騎士 その7
ああああああっ。
突然、耳をつんざく金切り声が辺りに響いた。
人の声ではない。遠くに逃げてくる人々が見えた。
建物の陰からいきなり巨体が飛び出し、大剣で次々と人々を薙ぎ払った。
何だ、こいつは。
数百メートル離れた距離からでも分かる四、五メートルはありそうな巨体。
白い鎧を纏ってはいるが、手足が異様に長く人とかけ離れた体躯をしている。
まるで獣だ。獣が鎧を着ている。
鍵はこいつだった。
ああああああっ。
鎧の獣がこちらに気付き、威嚇するように吠え、走り出した。
放った矢が尽く躱され、まさに獣の如き速さであっという間に距離を詰めてくる。
獣は高く跳び黒騎士目掛け大剣を投げた。大剣が地面に突き刺さり、まるで爆発したような衝撃音が轟いた。地面がえぐれ、周囲のガラスが割れ、路上に止めてあるトラックが風圧で吹き飛んだ。
地面に突き刺さった大剣が靄となって消え、着地した獣の手に戻った。その大剣を間髪入れずにまた投げた。
靄化していた黒騎士が実体化し、視界が戻って最初に目に飛び込んできたのは獣が投げた大剣の切先だった。
大剣はビルに撃ち込まれ、隣接しているビルをも貫通し、壁を破って外へ突き抜けた。
鼻根部から僅か数センチ。大剣が顔面に突き刺さる瞬間、黒騎士は再度靄化し串刺しから逃れた。
無意識の行為だった。幾度となく死線を超えてきた経験がそうさせたのか、目に映った情報が脳に送られる前に靄化していた。
しかし次に実体化した時には今度は獣が目前まで迫っていた。
行動が読まれている。
既に大剣は獣の手に戻っている。繰り出される斬撃を全身で避けた。
獣の身長ほどある巨大な剣を受け止めるのは不可能だ。
獣の懐が遠い。
大振りの大剣なのに距離を詰める事ができない。射程が違い過ぎる。
獣の猛攻に耐え切れず再び靄化した。
無理だ。終わった。
さっきは運よく避けられたが今度は確実に実体化したところを仕留められる。
無駄な足掻きと分かっていても死から逃れたかった。
いつも死にたいと思っているくせに。
次、視界が戻った時、それがきっと最後に見る光景になる。
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