第6話 まおうとの愉快な対談
「貴様は、我らと敵対するか?」
剣先を喉元に当てられた。
咄嗟に首を守ろうとしたが、そんな事実はなく簡単に触れてしまう。それで理解する。
そうか、これが魔王の殺気。
さっきの茶番が嘘みたいに静寂。
全員が俺を見ている。指先から足元まで全て見られている。
俺は試されている。
張り詰めた空気は、いらん遠慮は捨てて腹を割って話す為の下準備。いつでもお前を切れる。それを暗に示している。
なら、俺がやりたいことは一つだけだ。
「一つ聞かせてください。魔王様」
「よかろう。申してみよ」
一呼吸を入れる。
「あなたは平和を望みますか?」
一斉にヤジが飛んだ。それもそうか。
気の遠くなるような時間、人間と魔王率いる魔族はずっと対立してきた。誰から仕掛けたなんて知ったことじゃないが、今こうして互いに忌み嫌っているのは確か。
そもそも国の教えで魔族は侵略者と教えられる位だ。相手方がどうかはしらんが、お互いに理解しあえているなら今さら俺達が出会ったところで、互いに警戒することはない。
悲しき悪魔の証明。
「人間という身でワレにそれを尋ねるか」
そんな立場からしたら何食わぬ顔で現れ、分不相応な質問をする輩を受け入れる訳がない。
もし、他に人間がいたら間違いなく俺のことを罵倒する。何を与太話している、さっさとそんなやつ殺せ。と。
外野は黙ってろ。これは俺が掴んだ機会だ。
「はい。そうです」
チャキリと小さな金属音が耳元で鳴る。誰かが剣に手をかけた。
怒りのまま勢い任せに俺へ切りかかろうとし――
「控えよ」
寸前で止まった。
兵士は何か言葉を残そうとしたがその圧力に耐えられず、悔しさを滲ませてゆっくりと引き下がっていく。その姿を一瞥して魔王は応える。
「ワレは平和を望む。昔から変わりない」
今度は見た目に違わない夢を願う子供の姿だった。
立場を捨て、力を捨て、仲間を捨て。身に付けたものを全て外した、裸の願い。少なくとも俺はそう見えた。
きっと嘘じゃないと思えるもう一つの理由、それは。
魔族と何度か戦ったことがある。
たかが数名の魔族に対し、人間達で構成された百人程度の組織はあっさり壊滅した。
あの時はアラン達がいたから最悪は避けられた。その中で恨みを募らせる奴も少なくなかった。それ以外の動機があったとしても、戦地に
「貴方がたから仕掛けなかったのはそれが理由でしょうか?」
「理解した。貴様か、兵から通達のあった魔族を切らぬ人間とは」
力が抜けた。そういうことか。
アイツらと共に旅をして、魔族から奇襲されたことがあっただろうか。ない。
魔族が人々を根絶やしにしたことなどあっただろうか。
少なくとも、この目で見たことがない。
この旅を続けていくうえで、ある可能性を考えていた。
ひょっとすると、魔族は争いを望んでいないんじゃないか。
竜と関わって確信に変わった。この仲の良さだ。竜が魔王軍を人間の国に連れていけば、簡単に落とせる。
ここにいる兵士だって、アラン達を除けば人間くらい簡単に倒せる。それ程種族の間には圧倒的な戦力差が存在する。
それなのに人間はまだ生き残っている、戦は続いている。
なにより、平和を望む時にこんなにも悲しそうな顔をする奴が争いの火種なんてあるんだろうか。
誰が悪いか、なんて問うつもりはない。それでも、この戦乱は誰かの欲望によって続いている。
この醜い争いは、誰かの欲そのものだ。
「回答ありがとうございます。俺も無益な争いは望んでいません」
「そうか」
「では、一番大事なのは」
「うむ。ここからだな」
お互いの問題は把握できた。
そう、ここからが一番の課題だ。それは
「俺達(ワレ等)をどうするか」
魔族達は基本的に争いを望んでいない。しかし、人間によって数々の拠点を襲われているはずだ。敵意がないなんてありえない。
一方で人間は魔族が人を襲うという常識を持っている。物心つく時から家族にそう『教育』されるからである。
一個の仮説。
お互いを陥れることを目的にする何かが暗躍している。
そいつらを根絶やしにすれば話は簡単だが、当のそいつらがどこにいるのか見当もつかない。
教育という根本で敵対意識を持たせているから。
それが正しいと何年、何十年と言われて育った人間が正義を盾に争いを始めている。魔族はそれを根絶やしにする。それが敵の狙い。
少なくとも黒幕の理想は今現在叶っている。
なかなかエグいことをするもんだ。
魔王は尋ねた。
「貴様の中で何かビジョンはあるのか?」
今度はお前が答える番だ、そういうことだろう。
わかっているさ。
「そうですね……ざっくり言うなら根本を根絶やしにする、ですかね」
「それは、どう実現するつもりだ?」
「例えば、魔王様ご一行を『システリア城』に連れておおいに暴れてもらう。とか」
「なかなか過激だな。そのシステリアとやらは間違いなく無くなるぞ?」
「国民が生きていればそれでいいかな、と」
「えらく淡泊だな」
「まぁ、こうみえて信頼していたパーティに裏切られましてね。人間というものに愛着がわかなくなっちゃいました。王族なんてもっとどうでもいいです」
「それもそうか」
あっさり納得された。多分竜から聞いたんだろうな。プライバシーはドコー!?
『あなたの
幻聴さんよ。久しぶりに現れたかと思ったら、とんでもないことをカミングアウトするな。
流石に冗談であってくれと言いたいが、このスキル無尽蔵にも程があるから信用しかできない。
というわけで。
ある提案をする必要がある。無茶苦茶な要求だ。
顔が引きつってようが無理矢理笑顔を見せるんだ。素敵なもんだと自分を騙せ。
腹を括って、内に秘めた提案を表に出す。
「……ひとつ、『潜入作戦』といきませんか?」
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