騎士 その4
どこへ逃げたらいい。どこまで逃げたら助かるんだ。
悲鳴から遠ざかってもまた悲鳴が聞こえてくる。
地上も地下も建物の中にもそこら中に奴らはいた。
誰もが死にたくない一心で渋谷の街を逃げ回った。
転がる死体、血の海、壁にへばりついた肉片。
極度の緊張感と恐怖で気が狂いそうになる。
あの白い騎士は一体何なんだ。
身の丈二メートルはありそうな巨体を純白の鎧で覆い、頭部をすっぽり覆った兜で素顔は見えない。
鎧を着込んでいるとは思えない身のこなしの軽さ、巨大な剣や槍を軽々と振り回す怪力。高さ五メートル以上ある歩道デッキへ一足跳びで上ったのを見た時は我が目を疑った。
警察官が白騎士に向けて銃を発砲した。
だが弾は白騎士の身体をすり抜け、その後ろにいた人に当たった。
勇気ある若者が白騎士に立ち向かい、金属バットを振るったが同じようにすり抜け、白騎士の振るった剣は若者の身体を貫いた。
白騎士の持っていた剣が靄に包まれ、巨大な弓矢へ変貌した。
空に向けて放たれた矢はミサイルの如き速さで飛んでいき、遥か上空に浮かぶヘリを射ち落とした。
化物。
遠くから逃げてくる人々の背後に白騎士が見えた。
全力で逃げた。
後ろから断末魔が聞こえてくる。恐怖で振り向けない。
鎧の軋む音が徐々に大きくなり、白騎士が近づいているのが分かる。足がもつれ、転んだ。
そこでようやく振り向くと、返り血で赤く染まった白騎士が目前まで迫り剣を振りかぶっていた。
死を悟った瞬間、白騎士の両腕と首が斬り飛ばされた。
切断面から青い光子が噴き出し、白騎士の身体が崩れ落ちる。
幻想的な光景だった。青い光子が舞う中に黒い騎士が立っていた。
手には剣が握られ、その刃に青い光子が付着している。
黒騎士はこちらに目もくれず背を向け走り出した。
手すり壁を伝ってあっという間にビルを上りつめ、見えなくなった。
そのさまをただ啞然としながら見つめていた。
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