第2話 黒幕はとてもいやらしい奴
ヴァルヘイムの話はこうだった。
システリアを拠点にした理由。
それはシステリアがその当時から人間界の中心都市であり、他種族が行き来する中継地点だった為、もしここを拠点に取ればほかの種族に対して牽制でき、反対勢力にいつでも応戦できると思ったかららしい。
その一方で人間への対策も用意していた。
早い内に人間を洗脳し、足りない戦力で魔族に挑ませるよう調整できれば、簡単に反乱分子を制圧でき、ついでに魔族の強さを見せつけることができる。
もし、システリアを抑えられればこの一石二鳥が成立すると思ったそうだ。
実際それはうまくいったようで、戦えば戦う程人間の戦力は落ちていき、今に至っては当時の見る影もない。
ほとんど苦戦することが無くなったんだと。
邪魔な人間達の中枢であるシステリアを乗っ取り、魔族による統治を開始。敵の戦力を弱らせて対抗できなくして、戦争というものを無くす。
これがヴァルヘイムにとっての『平和』らしかった。
率直な意見を言うとかなり独りよがりな考え方だな、と思った。と同時にある疑問が生まれる。
「俺達が教えられた通り魔族は人間や他の種族を支配した。っていうのは真実ってことか? でもじゃあどうしてバハムート達はそこまで人間に関心がないんだ? 関心のない奴が何かを襲うってことあるのか?」
現に俺らのことエサとしか思ってなかったみたいだし。
「魔族が、というより僕が率いた一派が乗っ取ったというのが正しいかな」
一派でこれかよ。と言いたいところだが、魔王と人間の力量差というのはそれが成立する位にまでかけ離れている。
駆け出し冒険者がそこらのザコ敵を倒すくらいには簡単な作業だったのかもしれない。
「でも、ある日から全てが狂った」
ヴァルヘイムの表情に怒りが混じる。
ヴァルヘイムの施策が実行されて10年が経過したタイミング。
持ち前の戦略で人間は日に日に数を減らしていき、目標としていた魔族による統治が達成されようとしている時にそれは起こった。
「体が自分の意思で動かなくなったんだ」
「動かなくなった?」
まおうサマが怪訝な顔で問いただすも、代わりに出た答えはより詳細な内容を示すものだった。
「そう、始めは体を動かすのに違和感がある程度だった。けど、次第に意識が途切れるようになって、気づいたら知らない場所にいることも増えてきた。怖くなって、部屋から出ないようにした。自分が何をするかわからなかったから自室に封印もかけた――全部無意味だった」
そして、対策も思いつかないままその時は訪れる。
「目が覚めたと思えば僕の周りには死体が転がっていた。そこには僕の仲間もいた」
頬に涙が垂れても、努めて淡々と話すヴァルヘイム。
「全てが嫌になって、仲間がいない所に逃げようとした。すると、今度は意識が途切れなくなった。代わりに何かが乗り移ったみたいに、新しく仲間を作ってはとても楽しそうに手にかける光景を何回も、何回も見せられた」
自嘲して笑っているが、目に光はもう無かった。
「いつか、仲間が死んでどう思うかと聞いて来たね。勿論、嫌だったさ。早くこんな苦しみから抜け出したかった。でも、体を乗っ取られた僕ではどうしようもなかった。そうしているうちに、仲間を殺めても何とも思わなくなってしまったよ」
同胞の大量虐殺は続いた。俺達が現れるまで何千年も。
その長きにわたる惨劇はヴァルヘイムの精神を確実に壊していった。
「これこそが『ヤツ』の手法なのさ。長い時間をかけて自我を粉々に砕き、残った抜け殻で『敵』を完成させる」
後は『ヤツ』の目的に沿って動く人形になり、均衡という『平和』を維持する装置として永久に活動させられる。
「これが英雄。またの名を敵と呼ばれる犠牲の正体だ」
壮絶。と言わざるを得ない内容だった。当初の目的が支配とはいえ正直同情する。
でもここで感傷に浸る訳にはいかない。まだ『ヤツ』が何者であるかがわかっていない。
こんな状態でどうやって探せって言うんだよ。ほぼ詰んでないか、これ。
そう思った俺とは対照的に、幻聴さんは何か確信めいたものを感じたようだった。
『これで敵の正体は絞れるわね』
幻聴のせいでものすごく肩透かし喰らった。
知ってるのか? 幻聴さん。
『ええ、知っているわよ』
その直後だった。
ヴァルヘイムは俺に向けてこう言った。君達に伝えたいのはここからだ、と。
俺は
何故俺が選ばれたのか。
その答えを知るのはもうしばらく後になる。
その前に、知らなければならない敵がいる。
「キールといったね、君は
『自分の手を汚さない事を徹底し、秩序というものに異常な執着を見せる。それに加えて
敵の名は。
「
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