


 つい面白くなって、もう一つ爆弾をしかける。果たして竜はこれに耐えられるか。


「今ならビワハヤブサのステーキも追加」


「ぬぬぬ、断る」


「ホワイトタイガーの丸焼き」


「な、なんだそれは卑怯だぞ。そんなものウマイに決まっておるだろうが!! しかし、友を裏切るわけには……!!」


「システリアにあったパン」


「はい、喜んで!!」


 ちょろい。

 目をキラキラさせながらこちらを見上げる様は、もはや親が用意した晩飯にウキウキの小僧だった。


 それからはタガが外れたのか、俺のいない間に何があったのかボロボロ吐いた。


「いやな、イモウト殿も旅に出たいと考えていたようでな。そりゃあ始めはゴシュジンの話もあったから止めようと思ったんだが、上目遣いで迫られてはもう辛抱たまらなくて気づいたら一緒にクエストを受けていたんだな。うん」


 バハムートの服からはみ出ていた紙を取ってみる。それはやはりギルドカードで、何回かクエストを受けている形跡があった。どうやらギルドに入ったのは俺が家に帰って来て何日かした後で、ニアも同じ日にギルドに入っていたらしい。


 にしても、クエストランクC……とんでもない記録だ。このギルドではクエストランクというものがあって最低位がFで最高位がSになるわけだが、通常はFで半年過ごして、そこから数ヶ月かけてG、才能があれば中難易度クラスのクエストをクリアしてD以上に上がっていく。という流れが殆どなんだが、ランクを見る限りそれをたった数日でやってのけているようだ。

 さすが竜というべきか常人離れの能力といったところか。


「ちなみにイモウト殿も同じくCだ」


「ハァ!? 一体どうやって!!」


「イモウト殿はまぁ優秀だぞ。始めはFランクでも苦戦していたが、ワシが戦い方をちょちょいと教えてやるとすぐに覚えていった。飲み込みが早いというか、あれは執念に近いのか? とはいえ、さすがはゴシュジンのイモウト殿。潜在能力は群を抜いている」


 呆気にとられるが、バハムートは嘘はついていないようで彼女の活躍ぶりを嬉しそうに話した。どうやら、ギルドの中では期待のルーキーとして知られているらしく瞬く間に結果を出す姿に一部ファンまで増えてしまっているという。お兄ちゃんの面目丸つぶれだぞ……


「ちなみにゴシュジンのランクはいくつだったんだ?」


「う~ん、俺死んだことになってたしリセットされているはずだから恐らくFだな」


「ゴシュジンの力でFとな!? 人間共の目はどこまで節穴なんだ」


 あー、そうか。俺が死んだことになっているの二人は知らないんだよな。まずはバハムートに事情を話すか。


「実はな、俺死んだことになっているようでさ」


「ファ?!」


「前一緒に組んでいた奴が俺の知らない間に死亡届を提出していたらしい。それで俺捨てられたろ? だから脱退しようとしたんだけど、そもそも死んだことになっているから、そのままだと手続きをすることが出来ないらしいんだ」


「ゴシュジンを置いていったあのクサレ人間共か。脆弱な分際で知恵だけは身に付けおってからに。見つけたら今すぐに喰ってやろうか」


 殺気がビュンビュン飛び交う、他の人びっくりしちゃうからやめようね。どーどー言いながら落ち着ける。


「ともかく、事情があって新しくギルドカードを作らなきゃいけない。それでFからやり直しってことだ」


「解せんがとりあえず状況は把握した。で、ゴシュジンはどうするんだ?」


 考えることなんてないよな。

 兄として妹は守らなければいけない。それに俺自身の目的も果たされていない。ヴァルヘイムの言っていた黒幕がいる限り一生この停滞した状況は終わらないだろうし。ならソレを倒す為にも少しでも情報を集めながら旅をするしかない。


「腹を括る、か」


「その意気だ!! あ、ちなみに伝言だがリーダーはイモウト殿らしいからフォローは任せたとのことだぞ、ゴシュジン!!」


「えっ」


 どうやら俺の今後は既に決まっているらしい。破天荒なお姫様を二人で守りつつ、目的を果たす。ありきたりだけどとても難しいミッションだな。

 でも、二人で共に歩くのも悪くないかもしれない。


 圧倒的なまでに強くなったから問題ないと思うが、今後何が起こるかわからない以上責任をもって最後まで見届けよう。



「全ては平和の為に」

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