騎士 その2

 スマートフォンが震えた。真希からのチャットだった。

 自宅の自室でテスト勉強をしていた明はスマートフォンを手に取り、画面に映る文字を読んだ。


 ――みんな今どこにいる?


 何でそんな事を聞くのか、と疑問にすら思わなかった。

 明は「うち」と返し、咲からも同じ返答がきて、遅れて祥子の返答がきた。


 ――アタシもうちにいる。今同じ事聞こうと思ってた。渋谷のだよね?


 渋谷? 


 ――渋谷がどうかしたの。

 ――今、渋谷で鎧着た奴らが現れて人を殺しまくってるって。


 明はリビングに行きテレビを点けた。

 いつものゴールデンタイムに流れるバラエティ番組が緊急特番に切り替わっている。アナウンサーが原稿を読み上げた。


 渋谷に謎の武装集団が突然現れ、鎧を身に纏い、剣や槍等を所持し、無差別に人々を襲っている。

 既に多数の死傷者が出ている模様。

 世界各国でも同様の事件が発生しており、テロリストからの犯行声明は今のところ確認されていない。

 影との関連性は不明。


 映像がスタジオから航空中継に切り替わった。

 ヘリで上空から渋谷の夜景を映している。

 この煌びやかな光の中で大量殺人が行われているのが俄かに信じ難かった。

 突如、画面が激しく揺れた。

 一瞬機内の映像が流れ、鋭利な刃らしき物が下から突き刺さっているのが見えた。

 悲鳴と衝撃音が短く響き、映像が途絶えた。


 心臓が早鐘を打った。

 手に持っていたスマートフォンが鳴り、明は驚きびくりと身体を震わせた。

 画面を見ると母の奈都子からだった。


「もしもし」

「もしもし、アキラ? 今どこにいるの」

「うちにいるけど」

 奈津子のほっとしたような息遣いが聴こえた。


「渋谷の事はもう知ってる?」

「うん、今丁度知った」

「分かってると思うけど渋谷には絶対近づかないでね」


「お母さんは今どこにいるの」

「私は原宿の本店にいる。今夜は帰れそうにない。ヒカリエに入ってるお店の社員と連絡が取れないのよ」

 明は息を呑んだ。


「それじゃあ、もう切るわね」

「うん、お母さんも気を付けてね」


 奈津子との通話を終えると直ぐ太鳳に掛け直した。

 しかし回線が混雑しているのか繋がらない。

 美里にも掛けたが同じく繋がらなかった。


 ――今どこ? 渋谷にいないよね?

 返信が来る訳ないと分かっていてもメールを送らずにはいられなかった。


 明はマンションを飛び出し、白金台駅へ走った。

 駅は大変な混雑だった。

 渋谷駅への運行は全て中止、南北線と三田線も一時見合わせとアナウンスが流れている。バスもタクシーも長蛇の列だった。

 明は駅を出て再び走り出した。

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