ボーイミーツガール その1

 苦しい。

 学校の体育くらいでしか運動なんてしないから直ぐに体力は底をついた。

 脇腹が痛い。靴擦れして踵が痛い。

 身体中の汗腺が開き、止めどなく汗が流れ、シャツはぐっしょり濡れている。


 六月の終わり、夜でも三十度を超えている。熱中症になってもおかしくない。

 だがそんな事を考える余裕が今の明にはなかった。


 白金台から目黒までずっと走ってきた。

 中目黒にある海月家までまだ三キロ近くある。

 この辺の地理に詳しくないから道路標識とスマートフォンの地図を頼りに走った。


 一刻も早く太鳳に会いたい、その一心で明は足を動かした。


 大丈夫、太鳳は渋谷にいない。

 きっと家でお父さんとお母さんと一緒に食卓を囲っている。

 チャイムを鳴らせば太鳳が出てきて、くたくたの私を見て驚いたような呆れたような顔をしてくれるんだ。そうに決まっている。

 そうやって自分を励まし続けないとひっきりなしに聴こえてくるサイレンが嫌な想像を掻き立てくれる。


やがて細い路地に入り、ついに足が止まった。

膝に手をつき肩で呼吸をした。汗が輪郭をなぞり地面に落ちていく。


明は目を閉じ、手を組んだ。

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