第二章 敵を知る

第1話 俺氏、身バレ寸前。

『号外!! システリアに現れた謎のヒーロー』


 本日未明、システリア上空に突如巨大な物体が発生。システリア城へ衝突の可能性が非常に高かったが奇跡的に免れた模様。

 城の奥にある『英雄の間』には数名存在していた痕跡があり、システリア国はこのメンバーに当事件と何らかの関係があるとして、所在を捜索中。

 なお、国民から次のような声が上がった。


『あれはシステリアのヒーローだ!!』


『システリアはあの黒づくめの男に救われた!!』


『竜も見えた。あの男の頭上には伝説の竜が舞っていた。ヒーローは竜をも使役する圧倒的強さを持っている』


『男は竜の背に乗って遥か天空へと旅立っていった。あれはきっと天空の使徒、もしくはシステリアの守り神だ!!』


『俺達は母国のヒーロー、システリアの亡霊を探している!! 見つけたら是非会ってお礼がしたい!!』


『システリアのニューヒーロー、システリアの亡霊グッズ、好評発売中!!』


 システリア国営新聞当局ではこのメンバーについて捜索を開始。見つけた方には金一封を贈呈。引き続き情報を求める。


 そう書かれた新聞をまおうサマの側近から手渡しされた。そこには先の文面と全てを喰らう者ブラック・ホールで大剣を喰いとめる俺の姿がデカデカと掲載されていた。

 どうやら世界中でこの号外は配られているらしく、側近が手に入れた時には既に人間界中で持ち切りになっているそうだ。


「一躍ヒーローだな!! ゴシュジン」


「は、ははは」


 背筋に冷や汗がだらりと流れる。

 言えない、これは俺達が起こした事件です。なんて。


 もし言ってしまえば時の人から一躍指名手配、国家転覆を狙う犯罪者として吊り上げられる。

 こんな大々的に挙げられていればうかつに全てを喰らう者ブラック・ホールを発動することもできない。


 それにしても、自分の国の危機だったってのにこの短いスパンでよく国の危機をネタにセールスなんてできるな。商人っていうのは本当に犬よりも嗅覚が鋭い奴らだ。ある意味関心する。

 ってか、あそこ王国だよな。暗躍していたヴァルヘイムも居なくなって、国の偉い人がいないのに何でこんな平常運転しているんだ?

 いや、きっと俺らの知らない誰かが統治しているんだよな? 誰もいないのに勝手に運用が続けられるとかそんなん……だめだ、これ以上考えるのはやめよう。

 

 俺は何も知らない見ていない。ひとりでに活動を続ける国なんて怪奇現象あるわけない。


「ところで、まおうサマ」


「どうした?」


「この魔族のみなさんは?」


「ああ、ワレが呼んだ。魔王ヴェルズを救ったヒーローとな!!」

 

 魔王城はそりゃあもう、見上げても見上げてもテッペンが見えない位にドデカイ城だ。それに下手すると一つの街がすっぽり入りそうな程の大きさの土地を持っている。

 ということは、そこに住んでいる人達もべらぼうにいる訳で。大勢の魔族が興味本位で訪れた結果、王室の外はぎゅうぎゅうに詰められて人口密度がどえらい状態になっていた。多分俺が入ったら圧死するかも。


 それ位いろんな人が王室周辺にべったりと張り付いている。これ、もう外出られないだろ。


「あちゃぁー」


 頭を抱えた。ここでもかよ……

 いや、そりゃあ誰かにちやほやされてみたいとか多少は思ったとも。

 でも、実際体験したらわかる。ここまでの集団を見てしまうともはや恐怖心しか勝たん。さすがに欲もごっそり削れるさ。


「い、いやだったか……?」


 あ、やばい。


「そんな、滅相もございません!!」


 ビシッと最敬礼。

 任せてくださいよ、皆さん。流石に皆さんの主を泣かすような真似しませんって。だからしょっぴくのはやめてください。あんたらの武器全部さっきからずっと照明に照らされてて、しかもそこに俺が映ってるから怖いんですよ。

 

 この統率力本当尊敬する、もうあっぱれ。標的は俺だけどな!!


 おだてにおだてまくって、ゴマが粉末になるほど擦りまくって、やっとこさの思いでまおうサマのご機嫌を取り戻した。

 この人最強だろうに、やたらすぐ泣くのは何故なのか。英雄の間で見せた威厳たっぷりの魔王が嘘のようにお子様に戻ってしまっている。


 本当に不思議だなあと思いながらゴマ擦りを延長していると、調子を取り戻したのかまおうサマはオホン、と一つ咳払いをした。


「本題に移ろう」


 のほほんとした空気が一気に張り詰めた物へ。

 やっぱこういう所は魔王なんだろうな。もう、皆まおうサマに注目して傾聴の姿勢になっている。


「今回、システリアという人間が作った国で間接術式が確認された」


 各々が反応を示す。驚愕の声を出す人、冷静に話の展開を待つ人、好奇心から話をうながす人で三者三様。

 そんな中、当然といったように側近の一人がまおうサマへ尋ねる。


「どうして人間が住まう場所に魔族の技術があるんですか? 我ら魔族の技術、人間ごときが理解できる代物ではない」


「それも含めて、原因である輩を捕まえて来た。さあ、入れ」


 いつの間に道が開いたのか。閉じられた扉が開き、鈍い金属音と共に他の側近さん達によって目の前まで運ばれる。

 何十もの鎖に繋がれ、磔にされて目隠しをされたソイツの名は。


「久しぶりだね……皆」


「そ、その声は……!?」


「皆が知っている通りこの男はヴァルヘイム、初代魔王だ」


 何名かが狼狽うろたえるがまおうサマがそれを制す。その後、時折怒りを滲ませながらも努めて冷静にふるまい、事の顛末について一通り説明を終えた。

 それは実験施設で見つけた惨状も含めて、全部。


 あまりにも悲惨な内容に信じられないと嘆く者もいた。それに対し、魔王はある被害者の遺品――俺が前に見た家族の写真が入れられたペンダントを見せることで、それが嘘じゃない事を証明した。室内の数名に動揺が走るのが伝わった。

 中には恐らく遺族の方も居たんだろう。その遺品を見て泣き崩れる人もいれば、茫然自失になって言葉を発せなくなる人もいた。


『手を汚さず手に入る幸せなんて幻想だ。こうしてこの世界が消えていないのは誰かが『犠牲』になっているからだ』


 目をそらしたくなる光景に胸が苦しくなる。

 だけど、こればっかりはちゃんと自分の脳にやきつけないとダメだ。


 顔も知らない誰かが、もう二度とこんな思いをしない為にも。

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