第11話 お前は強いが、無敵じゃない。もっと人を頼れ。

 図書室と高をくくっていた場所は、完全秘匿の実験施設だった。


 一行はその惨状に滅入ってしまっている。


 当然だ、自分達の知らないところで同族がモルモットのように扱われていたんだ。正気の沙汰じゃない。

 俺だって例外じゃないさ。こんな命を粗末に扱うような光景、許せるわけがない。まおうサマ達がいなければ間違いなくこの城を消し去っていたはずだ。


「この国は一体どうなっている!? 倫理というものは存在しないのか!?」


 魔王の怒りに口を閉ざすしかない自分。

 

 光が差す場所では俺達が知っている日常が繰り広げられていたとしても、その光が無くなってしまえばたちまち法は消えうせ、ある種地獄が始まる。

 それが世の摂理だ。


 それを知らなかった。で済ませられる程、俺の神経は図太くない。

 俺が彼らを呼んで、俺が彼らに『選ばせる』という決断をしたんだ。責任は取らなければならない。


 だからこそ、この失態を俺は許せない。


 道を間違ったのか? それとも、ハナから俺達ははめられていたのか?


 そもそもなんでシステリア城の地図が市販で売られている? しかもなぜ俺はそれを鵜呑みにした?


 たった一つ安全なルートを見つけられた程度で、何で安心しきっていた?

 考えれば考える程、自分に嫌気がさしてくる。


「自分を責めるな。用心深いゴシュジンのことだからそれなりの準備はしてきたのだろう。しかし、それだけでは足りなかった。それだけのことだ」


 ……何をやっているんだ、俺は。

 全ては俺が選んだ結果だろ、リスクも承知でこの面々を連れ込んだ。

 彼らも、もう二度とないかもしれない『平和』って奴を実現する為に、彼らは踏ん張っているんだ。


「すみません、気が抜けてました。もう大丈夫です、先を急ぎましょう」


「助かる」


 まおうサマは一礼した。

 俺のことなんてお見通しなんだろうか。わからんが、なんとかワンチャンスをもらえた。

 もう二度とこんなヘマはしない。


 そんな時、誰かに肩を掴まれた。振り向くと、ソウさんがいた。


「お前は一人であれこれ考えすぎだ」


「へ?」


「顔を見ていればわかる。何かを覚悟しているみたいだが、それは今必要なものじゃない」


 意味深な回答についていけず黙ってしまった。何か一言言わねば、と考えあぐねている間にソウさんがまた口を開いた。


「せっかく俺達ソウとジュラという魔王軍屈指の近衛兵がいるんだ。存分に使え」


「ソウと同意見だ。有用な仲間は多いほうがいいだろう」


 ソウさんは忠告してくれたんだ。

 彼らは歴戦の勇者だ。死地だって俺よりも遥かに経験している。

 俺もそれなりの経験をしているが、彼らの方が圧倒的に経験値が高い。

 

 そんな面々がいるのに、頼らないでどうする?

 全部を一人で決める必要はない。仲間を頼れ。


 彼の忠告は俺の心の臓へと突き刺さった。


 頬をピシャリと叩き、気を取り直す。

 メンバーへ再び音頭を取った。


「先へ進む前にここらを散策しましょう」


「先を急がないのか?」


 ソウさん達の問に首を横に振る。


「ええ、さっきのは撤回させてください。まずは、自分達がどういう場所にいるのかを知るべきです。俺達はこの場所について何もしらない。無暗むやみに動くのは危険です」


 それに、全貌がわかれば今後の対策もしやすい。

 俺達はこの図書室が実験施設だという情報を手に入れている。


 何の為にここが作られたのかさえわかれば、システリア城の役割が見えてくる。

 只の王宮じゃないのは明白。きっと何か目的があるはずなんだ。


 それは、今から目指す『地下室』と『英雄の間』に繋がるヒントになるかもしれない。


「なので、皆さんには申し訳ないですが協力してもらいたいです。それに魔族が存在していた以上、呼び出す理由があるはず」


「確かに。なぜ人間界に魔族が出入りできるような施設があるのかが気になる。そんな場所、世界中探し回っても見つからないだろうに」


 皆納得してくれている。

 あとは着々と進めていくべきだ。冷静に行こう。


「今から30分後この場所で落ち合いましょう。その時に何か知りえたことがあれば共有する形で」


「任せよ。ワレは調べものが大好きだからな」


「ゴシュジンにばかり働かせてはしもべとして名がすたるからな。ワシに身をどんと預けい」


「その時は頼むよ。では、それまでは各自調査ということで――解散」



 あれから俺はある場所を目指していた。

 魔物が現れた時から気になっていた場所だ。それは、


「召喚術式……なぜこのバカでかい本棚に一冊ずつ収納されているのか」


 不思議で仕方なかった。

 本来、召喚術式は高等技術であるゆえ複数人の協力と数枚の紙が必須になるが、さすがに何千何万と本に保管される程複雑なものは存在しない。

 それに、召喚術式は一個の術式で複数体の呼び出しが可能。ここまで保管される理由がないんだ。


「中身を見てみるしかないか」


 何重にも消毒し、一冊の本を取り出すことに成功した。

 罠が張られていないか検知をしながら本を開くが、どうやらそんなこすい真似はしていないらしい。


 ページをめくっていく。しかし、何の変哲もない召喚術式しか書かれていない。


「いやいやいや、それはないだろさすがに。ただの術式でこんな無限に何かを呼び出したりなんかできるはずないって」


 絶対何かあるはずだ。そう疑ってしかるべき状況が多すぎる。

 大体、何から何までおかしいんだ、この城は。

 そもそも人がいないこと、俺の人体検知に引っかからなかったモンスターたちがいたこと。しかも、なぜか人間サイドが魔族を召喚することに成功していること。

 

 この世界で一体なにが起きているってんだよ……


 何かとんでもなく深い闇の底に手を伸ばしているような。

 そんな感覚に襲われながら、それを打ち消すように調べ続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る