第7話 ようやくワシの出番という訳だな!! お前らの街までひとっ飛びしてやる!!

「やっとワシの出番だ!!」


「突然どうした」


「魔王とばっか話しててつまらなかったのだ。ワシもゴシュジンと遊びたい!!」


 遊びじゃねえよ、世界平和がかかってるんだぞ。

 天を見上げる俺をよそに、ルンルン気分で竜は城下町を歩く。


 俺の心境に反して街並みはにぎやか、お祭り騒ぎ。心労で干からびた俺を、仕事に追われる人達がすうっと通り過ぎていく。糸を縫う隙間もないくらい密集しているはずなのに、誰もクラッシュせず働きアリのように各自労働を全うしている。


 皆ごったがえした環境に麻痺っておかしくなっちゃったんだね。お勤めご苦労様です。


 そういうわけで、本日は快晴。

 システリアは平和です。


「このパァンというのは何だ? とてもうまそうな匂いがするぞ!!」


「ワレも欲しい!! ワレにもちょうだい!!」


 皆さん、とても楽しそうで何より。まぁ、元より目的はこの為だしパンを一つずつ買ってやる。


「んまぁ~~~い!!」


 竜はよだれをダラダラと垂らし、狂ったようにパンをムシャムシャ食べていた。口元を拭いてやってる俺は最早保護者。人の視線が無駄に生暖かい。

 一方、まおうサマもパンを一口食べると無言でずっとかじりついて動かない。そのままモソモソと口を動かして見た目相応の笑みを浮かべてた。取り合えず第一印象はオッケーか。


「気に入ったようでよかったよ」


「ゴシュジン、最高にウマイぞ!! どうしてくれる!!」


「また買ってやろうか?」


「ホントか!!」


 ニカッと笑う竜にちょっと吹き出した。

 それにしても不思議なもんだ。あの日、この竜に喰われかけて死にかけたというのに、何の間違いか一緒に街で食べ歩きをしている。それもラスボスと教えられた魔王と側近さん二名を引き連れて。


 ここに至るまでに数々の準備をする必要があったけれど、この人たちの持つどんとこい精神のおかげで、とんとん拍子に話は進んでいった。


 結果から言うと、俺はまおうサマとの交渉に成功した。

 始めこそ難色を示していたが、飯がうまいですよ。と言うと即答で『いく!!』で試合終了。

 ……交渉って言えるほどじゃないな、これ。


 もちろん、ここに来るにあたって皆さんには最低限の擬態はしてもらっている。

 魔族には角、とがった耳、人間と異なる肌という見つかれば一瞬でバレる特徴がある。そのまま人前に出れば間違いなく阿鼻叫喚になるからな。竜なんてなおさら。


 そういう訳でまおうサマは10歳前後のおぼっちゃま。

 側近さんの一人であるソウさんは長身細身のイケメン盗賊、もう片方のジュラさんはガタイが凄まじいので、見た目通り無骨な剣士という設定になってもらっている。


 一番信じられないのがこの竜。

 知り合ってずっと人の姿になってたが、緊迫していない今、もう一度見てみると本当に納得できない。


 切れ長の目に燃えるような赤髪を腰まで伸ばした、無駄な脂肪が一切見えないクールビューティ。全身を真っ赤な革製の服で統一しているからか、より一層えっ……ゴホン。とても綺麗に見えました。


 俺、やっぱ疲れてんのかな。


「お前ってそんな見た目だっけ?」


「そうだぞ。惚れたか? おまえらで言う結婚とやら、してもいいぞ」


 納得いかん。マジで納得がいかん。

 あと御三方。そんなにニヤニヤしないでください。なんかメチャメチャ恥ずかしいので。

 

「……ほんと、ずるいわ」


「何か言ったか?」


「いいや、なんでも」


 この光景を知ってしまうと、どうしても思うことがある。


 確かに姿形は違うけど、同じものを食べて感動するし、同じように楽しむ。嫌な事があると怒ったりもする。

 誰かがいなくなると、悲しむ。


 こんなことすら俺達は知らなかった。いや、知ろうとすらしていなかった。

 俺達が学んできた常識へんけんというのは、大きな過ちがあるのかもしれない。


 まおうサマがつぶやいた。


「もっと知りたい。色んなところにいってみたい」


「任せてください。案内しますよ」


「助かる!!」


 こちらこそ、同じように思ってくれて助かりますよ。


 それからは街のいろいろな所を回った。

 竜が勝手に道を飛び出して通行中の馬車を邪魔したり、まおうサマは風船を見て大はしゃぎしたりしてどっかに行こうとしたりで大変だった。

 ジュラさんやソウさんも、武器屋を見つけると人間製の武器に夢中で彼らなりに楽しんでくれていた。


 その時、ジュラさんが立ち止まる。


「ジュラさん。いいものありました?」


「ああ、コレはいい物を見つけた」


 そう指差したのは大きな棚にデカデカと飾られている一振りの斧だった。


「それはお目が高い!! それにしてもお客様、その形、歴戦の勇士と見ました。今ならなんと半額の400ゴールドでどうでしょう!!」


「なるほど、なら無理だ。金は持ってない」


「ぐぐぐ、本当なら帰ってもらうところですが貴方ほどこの斧が似合う方はもう現れないかもしれない。ほんとに、ほんっとうに涙をのみましょう。あなたにこの斧をプレゼントします!!」


「助かる」


「ズルいズルい!! ワレも武器欲しい!!」


「ヴェルさまの分は俺が買いますからね。安心してくださいね」


「ほんとか!!」


「え、ええ」


「これもいいな、あとこれも。しかし金がない」


「あげましょう!! 血の涙をのみます!!」


「買います。買いますから!!」



 ああ、俺の貯金持つかな。

 この日、俺は財布の中を見ることができなかった。

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