騎士 その1

 生涯、今日という日を忘れる事はないだろう。

 グリニッジ標準時九時十四分、日本標準時十八時十四分。


 鎧の影が出現した区域にいた世界中の人々が同時刻に「カチ」と小気味よい音が鳴ったのを聞いた。

 イヤホンで耳を塞いでいようが、近くで大きな音が鳴り響いていようが、なぜかその音をはっきりと認識する事ができた。


 どこから聞こえたのかと人々は辺りを見回す。

 今度は「ギイイ」と何かを引き摺るような音がし、そこで気付いた。

 これは鍵を解錠し、扉が開かれる時の音だと。


 ふと気配がして振り向くと、純白の鎧を纏った巨大な騎士が目の前に立っていた。

 その手には剣が握られている。

 あまりにも突然だった。

 悲鳴を上げる間もなく、これが影の本体だったと気付いた時には、既に身体を真っ二つに斬り裂かれた後だった。

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