第3話 うちへ帰ろう
「ゴシュジンの家に行ってみたい!!」
バハムートからそう言われたのは、ヴァルヘイムへの尋問から二週間が経ってからだった。
「俺の住んでいる所は人間界だぞ、お前人間嫌いだろ。大丈夫なのか?」
「大丈夫!! 最悪ムカついたら食べる!!」
「何を言ってんだお前は」
こいつ、その気になれば村の人達まるっと平らげそうだもんな。妹まで食べられたらたまったもんじゃない。
ヴァルヘイムもびっくりする位世界中を破壊するかもしれん。
「まあ、それは流石に冗談だが。本当はゴシュジンの妹君に会ってみたいんだ」
「おい、食べる気じゃないだろうな」
「食べる訳なかろう!! ワシはただゴシュジンともあろう人間の妹がどれほどの者なのか見てみたいのだ。きっと聡明なお方に違いない!! ワクワクが止まらん!!」
クールビューティーみたいな恰好で子供みたくウキウキされると違和感でくしゃみが出そうだ。
「聡明、かぁ。まぁとてもできた子だとは思うが」
「ゴシュジンの太鼓判付きとは!! これは楽しみで仕方ない。さあ行こう、今すぐ行こう!!」
バハムートは有無も言わさず俺を背に乗っけた。
あの怒涛の日々があったせいで忘れていた。コイツはいつも急なんだ。それにいつの間に竜状態になったんだ……
そんなことを考える間もなく、ぐんぐんと地上が遠くなっていく。少しだけ冷静さを取り戻したころには魔王城はまた点程の大きさになっていた。
「ちょ、待って。まおうサマに挨拶をぉおおおおおおおおおおおあああああああ」
あぁ、なんてデジャブみたいな光景。
まおうサマ、すみません。全部この竜が悪いんです。罰は竜だけにお願いします。
そんな願いも空しく、挨拶もロクにできないまま無理矢理魔王城を離れることになってしまった。
さようならぁ。と心の中で別れのあいさつ。
突風に顔を歪ませながら雲の上を滑空する。
若干気を使ってくれてるのか、吐く程の旋回や加速はしてこなかった。
なんなら上空をほどよい速度で移動しているもんだから風の冷たさがちょうどいい。
「きもちえぇ~……」
「ふふん、竜の王ともなればこの程度造作もない」
「お前王だったのか!?」
『モチのロン!! 竜だけに!!』
やかましいわ。
俺は、空の上でぼうっと地上を見下ろしていた。
呑気に景色眺めるだけの時間を過ごすのはいつぶりだろうか。
魔王を倒す旅に出てた時は結構ハードすぎて、周りなんて見てられなかったもんなあ。
目の前の敵を倒すこと、なんとかして追いつくことで精いっぱいだったっけなあ。本当、何か一つ変わればこうも景色は変わるんだと実感する。
故郷に帰ればアイツらに出くわす可能性もあるのか。
どんな顔をして会えばいいのか。別に俺は悪くないけど、なんかこう裏切られて死地に追いやられた立場だからひょっこり出くわすとどういう態度をとればいいのかわからないんだよね。
「贅沢な悩みなのかもねぇ」
『どうした、悩みがあるのか?』
「いや、俺裏切られて死ぬはずだったけど生きてるわけじゃん。裏切った奴に鉢合わせたらどんな顔すればいいのかな、って」
『もし、ワシがゴシュジン程の力があるなら即抹殺だろうな。出来る限り苦しめて生まれたことを公開するまで痛めつける!!』
ぶっそうすぎ、却下。
その後もバハムートの意見を聞いていたけど、八つ裂きにするや
とはいえ、いくら無益な争いを嫌う俺でも少しはぎゃふんと言わせてやりたい。う~ん、どうしようかな。ニアに聞いてみるか? バハムートと同じ答え帰ってきそうだけど。
「早く清算しないとなぁ」
『ゴシュジンはお人よしなのか達観しているのか不思議な男だのう。そこに惹かれたわけじゃが』
「いや、そんな男じゃないんだけどな。本当は」
劣等感でいっぱいだったし、羨ましさもあった。けど、力を手に入れてからは無くなってしまった。おそらく人間じゃあ俺に勝てる奴がいないということを悟って以来、何かと比較すること自体が無くなってしまったのかもしれない。
これはきっと
そんなことを考えてしばらくしていると、辺り一面空だった景色にぽつぽつと地表が見えてきた。ついに俺達の故郷の近くまでやってきたわけだ。
変な緊張が生まれる。
「バハムート、そろそろ故郷につくから降りる体制に入ってくれ」
『わかった!!』
少しずつ地表の景色が見え始める。懐かしい、村の中心にそびえたつ一本の巨大な木。子供の頃よく遊んだっけ。
何年ぶりだろうなぁ、故郷に帰ってくるの。
何十年も離れていたわけではないけど、十代の俺からすれば人生の何分の一かは外に出ていたわけで。
「よし、ここで頼む」
『了解!!』
地表の景色がゆっくりと近づいてくる。俺の家や、かつて通っていた寺子屋も見えて来た。うわ、村長の家も相変わらず残っている。あのじいさん俺にだけやたら当たりが強かったからなぁ。相変わらず健在なんだろうなぁ。
陸に着地した時、何とも言えない感情に襲われた。
魔王を倒す為に出たのに、いつしか俺は魔王と友達になっていた。死にかけたとか言ったらどんな顔をするんだろうな。自分の口から言わないけど。
慣れ親しんだ土地をゆっくりと歩く。
振り返りながら、これまでの旅の出来事が思い浮かぶ。こんな形で帰ってくるとは思わなかったな。
そんな思いを胸に、ついに俺たちは、故郷――ハッシュ村の入口にたどり着いた。
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