ボーイミーツガール その2

 右の脇腹を抑え、左脚に体重を乗せないように、ぼろぼろの身体を引き摺って歩いた。


 通行人が自動的に脇に逸れていく。

 驚きはしても誰も声を掛けようとしないし騒ぎもしない。

 コスプレと思われているのかもしれない。

 見て見ぬふりをして通り過ぎていく東京の冷たさが今は助かっている。


 ひっきりなしにサイレンが聴こえてくる。

 渋谷に向かっているのだろうか。パトカーにだけは注意しなければならない。

 流石に警察に見つかったら面倒になる。


 交通量の多い大通りを避け、車が通りにくい細道を選んで歩いた。

 何とか今日も生き延びれた。が来てくれなければ死んでいた。

 援軍は望めないと言っていたくせに。

 おかげで命拾いしたが。


 これまでも命を諦めた瞬間が何度もあった。

 今日ここで死ぬんだ、が今日もあった。

 

 あと何回、こんな事が続くのだろう。

 あと何回、こんな奇跡が続くのだろう。

 あと何回、あの時死んでいればと悔やむのだろう。


 心が砕けてしまいそうだ。


 身体中が痛みに悲鳴を上げている。

 顔を上げているのも辛くて足元を見ながら歩いた。

 家に戻るのは無理だ。通ってきた道に公園があった。そこで身を潜め、傷が癒えるのを待つしかない。

 踵を返し、来た道を戻った。


 視界が赤く染まりだした。

 まずい。鎧を纏っていられるのはここまでだ。

 装甲がぼろぼろ剝がれ落ち靄になって消えていく。


 ふとスニーカーが視界に入った。

 女性の脚。立ち止まって動かない。

 ゆっくり視線を上げた。

 脚から腰へ、胸の前で組まれた手へ、そしてぎゅっと目を瞑った顔へ。


「神様、お願いします。どうか、タオを守ってください」


 全身から力が抜けていくのを感じた。

 その時の感情を何と呼べばいいのか分からない。

 ほっとしたような気もするし、悲しくなったような気もする。


 目の前で祈りを捧げる明を、太鳳はただ黙って見ていた。

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