第9話 潜入、システリア城
一週間。
長いようで短い時間、ひたすらまおうサマとの修行に励んでいた。
気が遠くなるような詰め込み作業も終わって、今俺達は宿屋の一室に集まっている。
「ワレが教えることはもうない。貴様が人間界で最も強い。ワレが保証する」
「……ありがとうございます」
ふと過去を振り返る。
強くなった、気がする。
というのも、この一週間実はまおうサマ以外と手合わせはしていない。
まおうサマ曰く、ワレ以外が戦えば一瞬で塵になるから。だそうだ。
実感がねぇ…… といいたいところだが、きっとこれは事実なんだろう。
腐ってもSランクパーティのアイツ等と比較すると、まおうサマはスキルの使い方から駆け引きまでレベルが違いすぎた。そんな人と対等に渡り合える実力を持てば、自分の立ち位置もさすがに理解する。
まおうサマの言う通り、人間とだったら誰にも負けない。不要な謙遜はここで捨てる。
ひとり覚悟を決めていると、宿にいる面々が円卓のテーブルを囲いそれぞれの椅子に腰かける。
彼らの様子を見てやり残したことがないと判断したまおうサマは、開始を促した。それに
「さて、皆さん。ついに準備が出来ました。お待ち頂きありがとうございます」
皆が一斉にこちらを向く。
まずは、まおうサマ達を連れて来た一番の理由――システリア城侵入から話を進めていく。
「今回の作戦は次のフェーズで行います」
作戦の目標を用意した巨大な白板に書いていく。
①今より1時間後に輸送船が到着するので、荷物に紛れる。
②システリア城の倉庫に到着後、システリア城の外れにある図書室を目指す。
③図書室に到着次第、隠し部屋から地下道へ潜入。
④地下道から『英雄の間』を目指す。
⑤英雄の間に存在する『教育機関』を処分する。
「今回の目的ですが、最優先はこの国の中枢――『教育機関』の破壊です」
教育機関っていうのはシステリアが代表する、文字や歴史、数式の計算……そしてスキルの扱い方を世に広める人達を取りまとめる組織のことだ。
大国となれば当然だが、何十人単位の小さな村でも大抵はひとり先生が派遣される。その先生は全て教育機関が用意した試験をパスして俺達に知識を授ける。
それはすなわち、俺達の学んだ知識の源泉は全て教育機関にあるということだ。
なら、この魔族と人間が争うきっかけになったのも全てこの組織が原因なんじゃないか。そう考えた結果、この作戦が決まったわけだ。
他の可能性も考えるべきだが、現実と違う認識を教育によって受け付けられている人間が大半。それにそういう輩が率先して戦をおっ始めている以上、早めに手を打つに越したことはない。
「前に言っていた大元を潰す、という奴だな」
「はい。なので、それ以外の不要な行動は『なし』でお願い致します」
「敵側から仕掛けて来た場合は?」
「その場合は俺が始末します。まおうサマ達は、やむを得ない時以外はスルーでお願い致します。基本的に俺が主犯となるようにお願い致します」
各々は何の不満もなく承諾してくれた。
勿論、下調べして接敵しないルートをあらかじめ用意しているので心配は無用だ。けど、用心に越したことはない。
潰せるリスクは徹底的に潰す。
「最後に何か質問は?」
おさらいも兼ねて尋ねてみたが、三人とも首を横に振った。
なら、これで出来る準備は全て完了だ。後は、現地で落ち合うだけ。
「では、今から各自持ち場を目指してください。もし、トラブルがあったらこれを使ってください」
そう言って、俺は懐から3人分のあるものを取り出した。
「これは――お札?」
「救難信号みたいなものです。敵を探知する度に魔力を生成し、許容量を超えると破裂する仕組みになっています」
「破裂したら、ゴシュジンの所に何らかの信号が行くというわけか」
「そういうこと。後、これはちょっとした攻撃サポートも兼ねているんだ。だから絶対に落とさないでくれ」
「了解」
かくして、俺達はそれぞれが決めた持ち場へ向かった。
どっと疲れが出てしまい、椅子にもたれてしまう。誰も見てなくてよかった。
ようやく一息がつける。それと同時に深く安堵する。
そう、ここまでの道のりは全てギャンブル。
まおうサマ一派から信用を失えば何をされるかわかったもんじゃないし、下手したら人間嫌いの竜が暴れ散らかすことだって普通にあり得る。
彼らが極度の人間嫌いなのも理解しているから、あらゆる箇所に爆弾が潜んでいる可能性はあった。
城下町に訪れた理由は、人間が身近な存在で自分達と変わらないことを理解してもらう為だったが、それが効いたか?
答えは本人にしかわからない。が、少なくとも今日この日に作戦開始までこぎつけたんだ。大成功には間違いないだろう。
俺は彼らに審判を下してほしかった。人は救うに足りる存在なのか。
同じ志を持つものに裏切られた。それは自我を壊すには十分なものだった。
表には出していないが人への関心というものが極端に減っている。並みの人間なら今頃復讐駆られるはずだけど、今の俺は裏切られた仲間のことすら意識しないと思い出せないくらい。もちろん吹っ切ったわけじゃない。単純に考えても負担にしかならないから脳が勝手に封印したんだと思う。
そんな今の俺が抱えるのは、恐怖心と怒りで出来上がった悲しみと疑心暗鬼。
騙されているんじゃないか、また裏切られるんじゃないか。そんな可能性をどうしても考えてしまう。最愛の妹にすら会うのが怖い始末。
そんな状態の俺が、『人間』に対してまともな判断ができるだろうか。無理だ、出来る訳がない。
でも、俺はこの世から争いは無くしたい。だから、どうしてもその答えを知らなければいけなかった。
すべて、自分のわがままだ。
こんな他の種族を巻き込んでいるのも、全ては自分以外の誰かの答えを知りたかったから。
争いというものを無くす為、何を消すべきか?
旅に出てずっと考えて来たけど、未だに明確な答えは出ていない。それでも俺は――
「……考えても仕方がない。今は目の前のことに集中しよう」
無理矢理思考を止めて、持ち場を目指す。
しばらく目的地を目指すと、荷物を運ぶ別のギルドメンバー一行の姿が。あれがターゲットか。
「――形質変化」
体を気化させ、荷物の隙間へとねじ込むことであっさりと関門を潜り抜けた。息をひそめて時が来るのを待つ。
後はこの貨物船が無事城へ着くことを祈るだけだ。
『全てはあなたの思うままに』
「……ああ、最初からそのつもりだよ」
覚悟を決めろ、キール・シュナイダー。
お前の求める答えは、すぐそこだ。
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