騎士 その5
建物の屋上から屋上へ伝って黒騎士は走った。
道路を挟んだ向かいのオフィスビルに白騎士に襲われる人々の姿が見えた。
黒騎士の手にかかった靄が槍へと変貌し、渾身の力で投げつけた。
槍はガラス壁を突き破り、白騎士の胸を貫き壁に磔にした。
槍を抜こうとする白騎士の頭部を目掛けもう一投、兜が粉々に砕け、青い光子が溢れ出し、白騎士の腕がだらりと下がった。
今度は地上から悲鳴が聴こえ、そこを目掛け屋上から飛び降りた。
剣で白騎士の身体を縦に斬り割いた。
高層ビルの上階のガラス壁が割れ、人が落ちるのが見えた。
ビルまで走り、高く跳んだ。ガラス壁に槍を突き刺し、柄を踏んでさらに跳び、割れたガラス壁から中へ侵入した。
商業フロア。
店舗はどこも荒れ果て死体と血の海になっている。
やけに静かだ。
生存者の姿も白騎士の姿も見えない。
剣を具現化し、慎重に足を進めた。
「ひっ」
物音がした方に剣を向けた。
そこにいたのは若い女だった。生存者がいた。
ここの店員だろうか、崩れた店舗の売り場に震えながら身を隠している。
気を緩ませた瞬間、頭部側面に強い衝撃が加わり壁に頭から激突した。
女が悲鳴を上げる。
意識が飛んだ。手から落ちた剣が靄になって消えた。
また頭部に衝撃が加わり、咄嗟に腕を前に出して頭を守った。
鉄球みたいな拳が次から次へと飛んでくる。鎧にひびが入る音がした。
殴られる瞬間、全身を靄に変えた。飛んできた拳が壁を砕いた。
実体化し横へ逸れたが、首根っこを掴まれ、穴の開いたガラス壁からビルの外へ放り投げられた。
風切り音が耳をつんざく。
地面に激突する瞬間、全身を靄にして衝撃を消した。
直ぐさま実体化し横へ跳び退いた。そこへ大槌が地面を叩いた。
まるで大砲が着弾したような衝撃だった。
アスファルトが隆起し、破片が飛び散る。
土埃が収まると、そこから大槌を携えた白騎士が姿を現した。
他とは違う異形の鎧を纏っている。
大槌は靄に包まれ剣に変わっていく。黒騎士も剣を具現化した。
「生きているか」
骨伝導イヤホンから老紳士の声。
「ロンドンからの報告だ。異形の騎士を殺したら扉が閉まり、騎士が全て消えたそうだ。そいつが鍵の可能性が高い。異形の騎士を捜し出し、始末するんだ」
その騎士なら今、目の前にいる。
互いに一歩を踏み出した。徐々に近づく両者の距離。
同時に剣を振りかぶり、同時に振り下ろした。
火花が散り、剣戟が響く。
鋭く重たい斬撃の応酬。縦に、横に、斜めに、縦横無尽に剣を振り、弾かれ、打ち合う速度が徐々に加速していく。
およそ人間が付いていける反応速度ではない。
黒騎士の剣が弾き飛ばされ、すかさず全身を靄に変えた。
白騎士の振り下ろした剣が空を切る。
その背後で実体化した黒騎士が剣を振り下ろした。白騎士も後ろを振り向きながら水平に剣を払い、ぶつかった衝撃で両者の剣が折れた。
次の剣を実体化する前に白騎士に顎を殴られ、腕を取られ地面に叩きつけられた。
白騎士が槍を具現化するのを見て靄化し姿をくらました。
だが白騎士は数メートル後方で物音がしたのを聴き逃さなかった。
振り向きながら音のした方へ槍を投げた。
槍は壁を砕いただけでそこに誰もいなかった。
囮だった。
肩甲骨から胸部へ槍が貫いた。
よろめき、空を仰ぐと剣を構えた黒騎士が落下してきた。
剣を振り下ろし、白騎士の首を斬り落とした。
青い光子が噴き出す。
首を失くした白騎士の身体が崩れ落ちた。
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